シンプルな水色のワンピースを身に纏ったは待ち合わせの噴水まで小走りで急ぐ。




いつもなら時間より5分以上は早く着いているのに、今日は間に合いそうに無い。






眠れなかった…



イザークに嘘を吐いてしまった事…


アスランの真意が分からない事…



色んな想いが交錯して…頭が冴えてしまって…


なのに、考える事は何一つ纏まらない…解決しない。




気が付いたら朝日が差し込んでいて…


眠りが浅かった…


その所為で目の下が少し腫れていて…いつもより念入りにメイクをする羽目になってしまった。




















夢の終わりに




















「ごめんなさい…遅くなっちゃった…っ!!」



待ち合わせの場所にアスランは既に立っていた。



彼の前を通過する女の子達が頬を染めて視線を送る程にカッコいい彼…


立っているだけで目立つ彼…





「いいよ。いつもが先に来てくれてたしね。」




アスランがポケットからハンカチを差し出す。



「え…?」



「汗…。走って来てくれたんだろ?」



「あ…っ///」



夏の暑い日差しの中で必死に走って来た所為で、額には汗が滲んでいた。



「大丈夫…自分の…あるから…」















まずはその汗を引かせよう…と、近くの喫茶店へ入った。




「ついでだからここで昼食も済ませようか。、何がいい?」



「あ…じゃあ…今日のランチで…。」




「じゃあ、ランチを二つ。飲み物はアイスティーとアイスコーヒー。」




手早く注文を済ませたアスランがメニューを閉じる。








「何だか…新鮮な気分だったよ。」



「え…?」



「よく考えたら、俺は今までを待った事が無いんだなぁ…って。」





そう…


いつも待ち合わせ場所に着いたらが待っていて…


自分が彼女より先に来た事は一度も無かった。



どうしてだろう…


来ようと思えば、いくらでも先に来る事は出来たのに…



待ち合わせ場所で、何度も時計を見ながらソワソワしている彼女を見るのが好きだった。



だから、いつも彼女より後に来ていたのかもしれない。





「そう言えば…そうね…」




「一生懸命に走って来てくれるも可愛かった。」




そう言われ、頬が熱くなるのを感じる。


暑さの所為じゃない…


それは十分過ぎる程に分かっていた。


分かっていたけれど…











どうして今頃…そんな事を…言うの?














「どこか行きたい所は?」



食事を済ませ、外出た第一声がアスランのその一言。




「えっと…じゃあ…」



いつもなら迷ってしまってなかなか言い出せないけれど…



今日ばかりは人目に付く場所は避けたくて…




「映画…映画が観たいな。」



「映画ね。分かった。行こう。」



アスランもそれに簡単に応じる。






どこで誰に出会うか分からないから…



イザークは夕方まで家でゆっくりすると言っていたけれど。


もしも他の誰かに見られてしまって勘違いされたら困るから…。



とにかく長時間の移動は避けたいと思った。



















「どの映画にしようか…。」



「…コレがいいな。」



選んだのは無難にアクション映画。



普段、好んで観るのは恋愛映画とかだけど。



恋愛映画を恋人以外と観るなんて、私の中で許せなくて…



例えイザークがその手のジャンルが好みでは無くても…



だから、ここ最近は全く観ていなかったりする。










「はい。」



「え…あ…ありがとう…」




いつの間にかチケットを買っていたアスランがの分だ…と手渡す。



それを受け取り、はアスランの顔を見上げた。




懐かしい…あの優しい笑顔。


昔と変わらない笑顔が今、目の前にある。




















1人で過ごす休日というものは何とも退屈なものだ。



1人、街中を車で走るイザークは通りを歩く人波を傍観していた。



休日だけあって人通りは多く…車もいつもより多くて流れが悪い。




と約束している時間まではだいぶあるから…と街に出てみたものの、用事はすぐに済んでしまった。



他に予定も無い。



夕方まで帰って読書でもして過ごすか。








信号待ちで止まったのは映画館の前。



そう言えば…最近は時間も無くてと映画にも行っていなかったな…


そう思ったイザークは、今何を上映しているのか…と、劇場に目を向ける。





「……?」




見覚えのある後姿が…映画館の前にあった。



友人と映画でも観るのか…









そんなの元へ駆け寄り…チケットらしきものを手渡す人物に目を見開いた。




あれは…



アスラン…?





が約束していた相手は…アスラン…?








『友達と…出掛ける約束をしてしまってて…前からの約束だったから断れなくて…』







の透き通るような声が、頭の中でリフレインする。





を捨てた…昔の恋人…



親の決めた相手との婚約を結ぶ為、奴はを捨てた…。



愛情よりも…親の意向を選んだ…哀れな男…






それでもは…奴をなかなか忘れられなくて…


捨てられた事よりも…自分が奴に相応しい家柄では無かった事を悔やんでいて…





の美しさは他のどんな女にも引けをとらないのに。



むしろ、俺には以外の女なんて皆同じに見えるくらいなのに…。






自分の想いを貫くよりも、捨てた男の幸せを祈りながら身を引く…。



誰よりも…美しくて気高い女だと思った。



初めて…愛しいと想える相手に出会った…。








もしかしたらは…



俺の想いを受け入れてくれた後も、その気持ちを引きずっていたのかもしれない。



ずっと…そう思っていた。








目の前に映る光景が真実…



並んで館内へと消えて行く2人…。









体中の血液が逆流するように…沸騰するように熱い…










結局…あの男には適わないのか…?

















【あとがき】

あ〜あ…

結局ありがちなこのパターン…。

実はアスラクと見せかけて、そうでは無かったり…

未練タラタラです。

悪あがきもいい所?

ヒロインは押しに弱いので…どうなることやら。

基本的に「放っておけない」って心理が働きます。

このお話もそろそろクライマックス…なのでしょうか?







2005.8.5 梨惟菜









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