「どうしよっかな…。」
数日後、1人で街を訪れたは頭を抱え込みながら歩いていた。
イザークの誕生日まであと少し…
未だ、何をプレゼントとして贈ろうか決まっていなくて…。
色んなお店を巡ってみたけれど、どうしてもピンとくる物が見つからない。
イザークに似合う物は沢山あり過ぎて…余計に困ってしまう。
夢の終わりに
いつも同じ通りを歩いていても見つからない…よね?
そう思った私は、いつもとは違う通りへと入った。
一本通りを違えるだけでこうも雰囲気は変わるのね。
入った通りに立ち並ぶのは古びたアンティークショップ。
その独特の街並みに思わず目を奪われてしまっていた。
その時、一件のお店が視界に入って来た。
「時計…屋さん?」
ショーウィンドゥに置かれた古時計に思わず惹かれた私はその前で立ち止まる。
この世に存在して、何年になるのだろうか…。
それでも、その時計はしっかりと振り子を揺らし、時を刻む。
「気に入ったなら寄って行かない?」
「え…っ…?」
時計に魅入る私を店の扉から呼んだのは、私と同年代くらいの女の子。
「ちょうどお客さんも居なくて退屈してたの。ね、ちょっとだけでいいから、話し相手になってくれない?」
屈託の無い笑顔で微笑むその子はどこかミリィに似ているカンジがした。
「じゃあ…ちょっとだけ…。」
初対面の子にも関わらず、何故か入ってみたいという好奇心から、私はその店へと足を踏み入れた。
「祖父が経営してるお店なんだけど、たまに店番頼まれたりするの。」
はにかみながら彼女が出してくれたそれは冷たいアイスティー。
ちょうど少し、蒸し暑い外を歩いて来た私にはとてもひんやりと感じる物。
「あ…ありがとう。」
「こちらこそ。強引に誘ったりしてゴメンネ?」
「ううん。外、ちょっと暑かったから。」
そう言いながら、顔を見合わせてクスクスと笑う。
「私、ルナマリア・ホークよ。あなたは?」
「あ…私は・。」
「?もしかして…議員の…?」
「…えぇ。」
イザークやアスランほどでは無いが、の父も議員の1人で…
それなりに名は知れている。
自分自身は普通の子だとは思っているけれど、こうして名乗ると『議員の娘』という肩書きは付き纏うものだ。
「議員の娘って…もっとお嬢様してるのかと思ってた。」
「え…そう?」
「私の中のイメージでは…ね。」
こうして、相手が議員の娘であっても態度を変えない所がまた、ミリィに似ている気がして…。
何だか気持ちが軽くなる。
「折角だから…お店の中、見せて貰ってもいい?」
「勿論。古びた物ばっかだけど…。」
「そう?お店の雰囲気、私は好きよ。」
店内に所狭しと並べられた商品はどれも趣を感じさせる物ばかり。
それでも、ちゃんと時計として機能している。
たくさんの種類の時計が奏でる針の音が店内に響き渡り…
不思議な感覚に陥ってしまいそうな…変わった音だった。
「あ…腕時計もあるのね…。」
カウンターの隣のショーケースを覗くと、持ち運べる大きさの時計が並んでいた。
「腕時計は割と新しいのよ。…って言ってもひと時代前のだけど。」
その中の銀色の懐中時計に目が留まった。
「コレ…見せて貰ってもいい?」
「え…?コレ?」
指した物をケースから取り出したルナマリアの手の中で、時計はシャラン…と音を立てる。
時計に繋がれた鎖の音はまだ新しく、手の中に収めると丁度良い重みを感じた。
「綺麗…」
「気に入った?」
耳に当てると聞こえる秒針の音…
「うん…いいかもしれない…。」
再度時計を視界に入れ、その先にイザークの姿を思い浮かべた。
「コレ…プレゼント用に包装して貰ってもいいかな?」
「…いいわよ。待っててね。」
思わぬ所で彼に似合いそうな物を見つけたは、少し足を弾ませて店を後にした。
足取り軽く、いつもの通りへと帰って来る。
少し時計店に長居した為、少し陽の傾いた街は気温が下がっていた。
きっと…この時計ならイザークも喜んでくれる。
イザークは真新しい物よりも、少し使い込んだ物を好む傾向があって…
この時計を見た瞬間にピンと来た。
買ったばかりのプレゼントを抱え、家路へと急ぐ。
今日も忙しいイザークとの時間が取れるのは夕方の僅か1時間だけ。
早く帰って、プレゼントをしまって着替えなくちゃ…。
小走りで角を曲がったその時…
ドンッ…
「きゃ…」
倒れる…っ…
誰かにぶつかり、バランスを崩したは思わず反射的に目を閉じる。
しかし、次の瞬間に来ると予想された衝撃は無く…
代わりに、片腕と腰に人の手の感触があった。
「大丈夫ですか…?」
「あ…はい…すみませ…」
ぶつかった相手が支えてくれたのだと…
顔を上げてお礼を言おうとしたその瞬間…
時が…止まった気がした…
「あ…」
「…」
目の前に居るのは自分の良く知る人物で…
出来れば二度と…会いたくなかった相手…
私が初めて愛した…人…
「ごめんなさい…ありがとう。」
視線を逸らしてそう言うと、支えてくれた両手が肌から離れる。
1歩…距離を置いたその時、アスランが口を開いた。
「久し振りだな。元気そうで安心した。」
「…えぇ…アスランも…」
「最後に会ったの…1年くらい前だよな…?
同じ街に住んでるのに…案外会わないものなんだな…。」
「…そうね…。」
先日…あなたの横顔を見たばかりよ…
そう言った所で何が起こるわけでもなく…
ただ、虚しさを感じるだけだと思ったから敢えて口には出さない。
「私…急ぐから…」
「あ…あぁ…」
アスランの顔を見る事無く、逃げる様にその場を走り去った。
高鳴る胸の鼓動は走っている所為では無いと気付いていたけれど…
全力で走っているからなのだと、自分に言い聞かせながらとにかく走った。
「…っ…はぁ…はぁ…」
部屋まで一気に駆け込んだ私の胸は激しく上下していた。
普段、あまり運動はしない方だったから流石に応えたみたい。
ドアに凭れ呼吸を整えた後、持っていた鞄をベッドに放り投げた。
「…あれ…?」
あるべき荷物が一つ欠けている事にようやく気付く。
持っていたのは鞄と…プレゼントの入った紙袋…。
その紙袋が無い…
「あ…あの時…」
アスランにぶつかるまでは確実に持っていた…
それはハッキリと覚えている。
「プレゼント…か…」
紙袋の中から出て来た、丁寧にラッピングを施された箱…。
それを机の上へと置いたアスランは小さく呟いた。
7月のカレンダーを1枚捲ってみる。
「大事な…誕生日の贈り物なんだろうな…。」
箱を紙袋の中へと戻し、机の隅にそれを置いたアスランは窓から外の景色に目を向ける。
傾き始めた夕陽が街を赤く染め…
その赤がアスランの心を締め付けるように部屋を照らした。
【あとがき】
イザークが出て来ませんでした…。
困った困った…
現段階ではアスラン夢?
時計屋の娘っ子、別に誰とか考えなかったけど…
何となくルナにしてみました。
案外似合ってるかなぁ…と。
どうでもいい所にばかり気を配ってみたり…
角から来た人にぶつかるという典型的なパターンを何度も使ったり…
何てワンパターンな作者でしょう…。
もっと色々と考えて書きたいと思います。
2005.7.19 梨惟菜