『イカナイデ…』





叫んでも振り返らない後姿に涙を流し…


あの日…一つの恋が終わった…。





あなたからの一方的な別れの言葉で…
















夢の終わりに


























「……」




「う…ん…」



肩を揺すられ、深い眠りに誘われていた私は現実へと呼び戻される。


そっと…瞳に光を宿すと、視界に広がる銀糸…




「大丈夫か?随分とうなされていたが…」


「イザーク…」


目の前には、私の事を心配そうに覗き込む彼の姿。




「うなされてた…?」


「あぁ、悪い夢でも見たのか?」


「…ううん。大丈夫。」


「そうか…ならいいが…」



イザークは安心した様で…頬を緩めて私を腕の中に収める。



伝わる彼の心音…


凄く…落ち着くあなたの音…





「ごめんね…まだ起きるには少し早い時間だよね…」



抱き締められながら、壁に掛けられた時計に視線を向けると、時刻は朝の5時。


いつもの起床時刻より1時間も早い時間だった。



「いや…気にするな。せっかく早起きをしたんだ。今日は一緒にモーニングでも行くか?」


「本当?」


「あぁ。こうしてのんびり出来るのも久し振りだしな…。」



















「もうすぐイザークの誕生日ね。」


「…あぁ…そうだな…。」



イザークのマンションの近くにある小さな喫茶店…。


お茶をする時は決まってここに入る。


ここのコーヒーはとても美味しくて、イザークもお気に入りの店だった。






「何か欲しい物、ある?」


「そうだな…」


物欲に乏しい彼が欲しい物を口にした事は今までに無く…


…と言うか、自分よりも裕福な家に育った彼に欲しい物を聞くのも難しい。


案の定、迷ったように考え込んでしまった。




に任せる。」


「…え…?」


の気に入った物を贈ってくれ。」




そう言われると余計に困っちゃうんだけど…




「分かった…楽しみにしててね。」
















「じゃあ、仕事、頑張ってね。」


「あぁ。また連絡する。」





今日は朝イチで会議がある為、イザークとは店の前で別れた。


そんな彼の後姿に手を振りながら…昨夜見た懐かしい夢を思い出す。




あの日も…こんな風に…







「さて…と。」


イザークの姿が見えなくなったのを確認すると、私は家へと向かって歩き出した。



午前中に人と会う約束をしているから…一度帰って着替えないと。




















「じゃあ、イザークとのお付き合いは順調なんだ?」


「うん。まぁね。」




私の返事に嬉しそうな表情を見せたミリィは、レモンティーを口に運ぶ。


平日の午前中にしては人の多いカフェ…。


いつも2人で会う時はここで待ち合わせて、暫く会話を楽しむ。




私とは違い、既に専業主婦であるミリィは割と時間に融通が利くからと言って、小まめに会ってくれる。



「じゃあ…今度のの誕生日には指輪のプレゼントも期待出来るのかしら♪」



「…その前にイザークの誕生日なのよぉ…プレゼント、どうしよう…。」


ミリィの言葉に、再び思い出してしまい、頭を抱える。


「イザークって…何でも持っていそうでさ…何あげたらいいのか分かんない…。」


「確かに…ねぇ。」




よくよく考えたら、付き合って初めての誕生日。


彼と付き合い始めたのは、去年の彼の誕生日が終わった後だったから。




「私はちゃんと聞いたのよ?何が欲しい?ってさ。」


「で、返事は?」


に任せる…だって。」


「はぁ…逆に困った答えよね…。」


「でしょぉ?」





イザークだったら…何をあげても喜んでくれるとは思うんだけど…。



「まぁ、まだ1ヶ月近くあるんだし、ゆっくり考えたら?」


「…そうだね…。」


「そろそろ出ない?ちょっと買い物したいの。」


「うん、付き合う。」











ピルルルッ…



店を出て大通りを歩いていると、私の携帯が鳴る。


「電話?」


「ううん。メール、イザークから。」


「ホント、彼ってマメね。」



毎日決まってこの時間に届くメール。


いつの間にかそれが日課になってしまっていて…

そのメールをとても楽しみにしている。




「で?今日は?」


「…18時に迎えに行く…だって。」



付き合い始めた時にイザークが決めた一つのルール。



『どんなに忙しくても1日に1回は会って話をしよう』


そのルールは未だ破られた事は無く…


どんなに忙しくてもそれだけは決して欠かさない。


そうして、彼の顔を見て話をする度に惹かれていく。


彼の想いを感じる。


そんな今が幸せで…逆に不安になる事もあって…




今が夢みたいな時間だから…


夢はいつか覚めてしまうものだから…











「会計済ませて来るから、先に出てて。」


「うん。」


雑貨屋で新しい食器を手に取ったミリィはレジへと並ぶ。


一応、プレゼントになる物は無いかと店内を見て回ったが、目立って気になる物は無く…


店のドアを開け、通りへと出た。







「…あ…」



フワリ…と…


車道を挟んで向こうの通りを歩く少女の姿…


ピンク色の長い髪がフワフワと風に靡いて…


私の胸を締め付けた。




その隣を歩く青年の姿に…





「アス…ラン…」




ズキン…ズキン…


同じ街に住んでいるんだから…どこに居たっておかしくはない。


むしろ、今まで見掛けなかった事の方が不思議なくらいだ。


柔らかく微笑む…懐かしいその顔…。


少女の腰に添えられた、長い腕…


まるで絵になる2人の光景が眩しくて、目を逸らす事が出来ない。





、お待たせ!」


「…あ…っ…うん。」


ミリィの声に我に返った私は、慌てて2人に背を向ける。


「行こう。」


「え…うん。」


ミリィに先立って、彼らが向かった方向とは逆に歩き出す。


早くこの場から離れたい…

その一心で、いつもより足早に歩いた。




















、お待たせ!」



少し離れた場所から聞こえたその声…


その声よりも、発した内容に意識を取られたアスランは咄嗟に振り返る。




長い…赤毛の少女…






彼女を見るのは一年振りだろうか…


既に背を向けてしまっていた彼女の顔を見る事は出来なかったけれど…


という名前…その後姿…


俺が見間違う筈は無い…。


間違いなく彼女だ。





「…アスラン?」


「え…?」


「どうかなさいました?」


振り返ると、不思議そうに見詰める少女の姿。



「いえ…何でもありません。行きましょう、ラクス。」


「はい。」




小さな街だ…

こうして彼女が歩いていても不思議は無い。

今まで見掛けなかった方がおかしいくらいだ。



近いようで今は既に遠いその存在を…


未だ恋しいと思ってしまう…。


愚かな…




その手を突き放したのは俺だというのに…


そして…今は他の女性の手を取っているというのに…





それでも忘れる事の出来ない、眩しいその笑顔…





それを振り切るように…


アスランは頭を軽く振ると、再びラクスの手を取り、歩き出した。


















【あとがき】

久し振りにイザVSアス。

今度はイザークの勝利です。(早くも勝利宣言)

結末を明らかにして書くのが夢小説ですからね♪

何だかスッキリしてていいなぁ〜と。

今回はアスラクです。

本当、CP否定派さんには申し訳ないですが…。

いや、私もCPは否定派です。

ただ、アスカガよりいいかな…と。

アスラクはまだ大丈夫なんですね。

なので、例えアス夢ではなくてもアスカガを書く事はありません。

ご安心下さいませ。

では、性懲りも無く始めてしまった新連載。

こちらも気長にお付き合いいただけましたら幸いです。







2005.7.7 梨惟菜











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