「ロゴスって…何だろうね…」







「…全ての元凶…でしょう?

 議長がそう仰るのですから…。」






の質問に顔色1つ変えずに答えたレイに対し、大きく瞬いた。






全ての…元凶…





だから…ロゴスを討てば…全ては終わる?







「納得いかない…ですか?」





「そうじゃないわ…ただ…色々と思い出しちゃって。」






何が正義で…何が悪なのか…





そんな事、分かる筈も無い。






何が正しくて、何が間違いなのか…




それを決める基準なんて無いと思うし、それを決める権利など誰にも無い。






じゃあ…どうすればいい?





何を信じて…何の為に戦ったらいい?





そんなの…分かるわけないよ…





























 戦場の歌姫 〜Destiny〜

     ACT.5 惑わされし心






















確かに、議長の言っている事は最もだ。






ロゴスという存在は脅威だし、先の戦闘を考えれば早急に手を打ちたいという意見も頷ける。






でも…本当にそれで真の平和が訪れる?





それで…全てが終わる?















の不安も分かります。」





「レイ…?」






「最初は誰だって戸惑うものです。

 ですが…何かを成す為にはまず何かを始めなければ…。

 平和への一歩がきっとここから始まるのだと、俺は思います。」






迷いの無い言葉…瞳…





議長を信じて疑わぬ、真っ直ぐな瞳





だからレイは迷わずに戦えるの?


























…話があるんだ…」








彼女を呼ぶその声に、レイは彼女よりも早く振り返った。








「アスラン…?」







「レイ、いいか?」







「…どうぞ、御構い無く。」






視線を合わせずにレイは答える。







「レイ、ごめんね。」





そう告げるとはアスランの元へと足を進めた。












チクリ…













まただ…





彼女がアスラン・ザラと並ぶ姿を見ると同じ感情が…







2人の本当の関係についてはギルから聞いている。






こそが本物のアスラン・ザラの恋人なのだと。







だが…ラクス・クラインは使える存在だと…






ギルはそう言った。





いや…正確にはミーア・キャンベル…か。







彼女をラクス・クラインとして祭り上げる事でアスランを上手く使えるのだと。







だが…そろそろ潮時なのかも知れない。






先のギルの演説で明らかにアスランは顔色を変えた。








ロゴスに対する宣戦布告…





そして巧妙に隠されたアークエンジェルとフリーダムの存在。











彼は疑っている。





























「アスラン…話って…」





「あぁ…さっきの…議長の話の事だ。」





「…うん…」






は…どう思った?」







「…議長の話について?

 それとも…映し出された映像について?」








「両方…だ。」





「………」









沈黙が広がる。





アスランが議長を疑うのは分かる。




私だってあの映像には戸惑った。






前線で戦っていた筈のフリーダムの姿が綺麗に消えていた。





意図があって消されたと言っても過言ではない。






…何の意図があって…?





ロゴスを討つ上で…邪魔な存在…だから?















「ごめん…今の私には分からない。」








?」







「何が正しいとか…どうすれば戦争が終わるのかとか…

 迷ってる時間は無いって事は分かってるけど…でも…頭が追い付かないの。」









「それは…俺だって同じだ。」








「アスラン…」









端正な彼の顔が苦痛に歪む。





付き合いは長いけれど、彼の心の内はあまり伝わって来ない。





伝えてくれないんだもの…。





肝心な事、何一つ伝えてくれない。






いつも一人で抱え込んで…自分で自分を追い詰めて…






いっそ…その心の内を私にぶつけてくれたらいいのに。






それを言葉に出来ない自分が歯痒かった。







だから…こうして想いが通じ合った今、初めての衝突を迎えた。






アスランは口下手で…それは私も同じで…






言いたい事を口に出してしまえば後戻りが出来なくなるような気がして怖い。






ただ…怖いだけなの…













「それと…シンの事…」






「…あの子の死は…大きいよ。」






「分かってる。」







「今、シンの心を止める事の出来る人間なんて居ないよ。」






「あぁ。」








「次にシンがキラと出会ったら…」






「分かってる…

 考えたくは無かったが、避けられない現実なのかもしれない。」







言葉を交わしながら…互いの想いを少しずつ繋ごうと必死で…





誰かを想う気持ちは、こんなにも人を強く…



そして、脆くさせるんだと身を持って実感した。




















「そろそろ部屋に戻るね…仕事も少しあるし。」






「あぁ。」







「今、何が出来るかは分からないけど…

 目指す先は…求めるものはアスランと同じだって信じてるから。」






「俺も…同じ気持ちだよ。」










その言葉を聞いて安堵したのか…





自然と笑みが零れた。














!」







背を向けた私を呼び止める声に、もう一度振り返る。









「俺も…考えてみたんだ…」






「…何を?」







「あの時…と揉めたあの時に言われた言葉について…。」











『アスランがシンと同じ立場だったら…同じ事が言えるの?』






『じゃあ…もしも私と違う形で出逢ってたら、私達は今こうしてなかったって事?』











「考えたくなかった。

 想像しただけで背筋が凍り付く想いだった。

 が連合の強化人間だったら…よりも先に俺が狂ってるかもしれない…。」






「アス…」







「例え幼馴染じゃなかったとしても…いつかは君に惹かれていた筈だ。」








その言葉に…体が硬直した。







「……っ…」





戸惑うを横切り、アスランが先にその場を離れる。



































「…?」





薄暗く…人気の無いデッキを通り掛ったのはレイだった。





既に陽は落ち、辺りを静寂と暗闇が襲う。





そんな場所に一人佇む彼女の姿をレイは見逃さなかった。








「レ…イ…?」





「…っ!?」





両手で顔を覆う彼女の瞳は涙で溢れ返り…紅潮した頬を伝う。








「一体何が…」





駆け寄りその手に触れると、は更に大粒の涙を零した。








「何で…今更あんな…っ…」






掠れた声でようやく呟いた言葉…





アスランと…何かあったのか…?








…落ち着いて…」






「……な…んで…っ……」






溢れる涙は止まる事を知らず流れ続ける。







意を決したレイは、その華奢な体を自らの腕の中に抱き留めた。









「……」







「レ…イ…っ」









には笑顔であって欲しい…







俺の側で笑っていて欲しい…







自分の心がそう告げる。










…貴方は今、誰の為にその涙を流している?







愛しい筈の…あの男の所為で泣いているのだろう?


























「ごめん…情けない所、見せちゃったね。」







ゆっくりとレイの腕から抜け出すと、は寂しそうに微笑む。








「大丈夫…ですか?」







「ん…もう大丈夫。ありがとう。」







いつもの…穏やかで優しいだった。





けれど、目元は真っ赤に腫れ上がっている。








「部屋…戻るね…早く冷やさないと明日大変だから。」







気が付けば、覚束ない足取りで去る彼女の手を掴んでいた。










「…どうしたの…?」





「あ…いえ…」







自分でも無意識だ。




問われても返す言葉は思い付かない。








「…ゆっくり…休んで下さい…」







「ありがとう。 お休み。」




















俺の手で彼女の笑顔を守る事が出来たら…






離された手に未だ残る温もりに、レイは拳を握った。






















【あとがき】

こちらも相当期間の空いた更新となってしまいました…。

5章突入です。

アスランとは喧嘩するし…

レイの恋愛モードに火が付きそうな勢いだし…

ハッキリ言ってゴチャゴチャです…。

レイがアスランに対して不信感を持ち始めたのってこの辺りだと思うんですよね。

それにヒロインに対する感情を絡めてみたらこうなっちゃいました。

レイは結構重要な役どころ…という事で。

個人的にはレイは大好きです。

アニメ観る度に悲しくなるよぅ…。

そんな感じでレイが贔屓目な感じになっておりますがご了承下さいませ。

では、ここまで読んで下さってありがとうございました。





2006.10.6 梨惟菜












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