「さん!!」
「…ルナマリア…その怪我…」
駆け寄って来る彼女の腕は包帯で巻かれ、痛々しい姿だった。
「…済みません…足手まといになっちゃいましたね…。」
「何言ってるの…この程度の怪我で済んで良かったじゃない…。」
「あの…アスラン…は?」
「怪我は無いんだけど…」
問題は気持ちの問題…と言うか…
精神的なショック、大きいんだろうな…。
咄嗟に飛び出してセイバーを救出したけれど、掛ける言葉が見つからなかった。
ただ無言で格納庫を後にするアスランの背中を見つめる事しか出来なかった。
アスランにどう接したらいいのか分からなくなった…。
ここで私がどんな言葉を掛けてもきっと今のアスランには届かない。
アスランの声が…聞こえないよ…
「さん…」
いつの間にか頬を伝っていた涙は、ルナマリアの心を大きく揺り動かした。
戦場の歌姫 〜Destiny〜
ACT.4 覚醒
「では…やはり彼女は?」
「えぇ。評議会からの命令だし、このままジブラルタルへ連れて行く事になるわね。」
「そう…ですか…。」
「それで…彼女の容態は? やっぱりどうにもならない?」
「えぇ…時間の問題です。」
艦長の問い掛けに、医師は予想通りの答えを告げた。
時間の問題…
その言葉に、の胸は締め付けられた。
「生きたままで引き渡せればそれに越した事は無いのですが…
無理ならばこれ以上の延命措置はかえって良くないのではと…。
解剖しても正確なデータが取りにくくなるだけですからね。」
「そういうサンプルなら研究所で採ったものがいくらでもあるでしょう。
評議会が欲しがっているのはやはり、生きた強化人間なのよ。」
生きた強化人間…
背筋が凍る思いの中、立っているのが精一杯な気持ちでその場に居た。
アスランは結局部屋に閉じこもったまま出て来なくて、代わりに艦長に戦闘の経過報告に来たが為に話を聞かざるを得ない状況になって…
「…措置は今まで通り続けて頂戴。やっぱり、出来れば生きたまま引き渡したいわ。」
「分かりました…出来るだけやってみます。」
医師は軽く頭を下げると、その場を去ろうと背を向ける。
「あぁ、シンは?まだ来てたりするの?」
艦長の声に、足音は止まる。
「えぇ…しょっちゅう。 何であんなのに思い入れるんだか分かりませんけどね…。」
「ごめんなさい、話が前後してしまったわね。」
「あ、いえ。大丈夫です。」
「それで…アスランの様子は?」
「外傷は特に無いみたいですが…やはり相手が相手なだけに動揺が大きいみたいです。
食事も摂っていない状態で、部屋からも出て来ません。」
「そう…気持ちは分かるのだけど…こればかりは仕方ないわ…。
あなたは勿論、分かってくれるわよね?」
「…どちらの言い分も痛い程に。」
「それはそれで辛い立場ね。」
の苦笑いにタリアも同じ様に苦笑した。
「彼女の事は…あなたも分かってくれるかしら?」
「…正直…救ってあげたいです。彼女だって本来なら普通の人間だった筈ですし…。
でも……評議会の命令には逆らえません…ね…。」
「そうね…。」
シンが良く医務室に出入りしてるって言ってたっけ…。
やっぱり…彼女に特別な思い入れがあるんだろうな…。
シンがどんな想いで彼女を見ているのかは分からないけれど…
彼女を抱きかかえてミネルバに飛び込んで来たあの時の表情は今も忘れられない。
ただ純粋に…『助けたい』というその想い。
その想いがどんな形なのかは本人にしか分からないけれど…
でも、あんな真剣なシンの表情は初めて見た。
いつものシンは無邪気で…まだ子供みたいなあどけなさがあって…
でも…あの子を抱いている時のシンは違ってた…。
「ん…もうこんな時間…?」
キーを叩く手を止め、傍らの時計に目を向けると、時刻は既に日付がを跨いで結構過ぎていた。
「…今日はこれくらいにしておこうかな…。」
パソコンの電源を落とし、立ち上がって大きく背伸びをする。
赤い上着をベッドに脱ぎ捨てると、そのままバスルームへと足を踏み入れた。
シャワーの熱が心地良く…疲れた身体に沁みこんでゆく。
こうして…全ての事を洗い流せたらどんなに良いだろう。
そうしたら誰も苦しまなくていいのに。
ビーッ!!
シャワーで身体を洗い流したその直後、艦内にアラートが鳴り響いた。
「何!?」
慌てて飛び出し、放り投げられたままの軍服を素早く身に纏う。
濡れたままの髪を手早く一つに結い上げ、部屋を飛び出すと、艦内は騒然としていた。
「何があったの!?敵襲?」
「いえ…それが良く分からなくて…」
混乱するクルーは状況を把握出来ていない。
部屋に戻ったは、ブリッジへの回線を開いた。
「ブリッジ!何があったの!?」
『あ…インパルスが…えっと…』
通信の先に居るメイリンも動揺を隠せないらしく、返事に戸惑う。
結局、聞き取れた単語は『インパルス』のみ…。
『、シンが強化人間を連れて発進しているの。
勿論、誰一人許可は下ろしていない、シンの独断による行為よ。』
「…シンが!?
じゃあ…ゲートは誰が!?」
ゲートを強行突破した爆音は聞こえなかった。
つまり…内側から開放した人間が居るという事。
『今調べているわ。』
「…追撃しますか?」
『いえ…今から追ってインパルスの速度に追い付ける機体は無いわ…。』
「そう…ですね…。とりあえずそちらへ向かいます。」
セイバーが残っていれば何とかなったかもしれないけれど…。
通信を切断すると、再び部屋を飛び出した。
「…レイ…?」
ブリッジに入ると、そこにはクルーに拘束された状態のレイの姿があった。
その傍らにはアスランの姿も…
「あなたたちはもういいわ。下がって頂戴。」
レイを拘束していたクルー達は言われた通りに彼を解放すると外へと出て行った。
「アスランも…も悪いけど…。」
「…はい…」
レイの青い瞳と自分の物がぶつかった…
迷いの無い瞳…
その瞬間に、シンを補佐した人物が彼だったという事に気付いたけれど…
「失礼します。」
アスランの一言に我に返った。
「俺が…」
「え…?」
「俺があの時、ちゃんと話を聞いておくべきだったんだ…シンの。」
「あの時…?」
思い詰めた表情でアスランは拳を握り締めた。
その手に添えられたのは…彼女の手…
「何があったのかは知らないけれど…過ぎてしまった事は悔やんでも仕方ないわ。」
「…。」
「…なんて言っても無駄ね。人は後悔せずにはいられない生き物なのかもしれないね…。」
堅く握られたアスランの手が緩み、そっとの手に絡められる。
「済まない…」
「気にしないで。」
アスランの瞳はいつも私を躊躇わせる。
彼の瞳は私にいつも同じ事を告げている様な気がして…
『何も聞かないでくれ』
アスランの瞳はいつもそう言ってる。
これ以上踏み込むなって…。
「私…部屋に戻るね。シャワー浴びてる途中だったから、髪が湿ってるの。」
「あぁ…」
アスランから離された手…
先に背を向けて歩き出したのはアスラン。
その背中を黙って見送って…
そっと…
握られた手をギュッと握り締めた。
【あとがき】
勢いで書いてしまいました。
単純な作業をしていると妄想が膨らみますねぇ…。
疲れてるのに早く寝ろよって感じなんですが、どうしてもこれ書いてから寝たかった。
…という訳で寝ます!
誤字脱字は恐らく無いとは思いますが…
チェックはまた後日です…(汗
お先に発見された方、コッソリと教えてやって下さい(汗
では、読んでくださってありがとうございました。
2006.4.20 梨惟菜