「え!?何!?」





突如攻め込んで来たガイアと交戦していた筈のインパルスがミネルバに戻って来る。




何か様子が変だ…。




格納庫に居た私とレイは顔を見合わせる。







『レイ!ガイアの回収をお願い!』




格納庫に届いたのはブリッジから艦長の指令。




「…了解しました。」





レイは迅速に自分の機体へと走る。






その直後、シンの乗るインパルスがミネルバへと着艦した。







機体から飛び出して来たのは女の子を抱きかかえるシンの姿。





「何だよシン…一体…」





不思議な面持ちで彼に近寄るのは親しい同僚のヴィーノ。




純粋にシンの事を心配しての行為の筈なのに、シンはそれさえも目に入っていない。





「煩い!どけっ!」





彼の手を跳ね除けると、シンは少女を抱きかかえたまま格納庫を後にする。





今の子…連合の制服…着てた。



まさかあの子がガイアのパイロット!?











!!シンは!?」




その後すぐに戻って来たアスランが既に格納庫には居ないシンの行き先を尋ねた。







「女の子を抱えたまま艦内に…」




「…シン…」




「アスラン、あの子…まさか…」




「あぁ、ガイアのパイロットだ。」






























戦場の歌姫 〜Destiny〜



   ACT.4 覚醒
























「ステラ!大丈夫だから!」





アスランと共に医務室へ駆け込むと、そこは騒動になっていた。





暴れる連合の少女と、それを宥めるシンの姿。





シンは少女を後ろから抱き締める形で必死に宥める。





まるで彼女の事を以前から知っていた様な…そんな気さえした。





そして直後に少女は気を失い、事態は沈静したのだった。


























「じゃあ…シンはディオキアの街で彼女と…?」





「あぁ。エマージェンシーが入って助けに行ったら彼女と一緒だった。

 シンが言うには、戦争で家族を亡くした被害者だって…。」






2人が立つ場所は艦長室の真正面の廊下。





目の前の艦長室に入っていったシンが心配でその場で待つしかない私はアスランの事情を聞いていた。








「俺が見た時は普通の女の子に見えたんだけどな…。」





そんな子が連合のパイロットだなんて…






「何か…様子が変じゃなかった?」





「あぁ。俺も感じた。もしかしたら彼女…」





そこまで告げてアスランは口篭る。



恐らく…私と同じ可能性を考えてしまったのだろう。




でも…それを言ってしまってはいけない気がして…気まずさで互いに目を伏せた。





















シュンッ…







暫くして艦長室の扉が開かれる。




中から出て来たのはシンではなく艦長…



そしてその後を追うようにシンも出て来た。








「艦…」




先に口を開いたアスランを艦長は黙って制止した。




それ以上何も言えなくなって、アスランは歩みを止める。






「アスラン…少し休んだら?疲れてるでしょう?」






艦へ戻ってすぐに研究所に入って…そしてさっきの戦闘…



色々と聞きたい事はあるけれど、休んでもらうのが先決だから…。








「あぁ…俺は大丈夫だ。」



「でも…」




「本当に大丈夫だ。そんなヤワじゃないさ。」





柔らかい笑顔を見せた彼は、フワリとの髪に触れる。






「それより…色々と話したい。俺の部屋に行こう。」




が黙って頷くと、アスランはの手を引いて自室へと向かった。






























「じゃあ…キラには無事に会えたのね。」




「あぁ。ミリアリアの…彼女のお陰でな。」





「そっか…ミリィも元気だったのね…。」







は安堵した表情でベッドに腰を下ろした。




そんなの表情を見てアスランも隣に腰を落とす。









思い浮かぶのは海辺で再会したキラ、カガリとのやりとりだった。













『お前の手だって既に何人もの命を奪ってるんだぞ!』






あんな事を言うつもりじゃなかった…。




それを一番良く分かっているのはキラ自身だったのに…。




そして…キラだってそれを受け止めている。





『うん…知ってる…』



そう返したキラの瞳は悲しそうで…




















「アスラン…大丈夫…?」




「え…?」




頬に伸ばされた彼女の手に気付かず…の手のひらは俺の頬を優しく撫でた。





「やっぱり…疲れてるんじゃない?」




「いや…本当に大丈夫だ。」




の手に、自分の物を添えた。





「キラ達に伝えたい事は伝えたつもりだ。俺達は俺達に出来る事をしよう。」




「アスラン…。」








残された片方の手がの身体を包む。




そっと自分の元へと抱き寄せて、そっと触れるだけの口付けを贈った。









「何だか…久し振りにに触れた気がする。」





急に気持ちが軽くなった気がして…瞼が重くなるのを感じる。





「…少し眠ったら?側に居るから…。」




「そう…だな…」










































「恋と呼べる気持ち 凄く苦しくて…

 愛と云う感情 私だけが感じている

 好きと云う心の温かさ 胸に秘めて…」









「その詩…好きなんですよ…。」






振り返るとルナマリアの姿があった。





「隣、いいですか?」



「あ…うん。」










「懐かしいですね。だいぶ昔の詩じゃありません?」



「そう…だね。私が歌手になってすぐに作った詩…かな?」




「私、さんの詩の中で一番好きですよ。」




「…そう?」




「誰かを想う直向さが伝わって来るって言うか…。

 誰に宛てて歌った詩なんだろう…って思ってたんですよね…。」





「あぁ…」





多くの人は知らない。



この詩を誰に宛てて…誰を想って歌った詩なのか…。







「アスランの事だったんですね。」




「え…?」




「見てたら分かりますよ。さんの気持ちも、アスランの気持ちも…。」






言われて取り乱したあの時の記憶が蘇る。




混乱して自我が保てなくなって…結局アスランの部屋に連れて行かれて…




同室のルナマリアにバレていない方がおかしいと言えばその通り。







「大丈夫ですよ。誰にも言いませんから…。」





「…ありがとう…。」






「私の方こそ…身の程知らずな発言しちゃって済みません。」





「え?」







さんとアスランの事、気付かなかったから…失礼な事言っちゃって…。」













それは間違いなくミーアの事を示しているのだけれど、ルナマリアは彼女の事をラクスと信じている筈だ。




私がアスランとラクスの間で挟まれてる…って思ったのかな?









「…大丈夫…私には私の想いがあるから…。」






その言葉にルナマリアは目を丸める。






「?私、何か変な事言った?」




「あ…いえ…そんな事無いです。…ただ…」




「ただ?」





「強いなぁ…って思って。」






























強い…か…。





そんな事言われるなんて思ってもみなかったから正直驚いた。







強くなんてない。






私はいつもアスランに心配掛けてばっかで…守られてばっかで…




ハイネが撃たれた時だって…私だけが取り乱して…我を失って…





弱いんだよ…誰よりも。

























『アスラン・ザラ、の2名は直ちにブリッジへ。』








艦橋にアナウンスが流れる。







「行かなくちゃ…」





踵を返した私は艦内へと足を踏み入れた。


















どんどんと乱れゆく戦況…





シンが連れ帰った連合の少女…





キラの…アークエンジェルの目指すもの…






考える事は沢山あるけれど、出来る事は限られてる。






出来る事を確実にこなさなくちゃ…




私はアスランと一緒に、平和の為に歩む事を決めたんだから。






アスランとの未来を選んだのだから…









例えどんな状況に陥ったとしても私の彼への想いは変わらないのだから…





誰よりもアスランを信じてる…愛してる…





だから私はもう迷わないよ…

































【あとがき】

ちょっとだけ甘〜い雰囲気になりました。

ほんとにちょっとだけですが…。

今回もユーリ様の詩を使わせていただいてしまいました。

本当は本編で使わせて頂く予定でしたが、先に番外編で使ってしまったので…

物語も微妙に微妙に進んで…ステラ登場ですね。

またステラが絡んでひと騒動の予定です…。

読んで下さってありがとうございました。








2006.2.10 梨惟菜














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