!!っ!!」







何度呼んでも彼女の返事は返って来ない。





ゆっくりと地に落ちた濃紺のグフはその機能を停止しているのか…





外傷は無い。





流石…と言うべきか…彼女の実力は今も健在のようだ。





だが…今はそんな事を考えている場合では無い。












!返事をしてくれ!!!」







尚も叫ぶアスラン…。







「くそっ…!」






強引にグフの腕を取ったセイバーはミネルバへと帰還した。






























  戦場の歌姫 〜Destiny〜

   ACT.3 不安・嫉妬・秘密























『セイバー、グフ、帰投します』





「整備班!準備しろー!」






先にミネルバへと戻っていたシン、レイ、ルナマリアは2人を待ち構える。








『収容完了しました!』







ハッチが開放され、物凄い勢いでアスランがそこから飛び出す。







「アスラン…?」





ルナマリアが声を掛ける隙も無く、アスランはグフの元へと駆ける。







「ハッチを開けてくれ!」





「え…でも…」





内側から開かないグフのハッチを開けろと整備士にアスランが叫ぶ。





今までに無い真剣な眼差しで…





その様子にルナマリアは目を見開いた。










さん…何かあったのかな…。」





「そりゃ…色々あったし…」








何より…共に戦っていた仲間が目の前で討たれたのだ。





は降下する前から彼と一緒に居た…。





自分達よりも親しかった。





そんな彼が目の前で討たれて…動じない人間が居るのだろうか。











「いいから早く開けろ!!」








「は…はいっ!!」






























!!」







ハッチが開放され、コックピットの中が露になる。




「アス…ラン…?」





は…震えていた。




小刻みに体を震わせ…瞳は涙で溢れていた。






「アスラ…っ…あたし…っ…」






守れなかった…




大事な仲間だったのに…守れなかった…





ハイネは優しくしてくれたのに…何も出来なかった…









「ハイネが…っ……うっ…」






…」







ただ嗚咽を漏らしながら、は涙を流す。




こんな風に取り乱すは初めてだった。






ラスティやミゲル…オロール…そして、ニコルが死んだ時もこんなに泣き崩れる事は無かった。




それは…目の前で討たれたのを見たのが初めてだから…?



















…大丈夫だ…」






伸ばされた手は彼女のヘルメットを外し…涙で濡れた頬を拭う。






「俺が居る…」





その存在を教えるように…そっと小さな体を抱き締めた。




「俺は居なくならない…側に居る…」





「アスラン…っ…ふ…っ…」





をそっと抱き上げ、アスランはそのままグフから地へと足を付ける。








「…アスラン…?」





大事に抱きかかえるその姿に3人は言葉を失う。









「大丈夫だ…気を失ってるだけだから…」






小さく呟き、アスランはそのまま格納庫を後にする。









その背中を見つめながら…ルナマリアは複雑そうな表情で見送るしかなかった。

























どうして…人は戦うの…?




何故…命を奪い合うの?





何の為…?




私は何の為に戦っているの…?





私は何故…人を殺すの…?











ずっと…抱いて来た疑問だった…





どうして戦うのか…戦わずに済む方法は無いのか…






でもそれは…私1人が考えたってどうしようもない事。




でも…考えなければ何も始まらない事…。








でも…分かんないよ…







何度も蘇る、ハイネの機体が目の前で爆散するあのシーン…。




妙にリアルで…スローモーションで…




一番近くに居たのは私なのに…何一つ出来なくて…無力で…























「………」





白い天井…



何だか頭がボーっとする…




喉が渇いて…体が痛い…






目覚めたそこは…ベッドの上…




真っ白なシーツに私の体は包まれていた。




普段私が生活している部屋とは違う香り…



でも…懐かしい香り…




これは…アスランの匂い…?







「アスラン…?」








この部屋が自分の私室では無く、彼の物なのだとすぐに気付いたが、肝心の主が居ない…。





「服…」





私…グフに乗って戦って…それからどうしたっけ…?





いつミネルバに戻ったのか…それさえも記憶に無い…。





気付けばシーツに包まれた私の体に衣類は無く…けれど、不思議と寒さは感じない。























「いいわ…あなたの離艦、許可しましょう。」




「…ありがとうございます。」






そう告げるタリアの表情は硬い。




昨日の戦闘でミネルバが被った被害は小さなものではなく、その修理に艦内は慌しく動いている。





艦長の仕事もいつも以上に多い訳で…




朝から修繕の指示、本国への報告と休む間はほとんど皆無だった。










「それと…『彼女』の事だけれど…」





「はい…」





「少し噂になっているけれど…」





「分かっています。ですが…今の状態ではとても1人には…」





「ルナマリアが同室でしょう?」





「彼女には荷が重過ぎます…。」






これだけは譲れないと…アスランは頑なな表情で的確に言葉を返す。







「確かに…議長の仰る事は分かります。

 けれど…私の婚約者は彼女なんです。彼女を支える人間は自分以外の何者でもない…。」





ふぅ…と深く溜息を吐いたタリアは再び口を開いた。






「では…彼女も一緒に連れて行くの?」




「それは彼女次第です…。」



































…?目が覚めた?」






「あ…アスラン…」





目覚めて30分が経過した頃…部屋の主がようやく帰って来た。





はと言うと、動く事も出来ず…の状態で、仕方なく彼のベッドの中で待つしか無かった。






そんな彼の手には待ち望んでいた物…




「遅くなって済まない…部屋に寄って着替えを預かって来たよ。」




「あり…がとう…」




アスランから軍服を受け取ったはそれに顔を埋める。




きっと顔が真っ赤だから…まともに彼の顔なんて見れない。






「バスルームで着替えておいで…話があるんだ。」





「あ…うん…」


























カチャ…





着替えを済ませ、部屋に戻るとコーヒーの香りが鼻を掠める。





「寒かっただろ?」




テーブルの上に2つのカップが置かれ、アスランはその1つを持ってベッドに腰掛けた。






「ありがとう…。」












真っ赤に腫れた瞳…頬…






「勝手に部屋に連れ込んだりして済まなかった。

 でも…そのまま帰せる状態じゃなくて…。」





「…うん…」





「その…覚えて…ない?」





「何が?」





「一回目を覚ましたんだけど…凄く取り乱してて…それでその…ちょっと強引な抱き方…しちゃったから…」





「あ///」






それで体…痛かったんだ…





「ゴメン…」




「…ううん…大丈夫…それより…話って何?」










慌てて話題を変えるに対し、アスランも急に真剣な表情へと変わる。






「…アークエンジェルを…探そうと思うんだ。」




「…アークエンジェルを?」






「今回の戦い…俺には疑問が沢山残ってる。」



「うん…私も…」




「キラが…カガリ達が何を考えて戦場に現れたのか、全然分からないんだ…。」




「うん…」




「だから…きちんと会って話をしたいんだ…。」




「うん…」





も一緒に行かないか?」



「え?私も…?」





「艦長には許可も貰ってる。後はの意志を確認するだけなんだ。」



「私…」



私…は…





また…あの映像が脳裏を掠める…





「…っ…!」




すぐに頭を振る



…?大丈夫か?」




「…うん…大丈夫…」




分かってる…ハイネの死は…キラの所為じゃない…


分かってるけど…








「ゴメン…私、行けない…。」




?」




から返って来た返事は、アスランの想定外だった。





「頭の中では分かってるの…でも…今キラに会うのは怖い…。」




「怖い…?」




「キラの所為じゃないのに…キラを責めてしまいそうで…傷付けるような事を言っちゃいそうで…怖いの。」





…」




「だから…アスラン1人で行って来て…。」
























さん…大丈夫ですか?」





「…うん。心配かけちゃってごめんね…。」





「いえ…私こそ…気の利いた言葉を掛けれなくて…済みません。」





「ううん…仲間が死んで辛いのは私だけじゃないのに…情けないよね…。」





そう…仲間を失って悲しいのは私だけじゃない…。




だからもっとしっかりしなくちゃ…。







「そう言えば…アスラン、離艦するんですってね。」





「うん。アークエンジェルを探して話をするって…。」




さんは行かなくてもいいんですか?」




「…うん…流石にフェイスが2人も単独行動しちゃ…ね…。」




それは言い訳に過ぎないのだけど…正当な言い訳にも聞えた。





「そうですか…。」





アスランを信じているから…私はここで待つよ。




だから…帰って来てね…私の元に…。




そう願いながら…は瞼をゆっくりと閉じる。




















「あ!さん!!」





「シン…どうしたの?」





呼ばれて振り返ると、そこには駆け寄ってくるシンの姿。



その背後にはレイの姿もある。







「副長が呼んでます。」




「私を?」




「いや…さんと俺とレイの3人を…。」





「3人を?」






「あと、ルナは艦長が呼んでる。」




「私だけ艦長が…?」





私とルナマリアは顔を見合わせて首を傾げ合った。


























【あとがき】

う〜ん…。

何が書きたかったのやら…(汗)

タイミングを逃しつつ…なかなか盛り上がれない2人の関係。

運命って全体的に暗いですもんね…。(失礼)

それでも恋愛要素は多少取り入れたいのですよ…。

ってか、それがメインじゃないか…(爆)

少しずつ2人の関係を複雑にしてみたり…ね。

色々と考えていますがどうなる事やら…。







2005.12.10 梨惟菜











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