ローエングリンゲート突破作戦も無事に終わり、ようやくひと段落したのも束の間…






アスランの気持ちが休まる時間は無かった。









今度こそ傍に…



そう思って連れて来た筈のは再び宇宙の上…



手を伸ばせば離れて行ってしまう、愛しい人。






戦わねば終わらない。



それは分かっている。



けれど…不安なんだ。







あってこその俺だから、との未来の為に戦うと決めたのだから…










君は今、どこで何をしている?




何を思っている?




少しでも俺の事を想ってくれているだろうか?




俺は君の事ばかり考えているんだ。




軍人としてこんな事じゃいけないとは分かっているけれど…。






今、無性に君に会いたい…君に触れたい…



君を抱き締めたい…。


























戦場の歌姫 〜Destiny〜

   ACT.3 不安・嫉妬・秘密


























「…え…!?」






俺とシン、ルナマリアは議長に呼ばれ、ディオキアのホテルへと到着した。




通されたのはテラスで、そこで待っていたのは議長、グラディス艦長とレイ…。





そして…テラスの端に立っていた赤服の軍人に目を疑った。








赤服を身に纏った…俺の恋人…




がどうしてここに…!?














「よく来てくれたね。さぁ、座りたまえ。」




「あ…はい…失礼します。」






彼女に声を掛ける事が出来ぬまま、議長に向かい合う形で腰を下ろした。
























アスラン…



久し振りに見る彼の姿…




怪我も特にしていないみたいだし…元気そうで良かった…。




無意識の内に彼を目で追っていて…



椅子に腰掛けたアスランの後姿を見て思わず目を細めて微笑んでいた事を本人は自覚していない。




それに気付いたのは隣に立つ男だった。




















「では議長、我々はこれで失礼します。」






「あぁ。では明日から頑張ってくれたまえ。」





「はい。議長もお気を付けて…。」






話が済み、私とハイネは一足先に部屋へ戻る事を許された。




アスランは目の前に居るのに…話すタイミングは掴めない。




ここではただの同僚…。



ううん、彼はフェイスだから私の上官に当たるわけで…







「そうだ…。」



「…はい…」




「色々とあって渡すのを忘れていたよ。」



「え…?」




議長は上着のポケットに手を差し入れると、小さな小箱を取り出した。







「君にもこれを託そうと思ってね。受け取ってくれるかな?」





「これ…は…」




小箱の中には…特務隊のバッチ…



私が…フェイス…?





「議長…!」



「今の君に相応しい物だと思ってね。君にも君の信じる道を歩んで欲しい。それだけの事だよ。」




私がこんな大事な物を受けてもいいの…?



戸惑う気持ちが先走り、言葉が出て来ない。





「君には君の戦いを…ただそれだけなんだ。」



私には私の戦いを…?
























「明日はミネルバに挨拶に行って…これで正式にミネルバのクルーか…。」



「…そうだね…」






議長とアスラン達の話を聞いていたら不安が募って来た。




戦争の実態…隠された裏の組織…



私達が戦うべき相手は誰なのか…




はっきりさせなければいつまで経っても終わらない戦いの連鎖。



分かってはいたけれど、始まってしまった戦争を終わらせる事は容易では無い。




それを実感させられる話だった。







…」



「え?」



「それ、付けないのか?」




ハイネは私の手の中にあったフェイスの証を指差す。




「あ…そう…なんだけどね…うん…」



私なんかが付けていいものなのか…



戸惑う表情のに気付いたハイネが、の手の中からそれを奪った。




「…ハイネ…?」




それをの軍服の上着に丁寧に取り付ける。







「うん。いい感じじゃないか。」




満足そうに笑顔を向けるハイネに、の頬も自然に緩んだ。





「ありがとう…ハイネ…」





「よし!今日は早く寝るか。明日は7時に下のラウンジだ。」




「え…?」



「一緒に朝飯食って、ミネルバ…な?」




「…うん…お休みなさい…。」





















「…っ…」




思い足取りでアスランはベッドに倒れ込む。




今日は色々とあり過ぎた。




久し振りにに会えたのに…話す機会も与えられなかった。



彼女の隣に居た男は…?




議長の話…シンの想い…



そしてミーア…






何だか無性に苛立って、アスランは思わず部屋に置かれていたワインに手を伸ばす。




普段アルコールは滅多に口にしないが、飲みたい気分だった。




疲れた体にワインはジワリ…と染みこんでゆく。




目の前に居たのに…


手を伸ばせば届く距離に居るのに…





はこれからどうなるんだ?




軍人に戻って…どんな命令を受けた?




考える事は色々ある筈なのに、浮かぶのはの事ばかり。









…会いたい…触れたい…






そして、アスランはそのままゆっくりと意識を手放してゆく。

























「食後のお飲み物は何になさいますか?」





「俺は紅茶。ストレートで。」



「じゃあ…私はダージリンを…。」




「かしこまりました。」




流石は軍所有のホテル…と言うべきか。




昨日は色々と耽っていて気付かなかったけれど、かなり優雅な…




軍の施設とは思えない程の高級さに溜息が出る。





高級ホテルの中を歩くのは、軍服を身に纏った軍人ばかり。




その中にとハイネは居た。




豪華な朝食を済ませ、食後の紅茶を待つ。






向かい合って食事をしていて気付いたけれど、ハイネも上流階級の子息なんだなぁ…。




食事を口に運ぶ仕草とか…どことなく上品さを感じて…。





「ん?どうした?」



ボーッと彼の姿を見ていたと彼の視線がぶつかる。





「あ…えっと…こんな食事も久し振りだなぁ…って思って。」




「そうか。」







今まで何となく一緒に居たけれど…ハイネってカッコいい…よね…


モテるんだろうなぁ…



フェイスだし…うん…。
















「あ…お前ら、ミネルバのパイロットだろ?」




急にハイネが私越しに声を掛けるから、つられて振り返る。






「あ…さん!」




後ろからやって来たのはルナマリアとシン…だった。








「あ、済みません。ルナマリア・ホークです!」




慌ててハイネとに敬礼するルナマリアにシンも続く。




「シン・アスカです。」







「特務隊、ハイネ・ヴェステンフルスだ。」



「…です。」








「お前ら2人だけ?後の奴は?」




「あ…えっと…」






そう言えばアスランは一緒じゃないんだ…



2人は同期っぽいし…何となく壁でもあるのかなぁ?





まぁ、アスランはあんまり団体行動とかするタイプではないけれど…。










「でね、その兵隊さんったら真っ赤になっちゃって…」





その時、更に後方から高めのトーンの声が聞こえる。




「あ…」




その声の主はプラントのアイドルで、その彼女が腕を絡めて歩く相手は…





アスラン…





無意識の内に表情が曇る。





何で一緒に…









「おはようございます、ラクス様。」



先に声を掛けたのはハイネだった。






「あら、おはようございます。も♪」





それに気付いたアスランは慌てて腕を振り解く。






「…アスラン・ザラです。」




ハイネと私に向けられる敬礼。




気まずくて目を合わせる事が出来なくて…






「知ってるよ、有名人。」



「え…?」




「ハイネ・ヴェステンフルスだ。先の大戦ではホーキンス隊に居た。」



「あ…」




「ヤキン・ドゥーエ戦にも居たんだぜ?お前とは戦場で擦れ違ったかも…な。」




差し出された手にアスランも自分の手を重ねる。






「ラクス様も…昨日はお疲れ様でした。」




「いえ。もハイネさんも楽しんで頂けましたか?」




「はい。」









ヤバイ…




頭では分かってるんだけど、どうしても笑顔が引きつってしまう。





目の前の彼女はラクスなんだから…



アスランの婚約者なんだから…




一生懸命自分に言い聞かせ、目を細めて笑う。






「ラクス様、今後の打ち合わせがありますので…」




「…えぇ〜。」




傍に居たマネージャーが彼女に声を掛けると、ミーアは残念そうに口を開いた。






、またお話しましょうね。」



「あ…はい…。」



















「インパルスにセイバー、それにザクウォーリア…で、残りの奴がブレイズザクファントム?」




「あ…はい…。」




「戦力的には十分だよなぁ…なのに何で俺達がミネルバに行かなきゃならないんだ?」





「え…?ミネルバに乗艦されるんですか?」




「あぁ…上からの命令でな。」






その言葉にアスランは安堵した。



もミネルバに戻って来る…。





これで少なくとも離れ離れにはならなくて済む。









「じゃあ、俺達は挨拶があるから。またな。」




「改めてこれから宜しくね。」




















「じゃあ…これから宜しくね。」




「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」






簡単な挨拶を済ませ、ミネルバへの乗艦手続きも済ませた。





「あ……」




「はい。」




部屋を出ようとした私を艦長が呼び止める。





「少し話があるの。いいかしら?」




「あ…はい…。」




「貴方は戻っていいわ。」




「はい。じゃ、。俺は先にホテルに戻るぜ?」




「うん。またね。」

















「アスランの事なんだけど…」



2人だけになって、先に口を開いたのは艦長だった。




「…はい…」




「あなた達の事は…分かってはいるのだけど…」





「…ラクス様の事…ですね?」




「えぇ…」





「私も承知しています。」




「本当なら辛いとは思うけれど…」




「…大丈夫です。私も軍人です。彼…アスランとは同僚として…戦友として接しますから。」



「そう言ってもらえると助かるわ。」




「いえ…私の方こそお気を遣わせてしまって済みません。」



















同僚として…戦友として…か…




昔のポジションに逆戻り…か…。





厳しいなぁ…





ホテルまでの道のりが重たい。




ミーアが軍人じゃなくて、すぐに別行動なのが救い…かな…。




なんて思ってしまう自分が醜い…。




胸を張って恋人だと言えないのがもどかしい。






「あ!さん!!」



「…ルナ…」





私服を着たルナマリアが駆け寄って来た。




「…今日はオフなの?」



「はい。だから街に出てみようと思って。さんはまだお仕事残ってます?」




「…ううん。挨拶も済んだから今日はもうオフ。」





「…じゃあ、一緒に行きません?1人で行くの、つまんなくて。」




「あ…私は…」




「たまには気分転換もしないと…。ね?」





気分転換か…






「それもそうね…。」



「決まりですね。」




「すぐに支度して来るね…。」




























【あとがき】

ようやく更新。

やっと再会した2人なのに会話が無いです。

ミーアやハイネの登場でちょっと気まずい感じになりました。

ラブラブさせたいのは山々なのですが、ただイチャイチャしてるだけじゃつまんないので。

ちょっと苛めたいと思います。(鬼畜な管理人で済みませぬ)




2005.10.22 梨惟菜










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