「今更ですけど…初めまして。ルナマリア・ホークです。」
部屋に入るなり、クルリと振り返ったルナマリアは笑顔で敬礼をしながら自己紹介を始めた。
「あ…初めまして。私は…」
「知ってますよ。・さんでしょう?」
「え…?あ…はい。」
「敬語、使わないで下さい。私の方が1つ年下なんですから。」
「あ…えぇ…。」
「嬉しいんですよ。こうして本物のさんとお話が出来るなんて夢みたいで。」
「…私の事…どうして…」
「ファンなんです。何回かコンサートも行きました。」
歌手として地味に活動していたのは14歳の頃まで。
多少の未練はあったけれど、アスランとラクスが婚約者として騒がれる姿なんて見たくなくて…
あっさりとその立場を切り捨てて軍人になったのはもう4年も前になる。
4年経った今、こうして自分のファンだと言ってくれる人に出会えるなんて、思ってもみなかった。
「あ…ありが…とう。」
面と向かって 『ファンなんです』 なんて言われたら恥ずかしくて…。
でも嬉しくて、少し俯きながらそう返した。
「私が軍に志願したのも、あなたに憧れて…なんですよ。」
「え…?」
「だって、歌姫として皆から注目を浴びて騒がれて…普通だったらそんな状況に甘んじてしまいそうなのに。
その立場を捨てて平和の為に軍に志願するなんて…カッコいいと思います。」
「そんな…注目を浴びてたのはラクスの方だよ…」
それに…私はそんなカッコいい理由で志願した訳じゃない…
ただ…逃げたかっただけ…逃げただけ…
それだけなのに…その行動が、目の前にいる少女の行動を左右してしまっているなんて申し訳なくて…。
「確かに…ラクスさんは凄い人気ですけど…同性からの支持は圧倒的にさんの方が上だったんですよ?」
「え…?」
「さんの歌…ただひたむきに誰かを愛したいって想いの籠められた歌…同じ女として凄く響きました。」
ただ…アスランへの想いを籠めて綴った言葉…メロディー…
それが同年代の女の子の恋する気持ちの支えとなったのもまだ事実。
そんな事を知らないは密かに人気があった事さえ知らぬまま、戦争へと身を投じた。
「だから、こうしてお会い出来て光栄です。 あ、ベッド、こっちを使って下さいね♪」
戦場の歌姫 〜Destiny〜
ACT.2 新たなる旅立ち
「さんも戦後はオーブにいらっしゃったんですね。」
「あ…うん…」
ルナマリアに誘われ、艦長の許可を貰ったは彼女と共に基地内のショッピングモールへと来ていた。
やはり、最低限の生活用品や私服は必要だし…気分転換にと気を使ってくれたルナマリアに付いて行く事にし、今に至る。
目の前に並ぶ洋服を物色しながら、ルナマリアはふと疑問に思った事を口に出した。
「ザラ隊長はどうしてオーブに行かれたんですか?やっぱりお父様の事が原因で?」
「そう…なるのかな?」
アスランが失った物はあまりに大き過ぎて…
自分に出来る事を必死に求めて、共にオーブへと降りて…
目まぐるしく変化する日々に必死に慣れながら、共に時間を過ごして来た。
あっという間の2年だった…
「凄いですよね〜。ラクス様はプラントで頑張っていらっしゃるのに…。お2人は連絡を取り合ったりしてるんですか?」
「え…?」
ラクス?プラント?
「最近のラクス様、どう思います?急に雰囲気が変わっちゃって…私は前の方が好きなんですけど…。」
「ちょっと待って…何の話?」
ルナマリアの言っている意味が全然理解出来ない。
最近も何も…
ラクスはずっとオーブに居たし…相変わらずフワフワしてるし…
「あ…もしかしてラクス様の歌、まだお聴きになってません?」
「え…あの…」
丁度、近くにあったレコード店へとルナマリアが入る。
目の前に平積みされているディスクの山…
隣のモニターで流れるライブの映像…
「コレ…」
露出度の高い衣装を身に纏い、ヒラヒラと踊るその姿は間違いなくラクス…
…の様に見える。
確かに姿も声もラクスそのもの。
曲は昔歌っていた曲をアップテンポにアレンジした物で…
キラキラと輝くステージを走り回るラクスに違和感を感じる。
コレは…誰…?
「やっぱり…初めてご覧になりました?出て来られたの自体、久し振りなんですけどね…。」
「え…あ、そう…ね…。」
間違いなく…偽者…
でも、プラントの人達はそれを知らなくて、モニターの前で踊る少女をラクスだと思い込んでいる。
一体…誰がこんな事を…
ピルルルルッ…
「あ…ちょっとごめんなさい。」
ルナマリアの携帯が鳴り、彼女は慌てて通話ボタンを押した。
「はい。え…?はい、分かりました。すぐに戻ります。」
口調からしてミネルバからのものと思われる業務連絡…。
手短に会話…と言うよりは応答を済ませたルナマリアはすぐに通話を切った。
「さん、艦長からすぐに戻るように…って。」
「私?」
「えぇ。折角出て来たのに残念ですけど…。」
「ううん。必要な物は揃ったし…戻ろうか。」
「アスラン…?」
艦長室の前で待っていたのはアスラン。
腕組みをして壁に凭れていたアスランは、に気付き、こちらへと歩み寄って来た。
「もしかしてアスランも艦長に?」
「あぁ…本部から連絡が入ったって…。」
「そう…。」
「入ろうか。」
「・をプラントへと…そう連絡があったわ。」
「を…プラントに?」
「議長からの直接の要請なの。軍への復帰の前にどうしても直接会って話がしたいと。」
議長が…私に…?
プラントの現最高評議会議長、ギルバート・デュランダル。
勿論、オーブで行政に携わっていた自分もお名前やその政治に対する姿勢については知っている。
「なるべく急いで欲しいとの事なのだけれど…行って貰えるわね?」
そりゃあ…行かなければ再び軍服を着る事も出来ないのだろうけれど…
話があまりに急過ぎて…
「…分かり…ました。」
結局、ここでYesと言わなければ何も始まらなくて…
チラリとアスランの顔を伺いながら、そう答えた。
折角…また一緒に居られると思ったんだけどな…。
「じゃあ…気を付けて。」
「うん。アスランも…無理しないでね…。」
「分かってる。ここで待ってるから。」
「うん。」
ミネルバのクルーとろくに会話も出来ないまま、プラントへと向かうシャトルが手早く用意された。
買ったばかりの私服を身に纏い、必要最低限の物をバッグに詰め込んで…。
目の前に居る恋人と抱き合う事も、キスを交わす事もせず、固く握手をしてシャトルへと乗り込んだ。
プラントまでの僅かな移動時間の間は退屈する事は無かった。
考える事が多過ぎて…何もかもが纏まらないままで…
キラ達はどうしているのだろうか…
どうして私が議長に呼ばれたのだろうか…
プラントでラクスと呼ばれている少女は何者なのか…
何もかもが疑問だらけのまま…
2年振りに懐かしい風景が目の前に広がっていった。
【あとがき】
そのままアスランとイチャイチャさせたかったのが本音です。
ですが…
この先の展開を色々と模索している内に、これは一度プラントへ行かせるべきかなぁ…と。
プラントでも色々あるんです。
ここからまた、オリジナル要素を沢山と取り入れて行こうと思いまして…。
またアスランと離れ離れになっちゃいました。
すみません、恐らくは2章では2人の絡みはここで最後…。
アスラン夢なのになぁ…。
2005.8.28 梨惟菜