「う…ん…」
薄暗い洞窟に差し込む光に目を細める。
朝…?
洞窟という寝心地の悪い場所にも関わらずぐっすりと眠れたのは、今まで1人で気を張り詰めていたからかもしれない。
久し振りにアスランの顔を見て安心したからかな…?
ううん…
それだけじゃ無いんだとは思うけれど…
「…おはよう。」
「…おはよう…アスラン。」
1枚の毛布に包まれたまま、抱き合う形で目を覚ましたは頬を染めて微笑んだ。
「寒くなかった?」
「うん。大丈夫。」
伸ばされたアスランの手が優しく髪の毛を撫でる。
ゆっくりと上下する指の感触に心地よさを感じ、目を閉じてそれを楽しむ。
「そろそろ行こうか…あまりのんびりしてはいられないんだ。」
「そうね…。」
戦場の歌姫 〜Destiny〜
ACT.2 新たなる旅立ち
「…ザラ隊長?」
一夜明けて戻ったセイバーから降りて来たのは、アスランに加えて少女が1人…。
着任直後に艦を離れたフェイスが女の子を連れて戻った事にクルーはただ驚く。
アスランの後ろに遠慮がちに立つその少女は彼の上着を羽織らされ、襟元を握り締めて俯いていた。
流石に大勢の人に囲まれた上に走り回って汚れた格好で立つのは気恥ずかしいのだろう。
「ルナマリア…済まないが彼女にシャワーを。それと着替えがあれば貸してやって欲しいんだが…。」
「え…あ…あの…」
「軍服で構わない。赤でも緑でも何でも…。俺は艦長に報告と申請をしなければいけないんだ。」
頼めるかな?
そう柔らかく微笑むと、ルナマリアは慌てて敬礼で返した。
「りょ…了解しました!」
「さ、…。」
「あ…うん。ありがとう。」
「どうぞこちらへ。」
「はい。」
ルナマリアに連れられ、艦内へと入ったの姿を見送るクルー達。
着飾ってはいないけれど、美しさと気品を感じさせる少女。
「どうぞ、こちらのシャワールームをお使い下さい。」
「あ…はい…」
女子用のシャワールームへと案内されたは、そっと羽織った赤服を脱ぐ。
「あ…着替え持って来ますから、その間に浴びといて下さいね。」
「…ありがとう…。」
ほぼ初対面の人間の前で服を脱ぐのを躊躇うに気付いたルナマリアは、そう告げて外へと出た。
サァァァ…
こうしてゆっくりとシャワーを浴びるのも久し振りな気がして…
凄く気分が落ち着く…
傍らに置かれた、彼女の愛用品らしきシャンプーに手を伸ばすと甘い香りが漂う。
悪いな…と思いつつも、使わせて貰う事にした。
「あ…」
泡が目に入らないように…と視線を下へ向けたその時…
胸元に赤いアザが出来ている事にようやく気付いた。
「…コレ…」
でも痛みは無くて…
昨夜の事を思い出し、急に頬が熱くなる。
「アスラン…が…?」
1ヶ所だけ残された…愛の証に昨夜の記憶が蘇る。
私…アスランと…
「着替え、ここに置きますね〜!」
いつの間にか戻って来ていたルナマリアの声にビクッと肩を跳ねさせる。
「あ…ありがとうございます!」
急いで泡を洗い流し、シャワーのコックを捻った。
「ごめんなさい…シャンプーとか色々借りちゃって。」
「あぁ、気にしないで下さい。どうせ軍の経費で買った物だから。」
ルナマリアが持って来てくれたのは、恐らく予備の赤服…。
サイズ…大丈夫かな…
見た感じ、相当細く見えるんだけど…
「え…コレ…」
「済みません。この艦、女性が少ないから私の服しかなくて…。」
「聞いた?ザラ隊長が連れて来た女の子、あの・なんだってさ!」
「マジ!?・ってあの!?」
ザフトへ入隊する前のはプラントでは少し有名な歌手だった。
勿論、アイドルとして名を馳せていたのはラクス・クライン。
は公に活動する事は少なかった為、名は知られていても顔は意外と知られていなかったりする。
「で?その情報は誰から出た訳?」
仕事の手を止め、思わず噂話に夢中になる整備士の少年達。
まだ10代の、これが初陣である新米達。
「ルナだって。」
「何でルナが知ってんの?そんな事…。」
を艦長室まで送り届けて戻ったルナマリアに視線が集まる。
「有名じゃない。」
「でもあんまり顔見た事ないし…なぁ?」
「私、何回かコンサート行ったわよ。」
「そうなの!?」
「彼女が引退する前の数回だけどね。」
「で、彼女も復隊させて欲しい…という要請だけど…。」
困ったように眉間に皺を寄せる艦長がに視線を向ける。
「流石に彼女の処遇は私の一存では決められないのよ…。」
「そう…ですか…」
も自分と同じ…脱走兵として扱われて当然の存在。
正式な手続きも踏まず軍を飛び出した状態。
しかも、抜ける直前まで居たのは前プラント最高評議会議長の秘書役。
直接に議長と面会を行った自分とは違い、きっと何かと大変なのだろう。
「本部と議長へ要請を入れておくわ。だから暫く待って頂戴。
返答があり次第、すぐに連絡はするわ。」
「え…では…」
「それまでの間は本艦にて、アスラン・ザラの監視下に置く事を前提に乗艦を許可します。」
「あ…ありがとうございます!」
「…その…」
「何?」
艦長室を出たアスランは気まずそうに視線を逸らす。
「その服は…その…」
「あ…///こ…これは…」
は慌ててスカートの裾を引っ張った。
ルナマリアの予備の軍服を貸して貰った。
つまり…
彼女の個性的なミニスカートにニーソックス…。
「や…あの…女の子が少なくてコレしか無いって言われて…」
がこんなに極端に短いスカートを履いているのは初めて。
前の戦争の時には自分と同じ格好をしていたし…
何より、軍の規定が厳しく、赤服にスカートなど厳禁。
私服にしても、膝より短いスカートを履いてる姿なんて見た事が無い。
「大丈夫…似合ってるよ。」
「え…?」
「凄く…可愛い。」
「あ…あり…がとう///」
「それと…その…昨夜はごめん…身体…大丈夫?」
「あ…う…うん。平気!」
今まで一緒に暮らしていながらもそんな雰囲気には全然ならなくて…
お互いに忙しかったとか…
周りの目が気になったとか…
きっと理由は色々あるんだろうけど、一番の原因は離れて気付いたお互いの大切さなんだと思う。
知らない事ばかりで戸惑う事も多かったけど…凄く満たされた気持ちになった。
アスランの事が、もっともっと好きになった。
この気持ちはどこまで増えて行くのかな…
自然と互いの手が伸びて、絡まろうとしたその時だった。
「ザラ隊長、さん!」
通路の先から聞こえて来たルナマリアの声に、慌てて一歩距離を置く。
「艦長からさんを部屋に案内するようにって言われて…私と同じ部屋を使うようにって。」
「あ…はい。」
「じゃあ俺も部屋に戻るから…ルナマリア、後は頼む。」
「はい。」
「、何かあったら言ってくれ。」
「あ…うん…ありがとう。」
本当は手…繋ぎたかったんだけどな…
でも仕方ないよね…場所、弁えなくちゃ。
アスランの後姿を見送りながら手を胸元に添えた。
【あとがき】
本編も佳境へと差し掛かったこの頃…。
世間ではアスキラ(キラアス)ブームが到来している事でしょう。(勘違い?)
むしろ、これが公式CPでもいいくらいです。個人的には。
キララクよりもアスカガよりも爽やかでいいじゃないっすか…。
実は一線を越えた事の無かったピュアなヒロインとアスランだったのです。
きっとユウナがことごとく邪魔をしてたりしたんだと思います。
ちょっと控え目にここで書かせて頂きました。
これでお互いの心の中に新しい第一歩が…となれば良いのですが…。
この辺りからアスランが微妙にヘタレ化してしまいそう…。
この作品ではカッコよく出来るといいなぁ…と願いつつ…。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2005.8.26 梨惟菜