沖から現れた謎のMSが周囲の人間を混乱に陥れる。





あの機体は連合の物なのか…



それともザフトの物なのか…




そして、何の目的でオーブへとやって来たのか…






赤い…最新鋭と思われるその機体の正体は…?




















戦場の歌姫 〜Destiny〜


  ACT.1 募る不安




















「何なんだよ!アレは!何でちゃんとスクランブルかけないの!」





「システムが停止していては無理です!」







どうしよう…



私が起こした惨事がここまで拡大してしまうなんて…



まさか、近辺にMSが潜んでいるなんて予想もしなかったから…。





MSの所属、目的によっては私のした事はとんでもない重罪…



システムを停止させた時点で反逆罪に近いものだけれど…。





もう…この場から逃げるとか、そんな状況ではなくなってしまっていて…




とにかく、持っている銃だけは決して離さないように…と、握る手に力を籠めた。




















「…あれは…!!」




モルゲンレーテの工場区に集まる人だかりに気付いたアスランはモニターを拡大させた。





ユウナ・ロマ・セイラン…



彼を中心に数名の護衛が居て…



更にその先には作業員…



その中央に立つのは…




!?」




















そのMSは銃口を向ける訳でもなく、そのまま工場区へと着陸した。




「うわぁぁっ!!」





ユウナは慌てて駆け出し、その場から距離を取る。



MSは私の目の前で停止して…










!逃げるんだ!危ないよ…っ!!」





遠くから叫ぶユウナは助ける気など無いらしく…



本当に情けない男…




こんな人がオーブを背負って立とうだなんて。



このままじゃオーブも危険だわ…。



そんな事を冷静に考えている自分が居て…。





少なくとも、私に銃口を向けるオーブの人間よりは安全な存在だと感じた。



そのMSが私に向けて手を差し出す。






「乗れ…って…事なの…?」





誰が乗っているのかなんて分からない。



どこの所属の機体なのかも分からない…。



けれど…



ここに残って、好きでもない人間と結婚させられるくらいなら…


アスランと会う前に自らに銃口を向けるくらいなら…







引き金を引くのは…このMSの正体が明かされてからでも遅くはないと思った。
















!止めるんだ…っ…!!」





向けられた銃口に背を向け…


背後で叫ぶ男の声に背を向け…




その差し出された手の上に身を委ねた。




















そっと護る様に包まれ…


その機体は沖へと飛び立つ。



闇に飲み込まれた海を飛ぶ機体の行き先は見えず…



ただ、頬を打ち付ける潮風が未だ戸惑う私の心を宥める。




これから私は…どこへ向かうんだろう…。



この機体はどうして…私を助けてくれたのだろう…。



















その時、飛行しながらの体勢でコックピットが開かれた。





中から見せた人物に、自分自身の目を疑う。





「ア…スラン…?」




見えたのは赤いパイロットスーツ…。



その胸元にはフェイスの証…



ヘルメットに隠れ、顔は見えにくいけれど…



その隙間から零れる蒼の髪…


翡翠の瞳…




見間違う筈がない…




愛しい人のその姿を…












…迎えに来たよ…。」




その腕が私の元へと伸ばされ…その手を取ると優しく引き寄せた。





「アスラン…?本当にアスランなの…?」




抱きすくめられ、そっと膝に乗せられる形となると、アスランはゆっくりとヘルメットを外した。





「本物…だよ…。」



「…っ…!!」





優しい瞳…



その深く、艶のある声がそう告げると、自然と涙が溢れた。





「アスラン…っ!!」



その首にしがみ付き、声を上げて泣く。


そうすると、アスランは優しく宥めるように…その手を背中へと回した。





「遅くなってゴメン…。1人で怖かったよな…」




小刻みに震え、声を押し殺して泣くをしっかりと抱き締める。



もう離さない…



何があっても彼女は俺が側に置く。



どこへ行くにも彼女だけは共に連れて行く…。




そう誓うように…腕の中にしっかりと抱き留めた。
















「でも…コレ…ザフトの…?どうして…」





急に現れた彼の胸元には特務隊の証がかざされていた。



アスランがプラントに上がってから、ここへ戻って来てくれるまでの過程を知らない。





けれど…この証を付けているという事は…



このパイロットスーツに身を包んでいるという事は…







「とにかく、この辺りの島へ一旦降りよう。話はそれから…な?」




「…うん…。」




幸い、オーブの近海には無数の小島が点々としていて、身を隠すには格好の場所。



島を選びながら、低空飛行を続ける。





「でも、その前に…」



「何…?」




右手で操縦し、左手でをしっかりと抱き締めていたアスランの手が少し動く。



「あ…この体勢じゃ操縦しにくいよね…」



慌ててアスランの膝から降りようとしたのに、アスランの左手はそれを許さない。




「そうじゃなくて…」



「え…?」




背中に添えられていた手が少しずつ上へと這う。



の後頭部に辿り着いたそれは、の顔をグッと引き寄せた。





「アス…っ…///」



名前を呼び切る前に、塞がれた唇。



「…っ///」




涙が…再び零れ落ちた。



唇から伝わる彼の温もりがその存在を…


こうしてまた、生きて触れ合う事の出来る喜びを伝える。




















ACT.1 募る不安    End














【あとがき】


かなりのオリジナル要素を含みまくった1章でした。

とにかく、ここでユウナ問題を解決させたかったので必死です。

色々と悩みました。

ヒロインをどうやって逃がすか…

いっそ、ユウナにヒロインを押し倒させてやろうかとも思いましたが…

ユウナはヘタレなのでそんな事は出来ません♪

ヒロインの方がどう考えても強いんです♪

そんな感じでアスランともようやく再会を果たしまして…。

ようやく本編沿いらしくなると思います。


では、2章に続きます。

また読んでくださると嬉しいです♪













2005.7.14 梨惟菜












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