…どうしよう…




館の正面玄関まで来てみたものの、扉は厳重に軽微されていて…


とてもではないが、正面から脱出出来る状況では無かった。




相手はナチュラルとはいえ、複数のSPを相手に突破は難しいし…



他に脱出出来そうな場所は…



冷静に頭を働かせてみるけれど、その心当たりは無く…


北側は完全に警備が敷かれていて…


逆に無防備な南側は断崖絶壁…下は海。




考えて作られている、完璧なお屋敷だった。




















戦場の歌姫 〜Destiny〜


  ACT.1 募る不安



















逃げ道は無い…


かと言って、こんな所でおとなしくしていたら、彼の思うツボ…


このままでは私は、無理矢理にでも彼と結婚させられてしまう。




カガリの居ない今、ここで最高の権力を持つのは彼の父。


私の味方となってくれる人物は居ない。




「まんまと彼の策略に嵌められた…って事か…。」







逃げられないのなら…


逃げられる状況を作るしかない…か。





















!どこに行っていたんだい?部屋に居ないから心配したよ。」




案の定、部屋に戻ると彼が心配そうな顔で待ち構えていた。





「…申し訳ありません。ちょっと喉が渇いたので厨房に…。」



「大丈夫かい?顔色があんまり良くないみたいだけど…。」




「少し…考え事をしていまして…。その事をユウナ様にお話しないと…。」





「?何をだい…?」




「アークエンジェルとの連絡方法を…知っているんです。」




















勿論、そんな話は真っ赤な嘘で…


何とか邸から抜け出す為の口実に過ぎない。



それでも立場上、彼は動かざるを得なくなる重大な手掛かり。


カガリをわざと逃がしたという事は私は知らない事になっているから…。






私が与えた偽の情報により、ユウナ様は仕方なく私を行政府へと連れて行った。






「彼女をオーブコントロールへ。アークエンジェルへの連絡手段を知っているそうだ。」



「分かりました。」



案外と簡単に通されたコントロール室。


そこは民間人である私は初めて入る場所で…。



物々しい空気に包まれたそこは、決して居心地のいい場所とは言えなかった。






「コンピューターを一つ、お借りしても?」


「あぁ。早く頼むよ。」





国の代表の行方を一刻も早く知り、戻って来て欲しいと願うのが大半の行政府なのだろう。


皆、願うような気持ちで私へと視線を送る。




それでも、セイラン家につく側の人間には厄介な存在であり、神妙な面持ちでそれを見守る。






これだけの人間に見守られていたら…システムの破壊は無理…かな。



昔、キラに教えて貰ったハッキングの技術がこんな所で役に立つとは思わなかったな…。



なるべく周囲の人間に悟られないように、手早くキーを叩く。





破壊は出来なくてもいい…


せめて、少しの間だけでも機能を停止する事が出来れば…



逃げ出す隙は出来る…!!

















ビーッ!!





「な…何だ!?」



警報と同時に、部屋に点る照明の全てが落ちた。


勿論、行政府を司るシステムの機能も一瞬にして落ちる。




行くなら今しか無い!!






「うわっ!!」




暗闇に響く、1人の男の声に、ユウナは思わず壁際へと寄る。



暗闇に慣れぬ目は未だ何を映す事も出来ず…ただ混乱が生じるばかり。




「早くシステムの復旧を!」


慌しく駆け回るものの、誰一人思うように身動きは取れない。



1人を除いては…





「ユ…ユウナ様!」


「何!?」



「す…済みません!何者かに銃を奪われました…っ!!」



「…は!?はどこ!?」





必死に彼女の名を呼ぶが返事は無い。


そして、その瞬間に悟った。



この一連の騒動は彼女が引き起こしたものなのだ…と。







を探せ!この部屋にはもう居ない…っ!!」




















来た道は覚えている…。


最悪、捕虜として捕まってしまった場合に脱出を試みる為に必要だから…


その辺りの観察力、記憶力もアカデミーで身に付けた。



こうして今もこの能力を生かせる事が出来るとは思ってはいなかったけど、正直助かった。





とにかく工場区へ…!



システムの復旧していない今だったら警備も手薄。


状況も把握出来ていない今なら…MSを奪取してここを離れる事も可能な筈だから…





暗い通路を気配と記憶だけで必死に辿る。




流石はオーブの中枢だけあって、通路は入り組んだ構造になってはいるけれど…




まずは外へ…




奪った銃の引き金を引くような事にならないといいけれど…


そう祈りながらも、今自分の身を守る事が出来るのはコレしかないから…


握り締めながら出口へと全力で走った。
























「…どういう事だ…?」




再びオーブ領海へと差し掛かったセイバーのコックピット内では、アスランが不思議そうに首を傾げる。



一度目にここへ差し掛かった時には既にスクランブルを掛けられていた筈だ。



しかし今は…領海へと侵入しても何の反応も無い。


それどころか、再び試みた通信には誰も応じる気配が無い。




オーブで何か…あったのか…?






陽は既に海へと傾き…


本来であれば、海沿いの建物には明かりが灯っている時間…。



それにも関わらず、視線の先に見える島には光が無い…。






まさか…オーブに何か…?







…無事で居てくれ…っ!!」






















「…っ…はぁ…はぁ…」






全力で走った身体は疲労を訴えていて…


ようやく目の前に見えた工場区の様子を伺うように物陰に隠れた私は呼吸を懸命に整える。





まだシステムは復旧していなくて…


工場区内でも混乱が起こっていた。




この先のドックにムラサメがある筈…





カシャッ…と、銃の安全装置を解除し、右手に構えた。



ここからは…下手したらコレを使わなければならないかもしれないから…。





外の様子を確認する為に、何人かの作業員が出て来る…。



その隙をついて、そっと背後に回り、工場区への侵入に成功した。







後は…







カチャ…




「…っ…!!」





…やられた…っ…






「残念だったね…ここへ通じるルートは一つじゃないんだよ?」



目の前には銃口を向ける数人の軍人…


その中央に立つのは…ユウナ・ロマ・セイラン…。




目的のMSは目の前にあるのに…っ…



更に背後は先程の作業員で固められ…



完全に逃げ場を失う形となる。









「こんな行動を起こすって事は…父さんとの話を聞いちゃったみたいだねぇ…。

 アークエンジェルへの連絡方法を知っている…というのも嘘…かな?」




「…私は…っ…あなたの妻になる気は無いです!!」



「折角…ただの民間人の君がオーブ代表の妻という地位に就くチャンスなのに…?」



「そんな地位はいらない!この国の頂点に立つべき人間はあなたじゃない!!」



「もう遅いよ…カガリは国を出た。再びここへ入れるつもりはないからね。」



勿論…アレックス・ディノも…



くっくっ…と笑いながら、ジリジリと迫る彼から逃げる方法を懸命に探す。




射撃には自信がある…


オーブの軍人に負けるような鍛え方はしていないし…



ここで彼を撃ち殺す事だって可能だとは思う。



けれど…撃ったと同時に複数の銃口から避け切る自信は無かった。



それに…この手で人を殺める事はもうしたくない…。



かと言って、撃たれて拘束されてしまったら…

次こそはもう逃げ出す事は出来ない…。







アスラン…


アスラン…っ…!!





彼を呼んだって…今宇宙に居る彼には届かない。


それは分かっているけれど…





「アス…ラン…っ…!!」



会いたい…


アスランに会いたい…


もう…二度と会えなくなるなんて嫌…


彼の人形になるなんて嫌…





それならいっそ…




カチャ…




「…っ…!?!!」



持っていた銃を自分に当てる…



この人の物になるくらいなら…





















「ユウナ様!沖からMSが一機!!」



引き金を引こうとしたその瞬間…



「何だ!?あのMSは…っ!!」




沖から相当のスピードでこちらへと迫って来る一体のMS…




「ガン…ダム…?」






















【あとがき】

ヒロイン…性格変わってる気が…

アスラン絡むと変わるんです。彼女は。

本当にアスランしか見えてないから、もう必死。

逃げる為にはなんだってする…と。

ある意味、アスランによく似てるかも…。

そんな感じでメチャクチャに…って程ではないですが暴れてもらいました。

一応、元ザフトレッドなんです。そう言えば…。

この回に関しては…色々と脱出方法を考えてたんですけど…。

ただアスランに助けられるだけじゃなぁ…なんて思いまして。

ちょっと『アスラン脱走』と被りそうで怖い…。

でも自力だからね…ヒロイン。


さぁ、ようやくアスランと感動の再会…?











2005.7.12 梨惟菜











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