「くそっ!」




オーブ領域から追い出されたアスランは思わずレバーを持つ手を強める。



プラントへ向かい…イザークやディアッカと再会し…


そして、再び戻る事を決めたザフト…。



与えられたセイバーで地球に降り、真っ先に向かったのがオーブ。



カガリと連絡が取りたくて…


今の現状を把握したくて…


そして、議長からミネルバへと赴くように指示が出たから…。





しかし、待っていたのは優しい待遇などでは無く、ザフトに対する牽制だった。




















戦場の歌姫 〜Destiny〜


  ACT.1 募る不安





















「ミネルバはもう…オーブを出た?」




いつの間にそんな状況になっていたのか…


把握しようにもどうにも出来ないこの状況で、仕方なくアスランはカーペンタリア基地へと向かう。


ミネルバが次に向かうとしたらそこしかないと思ったから。




もカガリも心配だったが…この状態ではオーブに入る事も許されない。




オーブが…連合と同盟を締結した…?


カガリが居て、どうしてそんな事になってしまっているんだ?




とにかく…少しでも情報を手に入れる為にもミネルバへ…




















「シン、礼儀をわきまえなさい。彼はフェイスよ。」



自分を見るなり、礼儀正しく敬礼を返すルナマリア。


それに倣い、シンも渋々と敬礼を行う。





「乗艦許可を貰いたいんだが…艦長室へ案内して貰えないか?」


「はい、私がご案内いたします。」






再び与えられた軍服に袖を通し、与えられたフェイスの証を身に付ける。



本当は、こんな物はいらない…。


地位を手に入れる為に戻った訳じゃない。





けれど、こうして軍人として再び動くようになった上で、この地位は何かと便利になるかもしれない。








「でも、ビックリしました。またあなたが戻って来られるなんて。」


「俺も驚いたよ。オーブに向かったらもう居ないと言われたから…。」



「あぁ、あの国、メチャクチャだったでしょう?私達、あの後大変だったんですよぉ?」



「スクランブル掛けられたさ…。」



「ホント、何なんですかね?あの国。今度は連合と同盟なんて組んじゃって…。

 代表も…あたし憧れてたんだけど、何か急に結婚しちゃうし…。」




「…結婚!?」





ドサッ…と、手に持っていた荷物が床に落ちる。





「え…えぇ。何とか…って人と。少し前にニュースで…。」





カガリが…結婚…?



それはつまり…ユウナ・ロマ・セイラン…と?




急にそんな政略結婚に応じてしまったカガリに対する疑惑と…



がこれで少しは安全になったのでは…という安心感が同時に押し寄せる。




しかし、それでも頭の中は混乱していて…。



何でこんな時に結婚なんて…


何を考えているんだ…セイランは…







「でも、代表が結婚式の最中に連れ去られた…とか聞きましたけど…。」




「何だって!?」





















「彼女を連れ去ったのはアークエンジェルとフリーダムだ…という噂よ。」




「…そう…ですか…。」



やはり、彼女を連れ出す心当たりと言えばキラしか居ない…。



では…も一緒に…?




いや…


カガリはともかく、彼がを簡単に手放したりするのか…?





むしろ、俺が居なくなり、カガリが連れ出され…


彼にとって絶好のチャンスなのでは…





背筋に悪寒が走る…


もしかして俺は…とんでもないミスを犯してしまったのではないか…?






「…アスラン…?」



「あ…はい…」



「どうかしたの?顔色が悪いようだけれど…。」


「いえ、大丈夫です。」






このまま放っておいたら…







「艦長…」


「なぁに?」


「着任後すぐで申し訳ありませんが…少し艦を離れても宜しいでしょうか?

 幸い、今は出撃体勢でもありませんし…。」



「そうね…許可しましょう。…と言うか、私とあなたは同じ立場ですもの。命令出来る権利はないわ。」



「…ありがとう…ございます…。」
























「では…カガリ様はアークエンジェルとフリーダムに連れ去られた…と?」




「そうだよ。すぐに追撃命令を出したんだけどね…。」




結果は散々…。


国の代表が乗っている戦艦を落とす訳にも行かず…。



それにあのアークエンジェルだ。


オーブ艦でそう簡単に落ちる船でも無い。










「こうなってしまった以上は仕方が無い。

 代表不在で国の情勢を乱す訳にも行かないからね、これから父が国の指揮を執る。

 君にもそのつもりでいて欲しい。」





「…はい…。」






「じゃあ、今日の所は部屋に戻って休んでも構わないよ。」



「え…あの…」



「ん?どうしたんだい?」




「…カガリ様がいらっしゃらないなら、私は自宅に戻っても…?」



「君の気持ちも分かるんだけどね…この状況でいつ何が起こるか分からないし…。」




暫くはこの館から出ない方がいいよ…。



















何なの…?


この警備体制は…




確かに…国の代表を代わりに行う主の住む館…。


それなりの警戒は必要だとは思うけれど…



何故、秘書である私の部屋にまでこんな…


扉の外にはSPが2人…。



これじゃあ、軟禁状態と変わらない。







カガリが国を出て数日…


今のオーブは、不穏な空気で包まれていた。






プラントへ渡ったアスランは無事だろうか…


連絡を取ろうにもその手段は無く、今更ながら後悔する。







でも…どうしてもアスランと連絡が取りたい…。




















様、どちらへ?」



「ちょっと喉が渇いたから…厨房へ…」



「でしたら使用人に…」



「行かせて下さい。ずっと部屋の中に籠りっ放しでは気分も滅入りますから…。」



「…分かりました。」






何とかSPを言い包め、部屋からの脱出に成功した。



この館にも、少しの情報源はある筈だから…。




気配を殺し、通路をゆっくりと進む。


足音を立てずに歩くのは久し振りだったけれど、訓練で何度も行った事。



そう難しい事でも無かった。

















「…」



ウナト様の私室から微かな明かりが洩れていて…


人の気配を感じた。



何か…重要な話が聞けるかもしれない…。





薄暗い廊下の壁に凭れ、そっと聞き耳を立てた…。



















「やっと…この国を動かす事が出来るね、父さん。」



「あぁ。お前の計画は実に見事だったな。」




「そりゃあ…カガリが結婚…なんて聞いたらあの弟も黙っていないでしょ。

 を軟禁して、カガリだけを外に出せばきっと、彼女だけ連れ出してくれると思ったんだ。」





え…?






「そんなにあの娘が良いか?確かに美しいし…仕事も良く出来る娘だが…。

 彼女がコーディネイターである事には変わりはないぞ?」




「そうだけどね…ここはオーブだよ。仮にも中立を語り、コーディネイターも受け入れる国さ。

 それがかえって好都合なんだよ。」





カガリを…わざと誘拐させた…?






「これで国の実権は父さんが握ったんだし…を妻に迎えても良いよね?」



「あぁ…。お前の働きは大したものだ。彼女を妻に迎える事も認めよう。」













どうしよう…



私が軟禁されていたのは…その為だったなんて…





散々とアスランに言われた事が、今頃になって身に沁みた。




このままじゃ…私は…




ウナト様の私室を離れると、部屋へと戻る方向の逆に進む。




ここを…出なければ…

















【あとがき】

エヘ…

省略し過ぎですか…?

本編ではアスランがAAに落ち着きましたし…

しっかりとOPではオーブ服着てますし…(微妙だけどさ)

一応これで、アスランの動きは治まったかなぁ…と勝手に思い込みました。

これでこの作品もようやく起動に乗りそうな予感です。

ヒロインはユウナ様のお屋敷から無事に脱出出来るのでしょうか?




ここまで読んで下さってありがとうございます。

また次のお話で…








2005.7.10 梨惟菜









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