「少しは…気が晴れた?」



「え…?」



「何か…元気無かったから。」



帰りの車の中で思い切ってアスランに聞いてみた。


戻って来た直後に比べたら少しスッキリとした表情を見せるアスランだったから…。


きっとキラと会った事で何か思う事があるんだと思う。




「心配…掛けてごめんな?」


「ううん、大丈夫。」





アスランの事を心配するのはちっとも苦じゃないの…。



















戦場の歌姫 〜Destiny〜


  ACT.1 募る不安




























「もう一度…プラントに行こうと思うんだ。今度は俺1人で…。」



「…うん…。そう言うと思ってた。」






帰りの車の中で、アスランは宇宙で起こった事件の話を聞かせてくれた。





ミネルバで会った赤服の少年達の事…


ユニウスセブン落下事故の裏側に隠された真実…


イザークとディアッカと戦場で再会した事…




話を聞いている内に、今回の事の重大を実感させられた。


誰かの知らない所で起こる事件…

色んな人の思惑が絡み合う。



パトリック様が亡くなって…プラントの指導者が変わって…


だからと言って全てが上手く行く訳でも無くて…



その中で、パトリック様の意志を継ごうとする者が再び起こそうとした悲劇…。



その真実に身震いした。



その話を聞いた時から、何となく分かってたの。


アスランは落ち込んでいるだけじゃない…迷っているんだ…って…。







「一応…聞くけど…俺と一緒に…」


「うん…行けない…。」


「そう言うと思った。」





見た目とは裏腹に頑固であるが一度決めたらそう簡単には折れない事は幼馴染である俺が良く知っている。



「行きたいのは山々なんだけど…ね。」


「あぁ…分かってるよ。俺が居ない間…。」



「カガリの事…でしょ?任せて。」


「それと…」


「ユウナ様の事も…ね。」



クスクスと笑いながらは指輪を目の前に出して確認する。




「私にはアスランだけだから…ね。」


「じゃ…カガリにも話して来る。」


「うん。私も仕事に行かなくちゃ。見送りには行けないと思うから…。」


「あぁ…。」


「気を付けて…ね…。」


「行って来るよ…。」




名残惜しそうに寂しく微笑むを抱き寄せたアスランは、甘い口付けを落とした。






どうして上手くいかないんだろう…。


が俺の恋人になって2年以上が経つ。


お互いに結婚も考えていて…彼女の両親にも了承を得ていて…


なのに、未だに俺達は恋人同士のまま…。



同じ部屋で暮らしていても、なかなか噛み合わない時間。


それでも彼女を愛しいと思う気持ちは褪せる事は無い。


それどころか、想いは募る一方で…。


今すぐにでも籍を入れてを俺の妻にしたい。


それはずっと思っていた事だけれど、今のままではそれも叶わない。



所詮、今の俺は偽名を名乗る事しか出来なくて…


オーブの国家元首の随員であって…






けれど、俺がここに居ても、何も出来る事は無い。

カガリの護衛なんて、他の誰にだって出来る事だ…。



だって、セイランの秘書として一生懸命に働いてるのに…


俺は…ここに居ても無力だから…。







愛しいを地上に残して行くのは不安だけれど…


俺に出来る事があるとしたら、それはここではなく…空の上にある…。












にカガリを託し、カガリにを託し…


俺は宇宙に向けて飛び立った。





















相変わらず忙しい行政府…


ウナト様に少しだけ時間を貰った私は少しの花を持って慰霊碑へと向かった。




時々訪れるその場所には、常に綺麗な花が咲き乱れる。


けれど、先日の事件の津波で断崖に咲いていた花は枯れていた。



慰霊碑の前に花を添えた私は、静かに目を閉じて祈り、その場を後にした。








「…?」




この時間帯には珍しく、人が1人こちらへ向かって来る…。



私より少し年下…と思われる黒髪の少年。


片手にピンク色の携帯電話…。



こんな時代に携帯を持っている人も珍しいから、少し気になって視線を止めてしまった。







「…この辺の…人ですか?」


「あ…えぇ…。あなたは…?」



先に口を開いたのは少年だった。


赤い瞳は鋭く、光を感じさせない。





「昔は…ここに住んでたんだけど…」



それだけ言うと、少年は黙り込む。



じゃあ…今は…?



初対面の人にそこまで聞くのも失礼な気がして…



「じゃあ…。」



私は少年に背を向けて、行政府へと続く道を歩き始めた。




あの子…どうして今にも泣き出しそうな瞳をしていたんだろう…。






















バタン…



薄暗い部屋に明かりを灯すと、オレンジ色の蛍光灯が部屋を照らす。



また…アスランの居ない夜が続くのかと思うと、無意識の内に溜息が零れた。



プラントを離れてもう2年以上になる…。


今までよりも一緒に居る時間が多かったせいなのか…逆に寂しさが募る。



アスランの居ない空間が…凄く虚しく思えて…胸が張り裂けそう…。




好きだから不安になる…。


好きだから一緒に居たいと思う…。


好きだから…相手の事を気遣いたいと思う…。





アスランがそう決めたのなら、私はアスランを心から応援してあげたい。


例え、側に居てあげる事が出来なくても…。



心はいつも、同じ場所にあるから…。












アスランの部屋へ入ると、カーテンの閉められていない部屋に差し込む月光。


その光に目を細めながら、カーテンを閉めると部屋に闇が訪れる。



は普段アスランが眠っているベッドに潜り込むと、枕を抱き締めながら瞳を閉じた。



微かに残る…アスランの香り…。






少しでもアスランを近くに感じたくて…


その夜、はそのままアスランのベッドで眠ってしまった…。






















、君には暫くの間、カガリの護衛に当たって貰えるかな?」



「え…?」



ユウナ様から意外な仕事を任されたのは、数日後の事…。




オノゴロに停泊していたミネルバがオーブを発つ事になった日の朝の事だった。



「色々あってカガリも精神的に疲れているからね…君に側に居てあげて欲しいんだよ。

 君の仕事は暫くの間僕が引き継ぐから…頼めるかい?」



「はい…勿論です。」



が頷くと、ユウナははにかみながら続ける。



「それと…カガリと結婚する事になったから…。」


「は…?」



「カガリには明日からセイラン家に入って式の準備に入って貰う。

 も一緒にセイラン家で生活して貰うよ?いいね…?」



「え…でも…」


何で急にそんな…


何もこんな大事な時にあげなくてもいいのでは…?



そう言いたかったのは山々なのだけれど…

所詮は雇われ者の民間人…。


出過ぎた真似は許されない。




「分かり…ました…。」








アスランが居なくなってしまった途端に物事が急に動き始める。


目まぐるしい環境の変化に戸惑う事も許されぬまま、指示に従う事しか出来ない。




カガリも…どうして急に結婚に承諾したのだろうか…。



肝心の彼女はミネルバの艦長に最後の挨拶に行きたいと1人で出向いてしまった。






戸惑いを隠せずに俯いて考えるの薬指にはしっかりと指輪が光っていて…。


その石の光にユウナは顔を歪める…。



その表情の裏には何が秘められているのだろうか…?





















【あとがき】

アスラン不在になってしまったせいで、ラブラブが書けない…。

ヒロインをプラントへ連れて行くべきか迷ったのですが…。

この先どうしても書きたい展開がありまして…

そうなると、プラントに行っちゃうと書けないんですわ。

なので、お2人にはしばらく我慢して頂こうと思います♪

ではでは…。

読んで下さってありがとうございました♪






2005.5.24 梨惟菜







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