「ユニウスセブンが地球に!?」




突然の報道に一同は騒然とするしかなかった…。


は不安そうな瞳のまま、窓から空を見上げる。



愛しいあの人が居る筈の空を…。



今…何処で何をしているのだろうか…。

連絡が途絶えたままの状態が続く中で、オーブ行政府も慌しい。




この非常事態に代表であるカガリが不在というのは国にとっても一大事。


カガリに代わって国の指揮を執るのはウナト様。


つまり、秘書である私の仕事も必然的に増える訳であって…。




それでも気になってしまうのは遠く離れた場所に居る恋人の事。



今日も薬指に光るのはあの人から貰った愛の証…。





















戦場の歌姫 〜Destiny〜


  ACT.1 募る不安























「では、最悪の事態に備えて国民の安全確保だけは怠らないように!

 念の為に艦隊も準備させておけよ!」



慌しい行政府。


そもそも…百年の安定軌道にある筈のユニウスセブンがどうして地球に向けて降下しているのか…

様々な説が噂となって飛び交ってはいるが、正確な情報は得られていない。



プラントからは何とか対処するとの声明が届いたがそれでも不安が完全に拭い切れた訳でも無く…







「代表が不在の時にこんな事態が生じるなんて…。」


カガリの帰国…せめて連絡を待つ一同だが、それも期待出来そうに無い。










、大丈夫かい?だいぶ疲れてるみたいだけど…。」


「ユウナ様…いえ、大丈夫です。」



確かに連日の多忙で睡眠時間もロクに取れてはいなかったけれど、それは皆同じ事。


そんな事を言っている場合でも無い。



「それにしてもカガリが心配だな…。無事だといいんだけどねぇ。」


「大丈夫ですよ。優秀な護衛も付いてるんですから…。」


「まぁ…彼の腕だけは頼りにしてるけどね…。」







こんな事になるのなら…

あの時アスランと共にプラントに向かえば良かったと今更ながら後悔する自分が居た。














「カガリがデュランダル議長との面会を取り付けたんだ。

 極秘でプラントへ赴く事になったから、暫くオーブを留守にしなくちゃならないんだ。」




「…そう…なんだ。」




数日前…仕事から戻ったアスランが疲れた顔で私に言った。


先の戦争から2年…。


オーブの復興に尽力を尽くしたカガリのお陰で、オーブは以前と変わらぬ美しさを取り戻した。


その陰で彼女の護衛として働くアスランと…

アスハ家に次ぐ勢力を持つセイラン家の当主の秘書として働く私。



祖国であるプラントを亡命した私達がこうしてオーブで暮らせるのもカガリの力あってこそ。


だからこそ、私達もオーブ復興には全面的に協力した。







それでも先の戦争から残されたままの課題はいくつかあって…。

それを早急に解決すべく、今回カガリはプラントへと向かうのだそうだ。




も行かないか?」


「え?プラントに…って事?」


「あぁ。里帰り…って訳には行かないんだけど…置いて行くのも心配だし。」



何より不在中にユウナ・ロマに何かされたら堪らないしね…。


相も変わらず心配性な恋人に私も思わず顔を綻ばせる。



「気持ちは嬉しいんだけどね…私は待ってるよ。」


「でも!!」


「だって…カガリが不在の間に国の指揮を執るのはウナト様なのよ?

 秘書の私まで不在にしちゃうのは良くないと思うの。」




一緒に行きたい気持ちは山々なんだけどな…。


苦笑しながら何とか説得を試みると、アスランも渋々と承諾した。




「いいか、指輪だけは絶対に外すなよ?」


「…分かってるって。」





















アスラン達がプラントに向かう前には予想もしなかったの…。


こんな事態が待ち受けてるなんて…。















事態の把握と対策に奔走している間にも、確実にユニウスセブンは迫っていた。


デュランダル議長の素早い対応の甲斐あって、直撃は逃れたものの、

粉砕された破片は地球の各地へと落下し、甚大な被害をもたらした。



幸いにもオーブは大きな被害も無く、その後の対応も難なく進んだが、

この事件により、再び地球とプラントの間に大きな溝が生まれる事となる…。





















「コレ…は…」



オーブ行政府に届けられた驚くべき映像。

ユニウスセブン落下事件の舞台裏…。


その映像を目の当たりにし、私はただ言葉を失った。



この事件にはきちんとした首謀者が居て…。

しかもそれがザフトの軍人だった。


地球に住むナチュラルの怒りを煽るには十分過ぎるこの映像。

一体どこで手に入れたものなのか…。





「この事実を受け、大西洋連邦から我が国に同盟締結の要請が来ている。」



「…っ…!!」


ウナト様から告げられた言葉にその場にざわめきが起こる。

あくまでも中立の立場を貫く姿勢のオーブに対する要請…。


また…あの時と同じ様に…








「ウナト様!ザフト軍艦ミネルバより入電がありました。

 アスハ代表がミネルバに同乗し、地球へ降下しているとの事です。」



「何!?カガリ様が!?」



「ミネルバは現在、こちらへ向かっているそうですが…

 艦の損傷が酷く、出来ればオーブで補給を行いたい…との申請も来ています。」



「…仕方あるまい。代表を送り届けてくれると言うのだ。」








ザフトの軍艦…


アスランも無事に戻るんだ…。




安堵するを横目で見るユウナは面白くない顔…。





「まぁ…色々と厄介な事になったが、代表が戻らねば何も始まらない。

 とにかく代表のお帰りを待ってすぐに会議だ。」





















これがザフト軍の最新鋭の軍艦…。


オーブでも話題になっていた新型艦に目を凝らす。




これでも元軍人だ。


外観を見ればその艦の素晴らしさはそれなりに理解出来る。


その戦艦もあちこちに損傷を抱え、宇宙で何があったのかを物語っているようだった。
















「ウナト!心配掛けたな!!」



その戦艦から一番に降りて来たのはカガリだった。


その後ろにはアスラン…


さらに艦長と副官らしき人物が後に続く。




「カガリ!心配したよ!!」


一番にカガリに寄り、しっかりと抱き締めるユウナ様にカガリは戸惑う。


「ユ…ユウナ!!」



「こらこら…ザフトの方々が驚いておいでだぞ。

 代表、ご無事で何よりです。」


「私の方こそ、大事な時に不在で済まなかった。状況はどうなっている?」


「それは後ほど…行政府にて…」



ウナト様が耳元で小さく囁くと、カガリはチラッと私に視線を送る。



…色々と心配を掛けたな。大変だっただろう?」


「あ…いえ。大丈夫です。」


「今日はもう休んでくれて構わないから…。

 その…アレックスも疲れてると思うし…一緒に帰ってやってくれ。」


「…はい…。」


カガリなりの気遣いなんだと悟ったは、頬を少し染めてアスランの方へと視線を向ける。



「ただいま、。」


「お帰りなさい。アレックス。」






















パタン…



部屋のドアを閉めるのと同時に、アスランによって身動きが取れなくなってしまった。


「ちょっ…アスラン…!?」


後ろから抱き締めたまま、耳元で深い溜息を付くアスランに目を細める。


こういう時は…大抵落ち込んでいる時。



…会いたかった…。」


「私も…会いたかったよ…アスラン。」




こうして2人きりにならないと呼ぶ事の出来ない彼の本名。


体を彼の方へと向き直すと、アスランが私の額に自分の額をくっつける。






…何かあったの…?



今にも口からそう飛び出しそうだったけれど…

自分から話してくれるまでは触れない方がいいのかもしれないと思ったから…。








「疲れたでしょう?シャワー浴びてきたら?

 その間に何か食べる物、作っておくから…。」




「あぁ…ありがとう。そうさせて貰う。」




バスルームへと向かったアスランを確認すると、私はエプロンを着けてキッチンへと立った。












「キラから連絡があったわ。」


「キラから?」


アスランは食事の手を止め、に視線を送る。



「うん。島にも津波が来て、住める状態じゃなくなったんですって。

 こっちに来てるから…だって。」



「そうか…じゃあ食事が済んだら会いに行ってみようかな…。」


「私も行っていい?ラクスにも最近会ってないし…。」


「あぁ。一緒に行こう。」





















「お久し振りですわね、。」


「皆無事みたいで良かった。」


相変わらず元気にはしゃぎ回る子供達にも安堵する。


津波で家事態は流されてしまったものの、皆はシェルターに避難し、無事だった。



「キラ、アスラン。先に行って下さいな。

 わたくしたちは歩いて浜から戻りますから。ね、?」


「うん。久し振りに積もる話もあるんでしょう?」


「あぁ…じゃあ先に行くよ。」








「大変でしたわね…も…。」


夕陽に染まる浜辺を歩きながら、ラクスと久方ぶりの会話…。


「私は…何もしてないから…。

 でも、アスランは色々とあったみたいで落ち込んでる。」



何があったのかは聞けないんだけどね…。


苦笑しながら淡々と語るに、ラクスは黙って聞き入れる。



「今頃…キラに話してるんじゃないかな?」


結局…一番アスランの事を理解してるのはキラだから…。



「アスランは…何でも抱え込んでしまう方ですものね…。」


「うん…。」


「でも、いざとなった時に支えてあげられるのはだけですのよ?

 それは忘れないでくださいね?」


「…ありがとう…。」

















【あとがき】

ようやく運命編へと突入する事が出来ました。

色々と考える事も多く…

更にまだ本編は放送中という事で、この連載の更新はスローペースになるかと思います。

気長にお付き合い下さいませ。





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