「まったく・・・あやつは何をしているんだ・・・。」
アスランが地球へと向かって1ヶ月が経とうとしていた。
私の生活は一変し、目まぐるしい日々を送っている。
議長の秘書はとにかく忙しい。
何故、今まで議長は秘書を置かなかったのか疑問に思ってしまうくらいだった。
お陰で頭の中を渦巻く色んな思いについて考え込む時間も無く、
正直ラクだった・・・。
婚約の件については、未だ返事を出していない。
戦場の歌姫
ACT.8 溶けた心の行く先に・・・
アスランから任務に関する連絡は一向に入らなかった。
その間にも戦況は日々変化していて・・・。
その状況を把握したり、情報処理に追われたり・・・。
案外、自分は事務的な仕事の方が性に合っていると思う。
地球連合軍が中立のオーブに軍事協力を申し入れて、
それを拒否したオーブに対し、武力行使を行った。
結果、オーブはマスドライバー施設を破壊し、
実質的にオーブ政府は崩壊したと聞いている。
そこまでして中立を貫いたオーブの代表・・・。
揺るぎない信念がなければ出来ない事だと思う。
「議長、本日提出の種類が何枚かありますがどうしましょう?」
「あぁ、そうだったな。頼めるか?」
「分かりました。では、行って参ります。」
書類を片手に評議会を出る。
「はぁ・・・」
エレカに乗り込み、ようやく落ち着いた私から、自然と溜息が漏れた。
疲れた・・・。
忙しい最中でも考えなければいけない事はたくさんあった。
その中でも一番の問題は、婚約・・・。
アスランの気持ちがどこにあるのかも分からないのに、
軽々と了承の返事は出せない・・・。
ううん・・・出したくない・・・。
互いの気持ちの通い合わない結婚に幸せなんてきっと無い。
気が付けば、愛する事だけでは物足りない自分が居て、
アスランからの愛を必死に求める様になっていた。
アスラン・・・あなたは今、どこに居るの?
どこで何をしているの・・・?
アスランの無事を祈る事しか出来ない自分がもどかしくて、
街を歩く幸せそうな恋人達にも溜息が漏れた。
「・・・クルーゼ隊が戻るんですか?」
辿り着いたのはザフト軍本部。
ロビーを歩いていた知り合いに声を掛けられ、少し会話を交わしていた。
そこで知らされたのが、クルーゼ隊がプラントに帰還命令が出て、こちらへ向かっているという事だった。
「ビクトリアが落とされたでしょう?
これで本格的に連合軍が宇宙に上がって来るんじゃないかって話が出てるらしいわ。」
「・・・そう。」
どこまで悪化したらこの戦争は終わるんだろう・・・。
先の見えない戦い・・・。
「ゴメン、書類出しに来たんだった。急ぐから行くね。」
「うん。またね。」
のんびりと雑談していられるほど暇なワケでもない。
とりあえず仕事はきちんとこなさなければ・・・。
軍本部の雰囲気は評議会とはまた違った感じで・・・
あちこちで色んな噂が飛び交っていた。
一つ一つに耳を傾けていたらキリがないくらいだ。
その中に、気になる噂を耳にした。
『放棄されたL4コロニー軍に何者かが集まっているらしい』
・・・ザフトの人間じゃないなら連合軍でしょう?
そう思ったけれど、何か引っかかる・・・。