「他に・・・好きな男でも・・・?」
「いえ、違います・・・。」
「私の思い違いでなければ、君はアスランの事を慕ってくれていると思っていたんだが・・・。」
「・・・・」
やはり見透かされていた・・・。
周囲にいる人間に悟られてしまうような気持ちなのに
どうして本人には伝わらないのだろう・・・。
そんな気持ちがもどかしかった。
戦場の歌姫
ACT.8 溶ける心の行く先に・・・
「そのお言葉に相違はありません。
ですが、彼の・・・アスランの気持ちは違いますから。」
俯いて拳を握る私に議長は続けた。
「アスランの気持ちは関係無い。
今の段階でザラ家に嫁ぐ資格のある者は君意外に考えられん。
それだけだ・・・。」
・・・資格って何・・・?
遺伝子の組み合わせ・・・
それだけが全てだと言うの・・・?
制御しきれない想いが今にも言葉に出そうになってしまうのを、
私は理性で必死に抑え込んだ。
「・・・申し訳ありません。
やはり少し・・・時間を下さい。」
「・・・良い返事を期待している・・・。」
私が・・・アスランの婚約者・・・?
この関係をどれだけ待ち焦がれていただろう・・・。
嬉しくて仕方無い筈なのに、心の底から喜べない自分が居た。
だって・・・そうでしょう?
確かにこの話を了承すれば、アスランと私は将来的に夫婦になって・・・
ずっと望んでいた未来が手に入る・・・。
けれど違う・・・。
私が欲しいのはアスランの心なのに・・・
アスランの中に私を愛してくれる気持ちが入って初めて、
私の未来が手に入るの・・・。
「・・・人の心なんて縛れるワケないのにね・・・。」
議長室から出た私は、小さくそう呟いた・・・。
久々のプラントなのにちっとも心が晴れない。
仕事もまだまだ山積みだ。
しかも、新しい仕事は最高評議会議長の秘書。
兼護衛とも言われたけど、そんなのは名目に決まってる。
現に、議長の護衛は有能な軍人ばかりだし、私ごときが出る幕も無い。
軍人である私に対しての気遣いなんだろうな・・・。
「ただいま帰りました・・・。」
久々に我が家の門をくぐった。
「!!お帰りなさい。心配していたのよ。」
玄関先で迎えてくれたのはお母様だった。
「お母様、お久しぶりです。
色々とご心配をおかけしました・・・。」
お母様は安堵した表情で私を抱き締めた。
「色々あったのね・・・。
でも、あなたが無事で良かったわ・・・。」
「お母様・・・っ・・・」
思わず腕の中で涙がこぼれた。
久しぶりの我が家・・・
懐かしい空気、匂い・・・。
私・・・帰って来たんだ・・・
そう実感したら急に全身の力が抜けてしまって・・・
子供みたいに声を上げて泣いていた・・・。