『こちらは地球軍第8艦隊、アークエンジェル!!』
足付きからの通信に動きが止まる・・・。
若い女性の声だった。
『ザフト軍に告ぐ。当艦は現在、プラント最高評議会議長の令嬢、ラクス・クラインを保護している。』
ラクス・・・を!?
女性は続けた・・・。
『偶発的に救命ボートを発見し、人道的立場から保護したものであるが、
以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴艦の彼女に対する責任放棄と判断し、
当方は自由意志でこの件を処理するつもりである事をお伝えする。』
何を・・・言っているの・・・?
ラクスを・・・
民間人の彼女を人質に取る・・・と?
突然の宣告に、混乱してしまい、状況を上手く把握できない・・・。
戦場の歌姫
ACT.4 心の在り処
こちらが攻撃をしたら・・・ラクスを殺す・・・。
つまりは、そういう事なの・・・?
何て卑怯な・・・。
操縦桿を握る手が汗ばみ、小刻みに震える・・・。
『全軍、攻撃中止だ。』
クルーゼ隊長からの通信が入る。
『全機、直ちに帰艦したまえ・・・。』
「くそっ!!」
私の後に戻って来たアスランが、壁を思い切り叩いた。
「アスラン・・・」
足付きには婚約者と親友・・・。
アスランの感情に込められた怒りと悲しみが私の胸を締め付けた・・・。
「とにかく・・・ブリッジに行こう・・・?
隊長の指示を仰がなくちゃ・・・。」
「失礼します!!」
「アスラン、。ご苦労だったな・・・。」
「隊長、これはどういう・・・」
「通信は聞いたのだろう?そのままの通りだ。
ラクス嬢を盾にされてしまっては我々も手は出せない・・・。」
確かにその通りではあるが・・・
「とにかく、足付きをロストしないよう、距離を保ち機会を伺う。
それまでは君達も待機していてくれたまえ。」
「・・・了解・・・しました。」
無重力の筈なのに体が重い・・・
ブリッジから私の部屋って・・・こんなに遠かった・・・?
「・・・アスラン・・・?」
背後に居た筈のアスランの姿がいつの間にか消えていた。
部屋の方向は同じ筈なのに・・・。
「アスラン、何して・・・」
アスランはブリッジの扉の前で微動だにせず、外を眺めていた。
いつもに増して眉間にしわを寄せる彼の表情・・・。
これ以上、聞く必要もないだろう。
「アスラン、気持ちは分かるわ。
でも、次の出撃に備えて休んでおかないと・・・。
戦える人間は少ないんだから・・・。」
それだけ告げて、私は踵を返した・・・。
私に出来る事なんて何もないのかも知れない・・・。
きっと、私ではアスランの支えにはなれない・・・。