ピンポーン
静かな部屋に鳴り響くインターフォン。
ベッドに体を預け、天井を仰いでいたアスランはゆっくりと体を起こした。
時計は20時を指している・・・。
こんな時間に来客なんて珍しいな。
面倒臭いから居留守でも使おうかとも考えたが、何か急用かもしれないと思い、
モニターの前に立った。
そのモニターに映し出されたのは、だった。
戦場の歌姫
ACT.10 祈りの果てに
「こんな時間にどうしたんだ?用があるなら通信でも良かったのに。」
「うん。ちゃんと顔見て話したかったから・・・。」
部屋に通されたは椅子に腰掛けた。
「何か飲む?外、寒かっただろ?」
「あ、ううん。大丈夫。すぐに帰るから・・・。」
テーブルを挟んでアスランも椅子に座った。
「何かあった・・・?」
「昨日の事・・・一日考えてみた。」
「うん。」
「聞きたい事があるの。」
「何?」
深く息を吸い込む。
次の言葉に不安を抱きながら、アスランも息を呑む。
「私、ちゃんとやっていけるかな・・・?」
「え・・・?」
「アスランに結婚しようって言われて、勿論答えは一つしか無かったんだけどね、
本当に大丈夫なのかな・・・って不安になったの。」
見えない未来に不安を抱くのも無理は無い。
大好きだったアスランと結婚出来る・・・。
嬉しくない筈は無い。
でも、知らない土地で・・・新しい生活を始めるという事は容易では無い。
「私、ずっと大事に育てられて来たから心配なの。
アスランの足手まといになっちゃうんじゃないか・・・って。」
本当はアスランも迷っていた。
停戦して間もない今、どこも慌しくて・・・。
皆、新たな時代に向けて歩き始めたばかり。
こんな時にプラントを出るという決心。
を迷わせるに決まっている・・・。
自分は勿論、にだって一生の問題。
の夫となり、彼女を一生守って行く義務がある。
それを、知らない新しい土地で始めようなんて・・・。
「がどんな答えを出したとしても、俺の気持ちは変わらないよ?
今はまだ無理だって言うなら、一人でオーブに行くから。
の気持ちの整理がつくまでちゃんと待ってる。
だから、ゆっくり考えて、納得の行く答えを出して欲しいんだ。」
「っ・・・違うの・・・そうじゃないの。
アスランに対する気持ちは変わらない。ううん。前よりも強くなってる。
問題は・・・私の中にあるの。」
「問題?」
「オーブで・・・私に出来る事なんてあるの?」
純粋に驚いた。
ここまで迷うの姿は初めてで・・・
軍に志願した時だってこんなに迷っていなかったと思う。
「それを・・・一緒に見つけて行けばいいんじゃないか?」
あまりにも簡単過ぎる答えに、は目を丸くした。
「時間はたっぷりあるんだから、焦らなくてもいいさ。
俺はずっと一緒に居るんだし・・・。
結婚するって、そういう事だろ?」
そう言われたの返事は無く、黙って俯いてしまった。
何か間違った事を言ったのだろうか・・・?
自分の発言を思い返しながら考え込んでしまうアスラン。
「私、帰る。」
沈黙を破ったにアスランは慌てて顔を上げる。
「あぁ・・・外まで送るよ。」
「ううん。玄関まででいい。」
そうか・・・
アスランはいつもより低めの声で返事を返した。
「アスラン・・・」
玄関先で振り返るの顔はどこか晴れていた。
「一緒に・・・行ってもいいかな?」
「え・・・?」
「一緒に・・・オーブに行きたい。
アスランと一緒に居たい・・・。」
頬を染めて、目を細めて・・・。
そんなの精一杯の返事に、アスランも頬を緩めた。
「うん。一緒に行こう。」
こんなに幸せでいいんだろうか・・・。
この現実を疑ってしまいたくなる位に、互いの心は満たされていた。