バラ園を通り抜けると、緑に囲まれた小さな池が姿を現した。




そこから聴こえる、甘い歌声・・・。




かつて、プラントの歌姫だった、俺の恋人の歌声。





プラントの歌姫は、戦場の歌姫となり・・・




戦争が終わった今、俺だけの歌姫になった。




そんな現実が嬉しくて幸せで・・・


俺に出来るなら、どんな事をしてでも彼女を幸せにしてやろうと心に決めた。














戦場の歌姫


   ACT.10 祈りの果てに













「・・・ここも変わってないな・・・。」




恋人の声に、は振り返る。



「一番・・・お気に入りの場所だもの。」






一人っ子のの為に作られた遊び場。


コーディネイターで一人っ子は珍しくないが、両親も仕事で忙しく、
なかなか構ってもらえなかったは幼少の頃からここで遊んで育った。





小さな池のほとりに作られた木製のブランコ。



小さい頃には多少大きく感じられたブランコも

今ではの体にピッタリのサイズになっていた。






ブランコを吊るロープを握るの手に、
アスランの手が重ねられた。





「話って何だったの?」



ゆっくりと顔を上げると、空ではなく、アスランの濃紺の髪の毛が視界を覆った。



柔らかい髪の毛が頬をくすぐる・・・。



その感触に目を細めていると、ゆっくりとアスランの唇がのそれを覆った。









「大事な話があるんだ。聞いてくれるか?」



「・・・うん。」




の返事を確認したアスランは、の前に回って、しゃがみ込んだ。


と同じ高さに目線を合わせたアスランはの目を見つめて口を開く。






「プラントを出ようと思うんだ・・・。」


「え・・・?」






プラントを・・・出る・・・?




「どう・・・して・・・?まだ処分は決まってないじゃない・・・。」




とディアッカは・・・降格処分程度で済むと思うんだ。
 でも、俺はそうは行かないから・・・。」





「・・・っ・・・議長の件なら・・・アスランに責任は無いでしょう!?」



「確かにそうだけど・・・でも、周囲はきっと、それでは納得しないと思うよ。」



「そんな・・・。第一、プラントを出てどうするの?」




「オーブへ行くよ。
 キラやラクスもいるし・・・。」




『のんびりしていられない』って・・・そういう事だったの・・・?








、一緒に来てくれないか?」


「アスラン・・・」




「ご両親には今話して来た。
 が決める事だからって言ってくれたよ。」






・・・嬉しい・・・



心の底から嬉しいと思う。




なのに・・・言葉が出て来ないのはどうして・・・?








「・・・返事は今じゃなくて良いから、ゆっくり考えて。
 今日は帰るよ。」





















どうして返事、出来なかったんだろう・・・。




プラントを離れて暮らすのが怖いから・・・?



お父様とお母様と離れるのが寂しいから・・・?




話があまりに急展開すぎて頭がついて行かない・・・。







お母さんだけでなく、お父さんも失ったアスラン。



一人息子だから、家族はもう居ない・・・。





『血のバレンタイン』の後・・・。



合同葬儀に参列した時のアスランの顔を思い出した。


辛い筈なのにしっかりと前を見て背筋を伸ばして・・・。



その側にはラクスが居た。



あの時は、アスランを支えるのはラクスなんだって思ってた。



でも、今は違う。




私はアスランが好きで・・・


アスランも私を好きでいてくれて・・・。







私・・・アスランの支えになれるのかな・・・?


いつもアスランに助けてもらってばかりで・・・

アスランに守られてばかりで・・・。





その不安が私の決心を鈍らせる・・・。



アスランに頼ってしまう自分が怖い。


アスランに依存してしまうんじゃないか・・・。



そんな想いが駆け巡り、最後の一歩が踏み出せないでいた・。













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