パンッ!!
格納庫に鳴り響く音に、その場に居た一同は目を見開いた。
無理も無いだろう・・・。
あの、温厚で優しいが、恋人を力一杯叩いた光景を目の当たりにしたのだから・・・。
「・・・ホラ、殴ったじゃないか・・・。」
カガリはコソッとキラに耳打ちをする。
「カガリ・・・そんな事言ってる場合じゃないと思うけど・・・」
赤く腫れ上がったアスランの頬・・・。
いくら女とはいえ、だって軍人だ。
全力で叩けば相当痛いに決まっている。
アスランだって、避けようと思えば十分に余裕はあった。
けれど、アスランは避けなかった。
いや・・・避けれなかった・・・というのが正しい表現かもしれない。
それ程に、の表情は真剣だったから・・・。
戦場の歌姫
ACT.10 祈りの果てに
「ごめんなさい・・・ちょっと、外してもらえませんか?」
は申し訳なさそうに、その場に居た人達に頼んだ。
「あ・・・あぁ。」
その場に居たキラ達を始め、整備士達も格納庫を出て行く。
「・・・」
2人きりになった格納庫・・・。
誰も居なくなったと同時に、の瞳に涙が浮かんだ・・・。
カガリにヤキンでの詳細を聞かされたは、
すぐにアスランの方へと体を向け、
気が付けば彼に思い切り平手打ちをしていた。
無意識だった・・・。
生まれてこの方、人を殴った事なんて無い。
殴り方なんて知らない。
けれど、体が勝手に動いていた。
「このままアスランが戻らなかったら・・・後追ってたよ。」
迷いの無い瞳・・・。
何を切り捨ててもアスランだけを想い続けたにとって、
アスランが居ない人生なんて考えられない事。
小刻みに震えるの体・・・。
溢れそうな涙を必死に堪えるその表情・・・。
「ごめん・・・。確かに・・・俺が馬鹿だった・・・。
ちゃんと帰って来るって約束したのに・・・。
もう少しで約束破る所だった・・・。
本当にごめん・・・。」
アスランから出る、謝罪の言葉・・・。
はそっと手を伸ばし、アスランの頬に触れた。
「ゴメンね・・・痛かったよね・・・。」
赤く腫れ上がる頬に、の手が冷たく感じる。
「俺こそゴメンな・・・。手、痛かっただろ・・・?」
「平気・・・。」
その頃、格納庫前の通路では、2人を心配する一同が事の結末を待っていた。
「がマジギレなんて・・・初めてじゃねぇ?」
眉間に皺を寄せながら考え込むイザークを和ませようと思ったのか・・・
ディアッカの発言は逆効果だった。
「そんな事知るか。」
が真剣に怒る姿なんて、確かに初めてだった。
アスランがジャスティスもろとも自爆しようとしたなんて・・・。
があんな行動を取らなかったら、俺が確実に殴っていた。
プシュー
開かれた格納庫の扉に視線が集中する。
「えっと・・・お騒がせしました・・・。」
ほんのりと頬を染めたが謝罪する。
しっかりと繋がれた2人の手に、一同は安堵した。
「フン。貴様が戻って来ないような腑抜けだったら、
今度こそは俺の物だと思ったんだがな。」
「・・・イザ・・・」
「それは困るな・・・。ようやく手に入れた俺の歌姫なんだから。」
一見、険悪そうに見える2人・・・。
けれど、口の端を吊り上げ、微笑し合う2人。
「さぁ、これから忙しくなるぞ!」
「そうだね・・・。」
「アスラン、ちょっといい?」
3隻の戦艦がプラントに向かう・・・。
しばしの休息の時間。
「・・・どうした?」
「ちょっと心配になったから来ただけ。」
「何が?」
「アスランが・・・。」
「俺が?」
「うん。」
ベッドで横になっていたアスランはゆっくりと体を起こし、腰掛けた。
がその隣にゆっくりと腰を下ろす。
「ヤキンでの事・・・カガリに聞いたから・・・。」
の言葉に、アスランは眉を寄せた。
「ゴメン。俺が話さなきゃいけない事だったんだよな・・・。」
「ううん。気にしないで。色々あったんだもん、仕方ないよ。」
ユニウスセブンでレノア様を亡くして・・・
今度はヤキンでパトリック様が・・・
「私は幸せね・・・。」
「どうして・・・?」
「私は・・・アスラン達に比べたら失った物は少ないもの。」
家族を失ったアスラン、ラクス、カガリ・・・。
愛する人を失ったミリィさん、ラミアス艦長・・・。
他の人だって、大事な人をこの戦争で失った。
「私には・・・父様も母様も居るし、アスランだって居てくれる。」
「・・・戻ったらやらなきゃいけない事が沢山あるな・・・。」
「そう・・・だよね・・・。」
プラントに戻ったら・・・
私とアスランはきっと査問会にかけられたり・・・
軍を抜けた罪は重いんだろうなぁ・・・。
しかもアスランは全最高評議会議長の1人息子。
現議長代理のカナーバ女史はザラ議長と対峙していた穏健派・・・。
不安は沢山ある・・・。
でも、こうして生きているから・・・
何事も乗り越えて行かなくちゃ・・・。