『お掛けになった電話は電波の届かない場所にあるか…』




…ピッ…



「おかしいなぁ…今日電話するって言ったのに…。」



携帯のディスプレイを見ながらは首を傾げる。


毎日欠かさずに電話をしている訳ではない。

いつも一緒に帰って、家の前まで送って貰って…。


家に居る以外のほとんどの時間を一緒に過ごしている私達はあまり電話というものを使わない。




今日はミリィとカガリと買い物に行く約束をしていた為、アスランとはカレッジで別れたきりだった。


彼も丁度用事があると言っていたし…。




「まだ用事が済んでないのかな…?」



は携帯を閉じると、無造作にベッドの上に放り投げた。





声が聞けないだけで何となく不機嫌になってしまうのは、今が付き合い始めの楽しい時期だからだろうか…。






















愛情と友情のはざまで

   元カノ





















「こんな時間までありがとうございました。久し振りで楽しかったですわ。」



「いえ…俺で役に立てればいいんだけど…。」




車に乗り込んだピンクの歌姫は後部座席の窓から顔を出し微笑む。


歩道から彼女を見送ったアスランは車が向かった方向とは逆に向け、歩き始めた。













「もうこんな時間か…」



腕時計に視線を落とすと、短針は『9』を指している。


が電話する…と言ってくれたけれど、居た場所は電波の届かない圏外で…。


電話をくれたのかどうかも分からない…。



でも、彼女は電話すると言ったら必ずくれる子だ。


心配していたらいけないと思い、アスランは携帯を開いてリダイヤルを押した。










プルルルル… プルルルル…








何度か鳴らしてみたが、一向に出る気配が無い…。


アスランは首を傾げながら、コール音を止めた。
















の部屋では電話のコール音が鳴り響く…。

しかし、肝心の本人は不在だった。


ベッドの上に投げられたままの電話が光りながら…





















「アスラン!昨日はごめんなさい…。丁度お風呂に入ってて…」



運悪く、不在の時に鳴ってしまった電話…。


丁度入浴中だったはそのままリビングで家族とテレビを楽しみ…。


部屋に戻って着信に気付いた時には結構な時間になっていた。




「いや…俺も電波の届かない所に居たから…。電話、くれたんだろ?」


「うん。一応7時頃にね…。」



「そっか…。ごめん。」


「ううん。大丈夫。」



ニッコリと微笑んだは自分からアスランの指に自分の指を絡めた。


カレッジに行く時には必ず一緒。


元々、履修している科目が全て同じだから、構内では常に行動を共にしている。



最近では割と有名なカップルだ。


けれど、互いに遠慮しがちな性格なのか…


一歩構内に足を踏み入れると、決して手を繋いだり、腕を組んだりはしない。


その所為もあってか、往来時の2人きりの時は欠かさず手を繋ぐ。


それは、どちらから言い出した訳でもなく…ごく自然に始まった事。





2人が付き合い始めて3ヶ月。


今ではカガリとのわだかまりも解け、今まで通りの友達付き合いもしている。


何もかもが順調で怖過ぎるくらいだった。














「ねぇ…何か今日、やけに見られてない?」


今朝から妙に気になっていた周囲の視線。


構内に入り、ミリィ達と合流する前からの事だから、恐らくは私かアスランを見ているのだろう。


けれど、その理由が分からなくて…。




「…そ…そうか?俺は別に気にならなかったけど…。」


「そうね…あたしも…。」





「…じゃあやっぱり、見られてるのは俺達って事か…。」



互いに顔を見合わせてみるが、心当たりも無くて…



「まぁ…気にしててもしょうがないか…。コーヒー買って来る。もいるだろ?」


「あ…うん。」


「待ってて…。」



そう言い残し、アスランは席を立った。



「俺も一緒に行くわ。」



ディアッカがアスランを追って立ち上がった。

















「ねぇ…本当に心当たり…無いの?」



「え?どういう事?」




女3人になった途端、ミリィとカガリは眉をひそめて小さく告げた。



「…私…何か目立つ事した?」



「…そうじゃなくて…アスランの方よ。」



「え…?」



「アスランの奴…何も話してないのか…。」




2人が何を言っているのかさっぱり分からなくて…


「だから何の話なの?ちゃんと教えてよ。」




そう言うと、ミリィは溜息を吐き、戸惑いながらもカバンから1冊の雑誌を取り出した。




「これ…今日発売の週刊誌?」


「そう。トップ記事…見て。」




ミリィに言われ、手に取った雑誌のページをパラパラと捲る。





「…っ…コレ…」


メインのページに写っていたのは、アスランとラクス・クラインのツーショット。


見間違う筈が無い。


着ている服は、昨日の物…


私が気に入っている、アスランの紺色のジャケット姿…。






『ラクス・クライン、熱愛中の恋人はハイスクール時代の同級生!!』





見出しの記事に目を走らせる。



『2人の付き合いはハイスクール時代から。
 卒業後、一度は破局を迎えたものの、先日のコンサートでの再会をきっかけに再び接近。
 以降、2人で食事に行ったりしている様子。』




たった一晩でここまで調べ上げているなんて…。



恐ろしい程の情報網に身震いした。







「カレッジに記者が張ってないのがおかしいくらいよ?」


「確かにな…。彼女の事務所で抑えてるんだろうけど…。」







「あたし…こんなの知らない…。」


何も聞いてない…。

2人が会ってた事なんて知らない…。


何で…2人で一緒に居るの…?


彼女は有名人で…


街中を男の人と2人で歩いてたら…格好の餌食なのに…




ネタを提供しているようなものなのに…。


雑誌を持つの手は微かに震えていた…。




















一方、コーヒーを買いに立ったアスランも、後を追って来たディアッカに状況を聞かされていた。



何も知らずに注目を浴びていた当の本人はそれを聞いて青ざめる。


ラクスと2人で食事をしていたのは事実…。



それをに話さなかった事…


もしも彼女が知ってしまったら…




アスランは慌てての元へと走った。


ちゃんと自分の口から説明しなければ…

















!!」



彼女に叫んだと同時に、彼女の手の中にある雑誌に気が付く。


の顔は沈んでいて…



怒っている…というよりは、悲しんでいるという表情だった。





「アスラン…コレ…」


が差し出した週刊誌に黙って目を通したアスランは深く溜息を吐いた。






「彼女と会った事、黙っててごめん…。」


「じゃあ…本当なんだ…。」



「確かに会って食事はした!でも、ここに書いてある記事は全くのデタラメだから!」


「でも!半分は事実でしょう!?」




ハイスクール時代に付き合ってた事…


それはアスランの口から聞かされた事実…。







「どうして…彼女と会うって話してくれなかったの?」


「そ…それは…」



気まずそうに視線を逸らしたアスランの仕草は、を一層悲しくさせた。



「私にも…言えない事…なんだ…?」


「ごめん。彼女に…相談された個人的な事…だから。
 でも…記事に書いてあるような事は絶対に無いから…復縁とか…」



「分かった…アスランがそう言うなら信じるね…。」




は笑顔でそう返してくれたけれど…


心の底から笑っているようにはとても見えなくて…


ズキッと胸の奥が痛んだ。






物分りの良い子…


それが俺のに対するイメージ。



喧嘩もした事が無い…。





甘えてくれる事は少しずつ増えたけれど、我が侭は決して言わない。



だから…今もきっと自分に言い聞かせてる。



『アスランを信じてるから』…って…。



の気持ちが痛い程に分かっているのに…


彼女に真実を話す事が出来ない俺…。





に言えない事があると、面と向かって言ってしまったのに、それでも笑顔を必死に作る彼女…。







「ねぇ…そろそろ帰らない?ここに居ても目立つだけだし…。」



が眉を寄せて皆に言う。



「…そうね…帰ろっか…。」












並んで歩いていても、は気にしていない振りを繕う。


歩く度に周囲の視線が突き刺さるけれど、は気にせずに会話を繋げようとする。


それに一生懸命に応じる友人達…。



俺の所為で…こんなにも不自然な会話が繰り広げられてるなんて…。





もしかしたら…記者が張っているかもしれない…。


そう思って、門に視線を向けた時、アスランの視界に茶髪の少年が入る。




「アスラン…?」



急に立ち止まったアスランを不審に思った一同は、彼の視線の先を見る。


もしかして記者が…?





しかし、その先に居たのは、先日、レストランで会ったウェイターの少年…。


の…以前の恋人…。





澄んだ紫色の瞳はいつもよりもずっと鋭く…

アスランを見つけた瞬間、その鋭さは増した様に感じた。





「…キラ…?」


キラはさえも視界に入れようとせず、真っ直ぐにアスランへと歩み寄る。








「僕…言ったよね?を泣かせる様な真似したら、強引にでも取り戻すって…。」


アスランに返す言葉は無かった。



を想っている気持ちに偽りは無いけれど…


彼女を悲しませるような行為に及んだのは事実…。




「…キラ…っ!?」



目の前での手を引いたキラは、そのまま強引に彼女を連れ出す。



アスランは唇を噛み締めながら、拳を強く握った…。
















【あとがき】

キラ様復活!

ヤバイ…アスランがヘタレになっちゃう…!!

書いてるのは自分のくせに何を…ってカンジですよね?

スミマセンです。

キラにもう少し頑張って欲しいという意見が少しありまして…。

今回もちょっとだけ乱入です。

アスランとラクスの謎の行動の真実はまた次回。

何とか次回で完結の予定でございます。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。





2005.5.26 梨惟菜







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