「キラ!待ってってば!!」



何も言わずに強引に自分の手を引いて歩くキラに何度そう言っただろう。



それでもキラはの言葉を無視し、真っ直ぐに歩く。







『僕…言ったよね?ルナを泣かせる様な真似したら強引にでも取り戻すって…。』


キラがアスランにそう言った…。


きっと…私がアスランと付き合い始めた事を報告したあの日に言った言葉…。


いつも…大事な時に現れるキラ…。


どうして…この人は私の気持ちをこんなにも汲み取ってくれるのが上手いんだろう…





















愛情と友情のはざまで

     元カノ





























「…アレ、どういう事なの?」



ようやく歩みを止め、振り返ったキラが問う。



「そんな事言われても…。」


私の方が知りたいくらいよ…


なんて言ったら、今度こそアスランを殴りかねない形相…。


それくらいにキラの表情は複雑なものだった。





普段、温厚でおっとりとした人なのに、一度怒らせてしまうと手が付けられない。


最も、私はそんな経験は無いのだけれど…。



ハイスクール時代の友人がそう言っていた。

怒ると結構怖いんだ…って。






「とりあえず…手、離してくれない?」


「あ…ごめん…。」


すぐに離してくれる所をみると、それなりに遠慮しているみたい。


強引に取り戻す…なんて言葉にはちょっとドキッとしてしまったけれど…。



でも、正直な所、アスランの目の前で手を握られて連れ去られた事に困っていた。



何も言ってくれなかったアスラン…。

どうしてなの…?












「大体、どうして達があのラクス・クラインと一緒に食事なんてしてたの?」




あの日、互いに紹介はしたものの、どんな関係なのかを説明する余裕は無かった。


キラからしてみれば、その時点で不思議な組み合わせなのだ。




「雑誌…読んだんでしょう?そのままの通り。」



「彼の…前の恋人…って事?」


キラが遠慮がちに聞き返すと、は黙って頷いた。




「あの記事は…どこまで本当なの?」


「そんなの…知らないわよ!!」



思わず声を荒げてしまった…。



「…ごめん…。」


すぐさまキラが謝罪の言葉を述べる。


「私の方こそ…怒鳴っちゃってごめんなさい…。」


「そうだよね…一番気にしてるのはだよね…。」




















ピルルルルッ…



暫く公園のベンチで無言で並んで座っていた。



の携帯?」


「そうみたい…。」



カバンの中から響くコール音…


手探りでカバンの中から携帯を取り出す。



「…彼から?」


「ううん…違うみたい…。」






『非通知設定』…



…誰から…?






「…もしもし…」


さん…?』


「…あ…」




誰もが聞いた事のある声が受話器の向こうから聞こえた。


そう…誰もが知っている有名人が私に電話を掛けているのだ。




「ラクス…さん…?」


『はい。』



私がそう尋ねると、隣で様子を伺っていたキラが驚きの表情を見せた。





『突然ごめんなさい。どうしてもお話したい事がありますの…。お会い出来ませんか?』


「…はい。大丈夫…です。」




きっと…アスランの事…


この番号を彼に聞いたのかどうかは知らないけれど…

私と会って直接話したい事って…




『では…先日ご一緒したレストランの前でお待ちしていますわ。』





















「急にお呼び立てしてしまって済みません。」


「いえ…」


あのレストランの前に止められていた車から彼女が顔を出し、誘われるがままに車に乗った。


こんな高級車も滅多に…ううん、一生乗れない代物だと思う。




根本的に住む世界が違い過ぎる…。




何を言われるんだろう…



『アスランを返して下さい』…とか?


色々と物事を悪い方向へと持って行ってしまう。

マイナス思考なのは私の良くない所だと人に言われるけれど…。







「雑誌…ご覧になりましたわよね?」


「…はい…。」


やはり、話は雑誌の記事の事…。


まぁ、それ以外に私に会う理由なんて無いに決まってる。



さんに黙ってアスランを呼び出してしまって申し訳ありませんでした。
 どうしてもアスランにお伺いしたい事がありましたの…。」



「アスランに…?」


「アスランから…何も?」


「…個人的な相談だから言えない…って。」


「相変わらず…真面目なお方ですのね…。さんにはきちんとお話して下さって宜しかったのに…。」





…??


何が何だかさっぱり…

話の筋が全く見えて来ない…。





「アスランにお話を聞いて貰ったのですけど…結局何も解決しなくて…。
 やっぱりさんに相談するのが一番早かったですわね…。」


「…はい…?」




一体…何の話なの…?



「あの…何の…事ですか??」


「わたくし、好きな方が居ますの。」




…やっぱり…私に宣戦布告したかった…って事?



そんな…面と向かって言わなくても…





「ようやくお名前を伺う事も出来ましたし…さんのお知り合いだったなんて驚きましたわ…。」



「え…?」



「アスランにお伝えして欲しいとお願いしたんですが…それは難しいと仰いまして…。」



「あの…」



「だったらさんに直接お願いしようと思いまして。」




「ラクスさん…」


「はい?」



「誰の事を…言ってるんですか?」


「キラ様ですわ。」



ん…?



「…キラ!?」


「はい。」





















「…怒ってる?」


「当たり前でしょ?」



ラクスと別れ、一番に電話したのは恋人。


そして彼の家を訪れる。



「…ラクスさんがキラの事を好きだったなんて…。」


「俺だって驚いたさ。」




彼女があのレストランに通い詰める理由はそれだった。


勿論、料理が美味しいというのも理由の一つなのだけど、そこで働くキラに密かに想いを寄せていたらしい。




「別に私に隠す様な事?」


むしろ…一番関係あるんじゃないかと思うんだけど…。






「ラクスに彼を紹介して欲しいって頼まれたんだ。でも俺はそんなに親しい訳じゃないし…。」


「だったら早く私に言ってくれたら良かったのに…。」


そしたらそんなに大事にならずに…

私だって悩まないで済んだのに…。




「そしたらは彼と会うだろう?それが嫌だったんだよ。」


結果的には逆効果になってしまったのだけれど…


「それで…教えてくれなかったの?」



それって…ヤキモチ…?



「彼がまだの事を好きだって分かってたし…。下手に紹介して傷付くのはラクスだろ?
 そんな結果になったら俺やだって罰が悪いじゃないか…。」



「ホント…優しいよね…アスランは。」




フワリとアスランの首に手を回して抱き付く。


「でも…本当は悲しかったの。」


「うん。ごめんな…。」



アスランの事、信じてたけど…


それでもやっぱり面白くはないでしょう?


だって…アスランは素敵だもん。


私には勿体無い位にカッコいいんだもん…。







「…どうしよっか…。」


私からキラに打ち明けるのも酷な気がするし…


かと言って、彼女に断るのも…







「じゃあ…こういうのはどう?」


「何…?」





















「皆さん、いらっしゃい♪」



ある晴れた休日…


私達はラクスさんの家へと招待された。


クライン邸主催のガーデンパーティー。



先日の記事で皆に迷惑をかけたお詫びと称して…。


それは勿論、口実なんだけどね…。




「改めて紹介します。私のハイスクール時代の友人のキラ・ヤマトです。」


「…初めまして…。」


「初めまして。ラクス・クラインですわ。」



嬉しそうに微笑みながら手を差し出すラクスにキラも頬を染めて応じる。



満更でもなさそう…。


まぁ…目の前に居るのは大人気のアイドルだもんね…。






…」


そっと耳打ちしたアスランがの手を引いてその場を離れた。










「とりあえず…自己紹介の場は用意したんだから良いよね?」


「そうだな…。これで十分だろ。」



こっちは散々振り回されたんだから…。



「俺的には2人が纏まってくれたら助かるんだけどな…。」


「?」


「これで邪魔者は居なくなる…だろ?」


「…っ///」


そっと耳元で囁いた後に頬に落とされたキスがの頬を真っ赤に染めた。




「俺には以外、考えられないから。」


「私だって///」









雑誌の記事で暫くは周囲の視線が痛かったけれど…


その後、皆が注目するような動きも一切無く、噂は次第に消えていった。



こうして再び私達は穏やかな時間を取り戻した。





「これで…元カレ元カノ問題は解決したね。」


「そうだな…。」




盛り上がる皆の輪から外れた私達は、周囲の視線が無い事を確認してキスを交わした。














「これからは隠し事は無しにしようね。」


「あぁ。約束するよ。」






















【あとがき】

ようやく書き終わりました。

疲れた…。

やっぱり後先考えずに勢いで書くのは良くないですね。

反省(汗)

一応、番外編『元カノ』もこれで完結です。

ここまでお付き合い下さいましてありがとうございました。


感想、お待ちしております♪






2005.6.9 梨惟菜










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