「聞いてよ〜♪ラクス・クラインのコンサートのチケット、ゲットしちゃった!!」




講義が始まる前の独特のざわめきの中で、数名の女子生徒が黄色い声を上げる。



「マジ!?いいなぁ。あたし、彼女の歌、好きなんだよねぇ…。」



ラクス・クラインはここ数ヶ月の間に急上昇しているアイドルだった。



私達と同い年で…ハイスクールを卒業し、仕事に専念するようになってから売れ出した。



彼女の奏でる恋のメロディは同世代の私達の間では大人気。



彼女は男女問わず人気があるのだ。









「いいなぁ…あたしもチケット…申し込んだのに…。抽選洩れちゃったのよね…。」



その光景を見ながら、ミリィが浅い溜息を吐いた。




「カガリの力で何とか手に入らないワケ?」


「ディアッカ…無茶言うなよ。彼女とは面識も無いし、無理に決まってるだろ?」




どうやら皆、応募していたらしい。



私はちょうど、アスランと付き合い始めたばかりで…それ所じゃ無かったから…。


アスランも多分そう。



私は彼女の歌、興味あるんだけど…

アスランはどうなのかな…?









「…そんなにチケット…欲しかったのか…?」



「「「え…?」」」


3人が同時に振り向いた先にはアスラン。



「その…どうしてもって言うなら…何とかならない事もないんだけど…。」


















愛情と友情のはざまで

   元カノ






















、いい加減に機嫌直してくれないか?」



放課後…薄情にもディアッカ達は避けるように帰ってしまった。


折角チケットの手配をする約束をしたのに…。


そのせいで俺が今窮地に立たされているんだぞ…?



せめてフォローの一つでもあってもいいんじゃないのか?










「なぁ……。」


「…離してってば!」



後ろから軽く抱き付いてみるが、軽くあしらわれてしまう。



は一度拗ねてしまうと結構厄介なのだ。






にだって居ただろ?」


「でも私は隠してない。」



「聞かなかったじゃないか…。」


「何よ。私が悪いって言うの?」




ムキになって睨み返して来る彼女も可愛いと思えてしまうのは、
彼女の拗ねてる原因が『ヤキモチ』だと分かっているからだろうか…。




「…はいはい。確かに悪いのは言わなかった俺です。」



降参…と言わんばかりに両手を挙げると、は頬を膨らませてまた睨んだ。







「…どれくらい付き合ってたの…?」



急に悲しそうな…寂しそうな目になったは、不安げに問い掛けた。





















俺とラクスが知り合ったのは、ハイスクール時代。


3年で同じクラスになって…偶然隣の席になったのが始まりだった。



独特の空気を持った彼女は俺には新鮮な存在で…。



何となく友達から始まった…というのが正しい表現かも知れない。




その頃から彼女は既に芸能活動をしていて…


元々、当時は学業優先で活動していたから知名度も低かった。


それでも付き合いはある程度制限されていて…。



良く考えてみれば、外でデートをした記憶も無い。


大抵、俺が彼女の家を訪問するのが日課になっていた。







一緒に居てそれなりに楽しかったし…。

彼女と居ると癒される自分も居たし…。


特定の女の子と付き合うのは彼女が初めてだったという事もあって、俺は浮かれていたのかも知れない。












「彼女が進学しないって聞かされた時、心に穴がポッカリと開いた気分だったよ。」



仕事に専念したいから進学しないと聞かされたのは…


彼女の口からではなく、彼女のマネージャーからだった。




「今までよりももっと忙しくなるから、会える時間は減ってしまうって言われて…。
 元々少なかったのに、これ以上減るのか?って思ったら何だか虚しく思えて…。」




それで、卒業と同時に自然消滅。















話を一部始終聞いたの顔が次第に曇ってゆく。



「…元々、彼女は歌さえあれば他には何もいらない…みたいな雰囲気だったし?
 結局、俺が1人で盛り上がってただけなのかも…な。」




「そう…なんだ…。」




もう終わった事とはいえ、自分の彼氏から聞かされる元カノの話は面白くない。


アスランもそうだったのかな…?




「まぁ、そのお陰でと今こうしていられるんだけどな…。」



アスランの言葉には頬を染める。



「機嫌…直った…?」


「直るも何も…最初から悪くなんかないもん…。」


「…はいはい。」


アスランは苦笑しながら返すと、ちょっと拗ねた表情のの頬に口付けを落とした。






















「うわ…凄い人…。」



会場はほ満席。


そりゃ、申し込みが殺到して抽選になってしまうくらいなのだから当然だけど。


子供から大人まで…幅広い年代の人々が会場に詰め掛けていた。




「この熱気、いいわねぇ…。」



アスランのお陰でチケットを入手出来たミリィ達はご機嫌の様子。






「…楽屋に挨拶に行って来るよ。無理言って抑えて貰ったし…。」


アスランは一度下ろした腰を持ち上げると、に手を差し伸べた。




、おいで?」


「…え…?行ってもいいの?」



「勿論。ちゃんと彼女だって紹介するよ。」



右手で花束を…

左手で彼女の手を取ったアスランは、ロビーに出て、楽屋へと向かった。





















「お久し振りですわね、アスラン。」



「お元気そうで何よりです。ラクス。」



社交辞令じみた挨拶を交わした2人は、握手をする。



「まぁ…ありがとうございます。」


渡された花束に目を細めたラクスは、アスランの後ろに立つに視線を送った。




「そちらの方は…?」



「俺の彼女です。」


アスランはの腰をグイッと寄せると、ラクスの前へ立たせた。



「初めまして…です…。」


「まぁ…初めまして。ラクス・クラインですわ。」




間近で見ると、より一層可愛く感じる。


何て言うか…芸能人のオーラ…?







「宜しかったら、コンサートの後に一緒に食事でもなさいません?」



「え…?私…ですか?」



「勿論アスランも。久し振りに色々とお話したいですわ。」


そう言われてアスランが少し困った表情になったのは、を気にしているからなのだろう。



「いえ…他にも友人が居ますので…。」



「あら、でしたらそのお友達も是非ご一緒に…。」


「はぁ…でも…。」



さん、ご迷惑でしたか?」


「あ…いえ。そんな事無いです。嬉しいです。」



「では決まりですわね…♪
 今日のコンサート、一生懸命歌いますわ。楽しんで行って下さいな。」





















「うわぁ…すごい高級そうなお店…。」




コンサートの余韻も冷めやらぬまま訪れた高級料理店。


その圧倒的な外観に一同は気圧されしてしまう。




「このお店のデザート、絶品ですのよ♪」



え…?

食事じゃなくてデザート目当て…?




変わった基準で物を選ぶ人だと思ったのは皆同じだと思う。




「…昔からちょっと変わった基準の人なんだよ…彼女。」




皆からの視線にアスランは困り顔で答えた。





















「いらっしゃいませ、ラクス様。
 お席のご用意は整っております。どうぞ奥へ…。」




「こんばんわ。いつもありがとうございます。」




ウェイターに案内されたのは一番奥の個室…。



円形のテーブルに腰を下ろすと、丁度真正面にラクスが座った。








「失礼します…ご注文を…」



「…え!?」





「…!?」



「…キラ!?」



聞き覚えのある声だと思ったら…


注文を聞きに来たウェイターがキラだった事に、私は思わず声が裏返る。





!?どうしてココに…」


しかも…ラクス・クラインと一緒に…。


キラが驚くのも当然だ。



高級料理店でバイトをしているキラにもビックリしたけれど…。





「あら…お知り合いですの?」



「えぇ…あの…ハイスクール時代の友人で…」


「キラ・ヤマトです…。」





噂のの元カレか…。


名前しか聞いた事の無かった他の3人はアスランを横目で見る。



しかし、アスランは至って平常心。


これも今の彼氏の余裕なのだろうか…。




「では…こちらのコース料理を6人分、お願い致しますわ。」





















「ご馳走様でした。美味しかったです。」



「無理を言ってチケットを手配して貰った上に料理まで…済まない。」



「いえいえ。構いませんわ。久し振りに大勢でお食事が出来てわたくしも楽しかったです。」






意外な人物に会った事には驚いたけど…。


お店の料理は最高に美味しかったし…。


絶品と言われたデザートも確かに美味しかった。




こんな高級なお店、滅多に来る事も無いだろうから…。














「では、わたくしはこれで失礼致しますわ。皆さん、お元気で。」



「ありがとうございました。」




ラクスはヒラヒラと手を振ると、待たせてあった車に乗り込んだ。





















「何て言うか…フワフワした人だったね…。」



皆と別れ、いつもの様にアスランが帰り道を送ってくれる。


月明かりが眩しい満月の夜だった。


春になったとはいえ、まだ夜は肌寒い。


そんなに遅くなるつもりは無かったから、ドレスに薄手のストールのの肩にはアスランのジャケットが掛けられている。





ちょこんと袖口から飛び出した手を優しく握ってくれるのがとても嬉しい。



「フワフワし過ぎてて…時々何を考えてるのか分からなかったな…。」


「…何かその時のアスランの顔が目に浮かんで面白い…。」




クスクスと笑うの様子を見て、思ったよりは穏やかな彼女に安心していた。



自分は元カレに相当嫉妬していたから…。


もう少し妬いてくれても嬉しいんだけど…。



そんな事を言ったらまた拗ねられてしまいそうだから、心の底にしまい込んだ。









「いつもありがとうね。」


家の前でジャケットを脱いだはそれをアスランに手渡す。



「じゃあ…また明日な。」



「うん。気を付けて帰ってね…。」





「お休み。」



別れ際にそっと触れるだけのキス。


それだけの行為にも頬を染める初々しいが可愛くて堪らない。


相当な溺愛っぷりだと自分でも思う。





















ピルルルッ…







の家からの帰り道に携帯が鳴る。



『非通知設定』



…こんな時間に誰からのイタズラだろうか…。



「もしもし?」


『こんばんわ、アスラン。』


「…ラクス…?」





思い掛けない人物からの電話に、アスランは歩いていた足を止めた。
















【あとがき】


やっと書けた番外編…。

…と言うか、1話完結出来なかったし…。

恐らく、2話もしくは3話完結になるかと思われます。

ラクスがアスランの元カノであるという設定は本編製作前から決まっていた事で…。

出来れば書きたかったエピソード。

だから、絶対番外編で書こうと思っていたのです。

番外編に関しましては…皆様から色々とご意見頂きまして…。

その要素を出来るだけ全て取り入れたいと思っていますが、

もしかしたら全部生かしきれないかもしれません…。

ですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです♪

ではでは…。








2005.5.25 梨惟菜








TOP | NEXT