「昨日はごめんね…。」



「ううん。大丈夫だよ。気にしてないから…。」




待ち合わせた公園でキラと並んでベンチに座る。


冬にしては暖かい今日は、割と薄着で出掛けても大丈夫な陽気だった。






「それで…話って…?」


「うん…。」





これから話す事、きっと驚くと思う。

きっと…傷付けると思う。





キラ…


私が初めて同じ想いを分かち合った大切な人…。


辛い時にはいつも側に居てくれた人…。





でも、終わりにしなきゃいけないの…。





















愛情と友情のはざまで


    15






















「私…恋人が出来たの。」


「え…?」






何を突然…


思いも寄らない一言にキラはただ言葉を失う。







「恋人…?本当なの…?」



心の内ではとても動揺しているけれど…

それを表に出さないように…必死に平静を装って問う。




はただ、黙ってコクンと頷いた。







「アスラン…なの…。」






キラを更に驚かせるには十分過ぎる相手だった。





をずっと思い悩ませていた相手…。


の想いを知らぬまま、の友人と交際を始めた彼…。


それがどうして今更…と恋人同士という関係に発展しているのか…。


それさえ分からぬまま、復縁を迫っていた彼女にそんな現実を告げられる。







「キラの気持ち…凄く嬉しかった。でも…ごめんなさい。」



…」






もはや、ここでどう言い寄ったとしても到底届かない想いだという事は良く知っている。


はそういう子だ。


おっとりしてて…精神的にも脆くて…

何でも自分の中に溜め込んでしまう優しい子。


けれど、芯はしっかりとしていて…

大事な想いだけは一生懸命に貫こうとする。



そんなが好きだったのに…


自分の我が侭でを傷付け、彼女から離れた。




もう一度大事にしたい…。

そう思って自分なりに今の想いを真剣に伝えたけれど…

彼女の気持ちは、あの時に既に離れてしまっていた。




この想いもここまでか…



が貫いた想いはきちんと彼の元に届いて…

そしてちゃんと実った。


決して実らない片想いだと思っていたのに…。











「良かったね…。」


「…うん。」



キラはごく自然に笑顔を向けていた。

自分でも良く分からないけれど…。


泣いているを見るくらいなら、他の男の人を想って笑顔でいてくれた方がずっとマシだ。


その相手が自分だったら文句無かったのだけれど。








「今までごめんね。僕、の気持ち知ってたのに…色々困らせたよね?」


「ううん!そんな事無いっ!!」


むしろ…その逆だった。

一番辛い時にキラは側に居てくれた。

キラの気持ちには応えられないって断ったのに…それでも優しくしてくれて…。


だから…本当は傷付けたくなかったの。


キラとやり直せたらどんなに幸せだろうって思った事だってあった。












、今からここに彼を呼べるかな?」


「えっ…?」



の表情が一瞬で硬くなる。

アスランに何の話が…




「大丈夫。殴り合いとかそんな事がしたい訳じゃ無いんだ。」


「じゃあ…」


どうして…?



「その…何て言うのかな…。色々と謝りたい事があって…。」


「うん…じゃあ…電話してみるね。」





















「話って…?」


に呼び出され、公園へとやって来たアスラン。


2人で話したいと言われ、を家へと帰し、今に至るのだが…


何だかんだ言って顔見知り程度の関係。

一応はライバルになるのだろうけど…。





の事…いつから好きだったんですか?」


「…去年の秋くらい…かな?」



一緒に居る時間が増えて…

を知る機会が増えて…


気付けば自分の中に入り込んでいた彼女…




「じゃあ…どうしての友達と付き合ったりなんか…」


「あれは違うんだ。恋人のフリをして欲しいって頼まれて…
でも…結果的には彼女を傷付ける形になってたんだよな。」



自分を想ってくれているなんて夢にも思ってなかったから…。







「僕は…あなたよりも長い間を側で見て来ました。」


「知ってる。」


「あんな風に泣く彼女はもう見たくないんです。
だから…約束して下さい。を泣かせないって…。
もし泣かせたら…」



「泣かせたら?」





普段、穏やかなキラの目がキッと鋭くアスランを睨み付けた。

その力強さに思わず背筋が凍る…。



が何と言おうと僕が連れて行きます。」




…それが…キラの愛情の形。

本当なら自分の側に居て欲しい。

けれど、が想っているのは自分じゃない。

でも…が忘れられない。





「じゃあ…泣かせる訳にはいかないな。」




























「あ…アスラン!!」



?帰ったんじゃなかったのか?」



「うん。気になって待ってたの。帰りにこの道通るのは分かってたし。」



殴り合いはしない…って言ってたけど…。

何か心配だったから…。


でも、アスランの顔を見て安心した。


争った形跡は何も感じられない。






「キラに…何か言われた?」


「あぁ。を泣かせたら許さないってさ。」


「…そっか。」






少し寂しげな表情で微笑むに、アスランは腕を伸ばした。



「ア…スラン?」


「大事にするよ。」


たった一言…


なのに、まるで永遠の約束のように感じさせてくれる言葉…。

安心するアスランの温もり…。





ずっと…こんな風に抱き締められたかったの。

アスランの恋人になりたかったの。







「あとは…カガリともちゃんと話しなくちゃね…。」


「そうだな…。」



















【あとがき】

温い…。

何だかもっと激しいバトルにしたかったんだけど…。

ってかバトルにもなってない気がして来ました。

キラが可哀想な役割になっちゃいました。

キラファンの方、すみませんです。










2005.5.12 梨惟菜









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