『今日1限、休むね。』
朝早く、からメールが届いた。
やっぱり避けられて当然か…。
深い溜息をついたアスランは、へ了解の返事を送信した。
と2人で受ける久し振りの講義…。
そこでならゆっくり話が出来ると思っていたのに。
いつも当たり前のように並んで座って受けていた授業。
けれど、今日は誰も隣に居ない。
の隣…こんなにも心地良かったのか。
今更ながらそう実感してしまう自分に情けなさを感じた。
愛情と友情のはざまで
13
泣き腫らした目…。
午前中、ずっと冷水で冷やし続け、メイクで何とか誤魔化した。
朝起きた状態で行ったりしたらとんでもない事になっちゃう。
カガリにも悪い…よね。
大きく深呼吸すると、食堂へと足を踏み入れた。
この時間ならここでランチの時間の筈だから。
いつもと同じ場所で話しているミリィとディアッカが視界に入る。
アスランとカガリが居ない…。
嬉しいような…複雑な気分で2人の元へ歩み寄った。
「珍しいわね。が1限休むなんて。」
アスランが好きなのだと自覚して以来、一度も休んだ事の無かった授業。
確かに珍しい事。
「…ちょっと夜更かししちゃって…ね。」
ウソツキ…。
一睡もしてないくせに…。
「アスランとカガリは…?」
聞きたくは無かったけれど、聞かないのも不自然だから…。
「何か大事な話があるとかで…さっき2人で出てったわ。」
「そう…。」
なるべく考えないようにしなくちゃ…。
2人は付き合ってるんだもの…。
私達には言えない話だってあるに決まってる。
こうして2人の時間を増やして行くに決まってる。
いい加減…覚悟決めなくちゃ…。
「…顔色悪いぜ?大丈夫か?」
唯一事情を知るディアッカは、複雑そうな表情で気遣ってくれた。
「うん。大丈夫。」
こうしてニッコリ微笑みを返す事が出来るのも、2人がこの場にいないから…。
確かに少し頭がボーッとするけれど…
それも寝不足のせいだろう。
「皆に話があるんだ…。」
浮かない顔をして戻って来たアスランとカガリ…。
2人の異常な様子…。
何か…揉め事でもあったのかな…?
…最低…
幸せそうに見えない2人を見て安堵してる自分が居る…。
「俺達…本当は付き合ってなんか居ないんだ。」
「「「え…?」」」
付き合って…ない…?
カガリの方を見ると、カガリは今にも泣き出しそうな表情で俯いた。
まるで私と視線を合わせないようにする為に…。
そんな様子に自然と眉間にしわが寄る。
「どういう事なの?」
返事に戸惑う私やディアッカの代わりに、ミリィが問い掛ける。
「カガリに婚約の話が持ち上がってて…断る口実にする為に恋人のフリをしてたんだ。」
アスランの視線が私に向けられる。
質問をしたミリィでも、ディアッカでも無く…
私の目を見てハッキリと告げる…。
カガリが…頼んだ…?
何…それ…
自分の中に新しい感情が芽生えつつあった。
この気持ちは…何…?
その感情を抑えるように、手が自然と胸を抑える。
この感情が何なのか…
出来れば気付きたく無かった。
この気持ちは…「憎悪」…
私の気持ちを知りながら…
自らの気持ちを告げるのではなく…
『仮の恋人』という形で彼を縛ったカガリに対する『憎悪』だ…。
ずるい…
カガリはずるいよ…。
ずっと躊躇って言えなかったのに…。
カガリは『気にしない』って言ってくれたけど…
それでもどちらかが動けばこの均衡が崩れると思ったから言えずにいたのに…。
大事な友達であるカガリにこんな感情を持ってしまっている自分が醜く思えて…。
あれ…?
何だろう…。
頭がクラクラする…。
「……?」
の異変に気付いたアスランがに呼び掛けるが、返事が無い。
突然、全身の力が抜けたはその場に倒れ込んだ。
「…っ!!」
「ん…」
誰かが私の髪に触れてる…
誰…?
全身が鉛のように重たくて…
自分が今、どんな状態にあるのかも分からない…。
ゆっくりと瞼を開けると、目の前に誰かの姿があった。
まだ視界がハッキリとしなく、それが誰なのか分からない。
「?気が付いたのか…?」
「アス…ラン?」
この声の主は間違いなくアスランで…
その声が聞こえた後、ぼやけていた視界が次第に鮮明になり始める。
「アスラン…私…」
「食堂で倒れたんだ。」
あぁ…そっか…
「ここ…医務室?」
「あぁ…。睡眠不足だって先生が…。寝てないのか?」
「…ちょっと…ね。それより授業は?」
「あぁ…あれからちょっとあって…皆欠席した。」
「…皆…?」
ガラッ…
「…気付いたのか?」
2人の様子を見に来たのはディアッカだった。
「あ…うん。心配掛けてごめんね。」
「気にすんなって。」
「カガリの様子は?」
「あぁ…今ミリィが宥めてる所…。」
「…カガリがどうかしたの…?」
私がそう聞くと、2人は顔を見合わせて困ったような顔をした。
「…が倒れた後に取り乱して…」
「え…?」
「はアスランに任せて、俺とミリィで話聞いてやってたんだ。」
「…そう…なんだ…。」
「…で、カガリがと話したいって言ってるんだけど…どうする?」
「カガリが…」
その話を聞いて、未だ心の中で消化し切れていない感情が蘇る。
キュッとシーツの端を握り締めたまま、俯いて考える。
カガリは…私に何を話そうと言うのだろうか…。
言い訳?
それとも、謝罪の言葉…?
「ごめん…今はちょっと話せる気分じゃないって伝えてくれる?」
「…了解。」
今の私じゃ、カガリにどんな言葉を掛けられても素直に聞き入れられない気がして…。
きっとカガリだけじゃなく、他の皆も傷付けてしまう…。
「、俺もに大事な話があるんだ。」
ディアッカが去り、再び2人きりになった後だった…。
「…なぁに…?」
そう返して、私の中に疑問が生まれる。
アスランは…どうして疑問に思わないんだろう…。
私が倒れた事は別として…
その後にどうしてカガリが取り乱したのか…
カガリが私と話したいと言っているのか…
そして、どうしてそれを私が拒んだのか…
大体、どうしてこのタイミングで私達に本当の事を打ち明けたんだろう…。
全ての事につじつまが合わなくて…
私は何かを見落としてる…?
「……?」
「あ…ごめん。考え事してた。…で、話って?」
アスランの『大事な話』が何なのか分からないけれど…
この話を聞いたら何かが分かるのかも知れない。
「先に…一つだけ聞いていいか?」
「…何?」
「の手帳に入ってた写真の意味が知りたいんだ。」
「えっ…?」
手帳…?
写真…?
その言葉が全ての鍵を開いたかのように、次々と謎が明かされて行く。
昨日手帳を忘れた場所にアスランが居た事…
その手帳を取りに行ってくれたのがキラだった事…
そのキラが戻って来たのが妙に遅かった事…
戻って来たキラが私に聞いた事…
アスランは…私の気持ちを知ってる…!?
全てのつじつまが合ってしまった瞬間、今度は逆に頭の中が真っ白になる。
あの写真が全ての歯車を狂わせてしまったのだろうか…
【あとがき】
修羅場だ…。
今回のヒロインの内情について…。
何かねぇ…理想のヒロインとしては、ここでカガリをあっさり許してあげても良いんじゃないかなぁ…と思ったんです。
でも、ここで簡単に許してたら逆におかしいな…と。
普通に考えたら、誰だって怒ってもいい場面だと思うんですよ。
最悪の場合、ここで友情壊れかねないですって。
それくらいにカガリの取った行動は重いです。
ヒロインの中に「憎しみ」なんて感情は入れたくなかったんですが、人間らしさを求めて入れてみました。
後はアスラン次第…ヒロイン次第…なのかな?
でもアスラン卑怯だなぁ…。
ヒロインの口から言わせるつもりなのか…(書いてるのはアンタだろ…)
いつもお付き合いありがとうございます。
宜しければ続きも読んでやってくださいね。
2005.5.5 梨惟菜