「…ラン…アスラン!!」




「えっ…!?」



「話、聞いてなかっただろ!」


「え…あ…悪い。」



カガリの声で我に返ったアスランは目の前にいる金髪の少女に微笑み掛ける。



「珍しいな…。何か考え事でもしてたのか?」


「いや…大した事じゃないんだ。」



「そうか?ならいいんだが…。」


肩を並べて歩くカガリの首には、クリスマスに手元に届いた赤いマフラーが揺れる。

















愛情と友情のはざまで


    10















「カガリ…皆に話さなくて良かったのか?」



「え…?」



「俺達が付き合ってる理由だよ。」




返事に詰まるカガリに、アスランは溜息をついた。



「…ちゃんと話した方が良かったか…?」



浮かない顔でようやくカガリが問う。








付き合い始めたばかりとはいえ、妙に違和感のある距離を保つ2人…。



手を繋ぐ訳でもなく、腕を組む訳でもない…。



一見、今までの2人と何ら変わりは無い…。






「カガリの気持ちは分かるけど…。達なら口外するような事はしないだろう?」


「そう…だけど…。」












2人がこんな関係になったのには理由があった。















「アスランに相談があるんだ…。」





カガリが思い詰めた表情でアスランに話を持ち掛けたのは大晦日の話。



カウントダウンでカガリの家に集まった夜の事だった。




「…相談?」



頃合を見計らってアスランをテラスに誘い出したカガリは事情を話し始めた。








「その…父上に婚約者を決められそうなんだ…。」




市長の一人娘。


悪い虫が付く前に婚約者を決めてしまいたいという父親なりの親心というものなのか…。




「でも…そんな事言われても困るし…。それで何とか断ろうと思ってるんだ。
 それで…アスランに頼みたい事があるんだ。」



「頼みたい事?」



「その…恋人のフリをして貰えないか?」



「は…?」







父親に諦めさせる為の手段として思い付いたこの方法。



それなりにちゃんとした男が相手なら納得して婚約の件も白紙に戻るだろう。



アスランであれば家柄もそれなりに立派だし、何よりカガリが密かに想いを寄せている人物。






そして…アスランが好きだから…卑怯な手段を使ってでも繋ぎ止めておきたいと思って…。





そして…考え付いた策略。



アスランは優しいから…。

こうして頼まれたら、きっと断れない。





「フリ…でいいんだな?」


「…あぁ。」


「期間は?」


「それは…状況にもよるけど…。」



「分かった。それでカガリの婚約が取り消しになるなら協力するよ。」



予想通りの返事に、カガリも思わず顔が綻ぶ。



「済まない。助かるよ。」

















そんな経緯で、カガリはアスランの「仮の恋人」となった。



その直後にカガリの脳裏に残ったのは、に対する『罪悪感』。






アスランを想う気持ちは同じで…。


けれど、の方が確実にアスランの近くに居る。


そんな気がしてならなかったから…。


卑怯だと思いながらもこの手段を取った。





クリスマスの夜…。


元彼に復縁を迫られ、揺れて泣くの姿を見て…。


もし、ここでアスランと自分が付き合っていると聞いたら…。



復縁の決定打になるかもしれない。





そして…一緒に居る時間を増やして行けば…


アスランも自分の事を特別な人として見てくれるようになるかもしれない。


本物の恋人同士になれるかも知れない…。




















「やっぱり…まだこのままにしておかないか?」



カガリはもう一度考え直してアスランに改めて言った。




「勿論、達が誰かに話すなんて思ってない。
 でも、いつどこで誰の耳に入るか分からないし…。」



「…カガリがそう言うなら仕方ないな…。」










正直、3人にはきちんと否定しておきたかったんだ。


付き合い始めたから…って壁を作られるのも困る。



その証拠に、話した後にが2人と視線を合わせてくれなかった事が気掛かりで…。



は優しい子だから…


もしかして邪魔なんじゃないか…とか気を遣ってくれてるのかもしれない。












に好きな人が居るのは良く分かってる。


元彼に復縁を迫られながら、その想いに揺れながらも想い続ける相手…。




それが一体誰なのかは分からない…。


俺の知っている人物なのか…それとも知らない人物なのか…。



どうしてこんなにも気にしてしまうのか…。




が誰かと幸せそうに並んで歩く姿を想像すると、苛立つ自分が居る。








自覚してしまったんだ…。



が特別な存在なんだと…。











けれど…この想いを打ち明ける事が出来なかった。



彼女に想い人が居ると分かった時点で失恋は逃れられない。



その事実が自分を保守的にさせる。



そして…この想いを封じ込めて、の友人で居る事を選んだ。















「一つ聞いてもいいか…?」



「…何?」



「アスランって…好きな奴、居ないのか?」




「…」




暫く2人を沈黙が包んだ。



「居たさ…。」



少し経って返って来た返事は酷く曖昧で…



「過去形なのか…?」



「分からない…。」









分からないんだ。



この想いは告げないと決めた…。



だからと言ってすぐに捨てられる程軽い気持ちでも無くて…。






いっそ…この想いに気付かなければ良かったのに…。
















【あとがき】

ちょっとカガリが悪い子になりました。

普通、そんな卑怯な真似するかぁ?

管理人、ご立腹です。

こんな友達居たら嫌だよ。マジ。

例え設定であってもアスランがカガリに心を奪われるなんて事は許せないので…

こういう形になっちゃいました〜。

優しいアスランは友達の頼みを断れなかったのですよ♪

んでもって、ちゃんとヒロインに想いを寄せてるのです☆


じゃないと話が成り立たない…。


ここまで読んでくださってありがとうございます♪






2005.4.27 梨惟菜







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