「くそっ…!!」



荷物を投げ出したムウは、必死に港に向かって走る。


その後姿を見送りながら、アスランは寂しげに…

そして、祈るような瞳で微かに微笑んだ。





願わくば…


愛した彼女が傷付くような事にならん事を…




















キオク




















が島を出るって…どういう事だよ…」


急にそんな事を言われても…


戸惑いを隠せないムウに、アスランから更に告げられる真実。




…全てを思い出したんです。記憶を失くす以前の事…。」


「…思い出した?」


「だから俺の気持ちには応えられないって…別れを告げられました。

 でも…こんな事になるなんて思ってなかったんです…!」




は…島を出て何処に行くつもりなんだ?」


「連合に戻ると…カガリが…」


「な…何だって!?」





「俺には止められなかったけど…ムウさんならきっと…!」



「何言ってんだよ…君に出来なかった事を何で俺に出来るんだ…!」


が愛してるのは…ムウさんだから!!」



何を…


「だったらどうして…は俺に何も言わない!?」



何故…俺に何も告げずに俺の前から消えようとするんだ…




「あなたも俺も…傷付けたくないから…だからは…1人で背負おうとしてるんだ!」



















を傷付けたくないから…


悩ませたくないから…




だから…俺は自分の想いを押し殺すと決めたのに…




が思い出したその時、彼女がどれ程自分を追い詰めるかなど、考えもしなかった…




海岸沿いを必死に走る。


額に滲む汗…

息切れしながらも、ムウはその速度を落とす事は無い。


ようやく視線の先に見え始めた港には大きな船が一隻、停泊している。






頼む…


間に合ってくれ…!





「まだ…伝えていない事があるんだ…!!」

























…本当にいいの?」


港でを見送るのはキラとマリュー。


「…大丈夫よ。もう…戦争は終わったんだから…。」



ニッコリと微笑むの表情は妙にスッキリとしていて…


だから、逆に悲しくなってしまうのだった。



どうして彼女は…1人で抱え込んでしまうのだろう。


強いけれど弱い…


不安定なその心は決して弱音を吐かない。



激しい戦争を乗り越えたとはいえ、それでもはまだ16歳の少女。


傍らに支えとなる恋人が居たからこそ、彼女は背筋を伸ばして立ち続ける事が出来た。








「向こうに着いたら…連絡しますから。」


「気を付けてね…。」



「はい。マリューさんもキラも…お元気で…。」





ゆっくりと…2人と交わす、最後の握手。


分かってる…


こうやって…逃げる事は卑怯な事だって。



でも、私が居たら…皆が苦しむから…




















「……っ!!!」







船に乗り込もうとしたその時…



響く…


私を呼ぶ、あの人の声…






会わずに消えようと…

そう決めていたのに…



「どうして…」



どうして、あなたがここに居るの?


息を切らして…汗を滲ませて…







「何考えてるんだ、お前は!」


真っ直ぐにの元へと駆け寄ったムウは、の腕を掴む。


「連合に戻るって…何の為に!?」


「…」


何も言わずに消えるつもりだったのに…


彼に、知られてしまった…。


ムウの言葉に何も返す事が出来ず、ただ俯く。





「どうして…が離れる必要があるんだ!…消えるべきなのは…俺の方なのに」


「違う…!償うべきなのは私なの…」


「違わない!」





「…っ…!」




ドサッ…




の手から荷物が離れ…


その場に音を立てて落ちる。



それと同時に伝わる、彼の温もり…



懐かしい…ムウの腕の中に私は居た…。









「何で…こんなに側に居るのに………やっと…会えたのに…」



「ダメ…離して…」



「離さない…」


「お願い…行かせて…」


「行かせない。」




甘えたらいけないの…


アスランを傷付けて…私は幸せになる資格なんて無いの。






「償うのは…を置いて逝こうとした俺なんだ…」


違う…


あなたは…私や皆の為に…


何も悪くないの…


むしろ、胸を張って良い事なの…






「ずっと…言えなかった……言いたかった事があるんだ。」


から体を離したムウは、よりもずっと大きな手での顔に触れる。


頬をなぞり…

髪に指を絡め…


懐かしいあの笑顔でを見詰める。




「愛してる…」




だから…


もう一度、俺の元へ帰って来てくれ…




が居ないと…夜も眠れない。」


「ム…ウ…っ…」



彼の言葉で溶ける心…


全てを受け入れると…両手いっぱいに抱えられたへの愛…


例え他の全てを捨てても、への想いだけは捨て切れない。




涙で視界が遮られて…

滲む世界に映るのは…恋焦がれたムウの面影だけ。




「ムウ…ごめんなさい…っ…」




溢れる涙を何度も拭いながら…


は何度も何度も…その言葉を繰り返す。




「俺はありがとうって言って欲しいね。」





今度は優しく、そっと包み込むように…


ムウはをもう一度、抱き締めた。





「ふぅ…っ…うぅ…っ…」






華奢なの身体を抱き締めながら、安堵の笑みを浮かべるムウを見て…


キラとマリューは微笑みながら2人に背を向ける。






港に鳴り響く汽笛…


港を離れる船に、が乗る事は無かった…。





















【あとがき】

はは…(意味不明)

ムウ萌え(●´3`)

この作品、どうもヒロインが意味不明になってしまいました。

意地っ張りだし…マイナス思考だし…

おまけにパニック体質…か?

多分、次回で最終話です。

なので勢いでこの作品を先に仕上げて行こうと思います。








2005.6.28 梨惟菜











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