、結婚しないか?」



「……え…?」




アスランが小さな箱を私に差し出したのは、内緒でマリューさんに会いに行った3日後の事。



箱の中にはダイヤの指輪。



「OK貰ってからにしようかとも思ったんだけど…。」


どうしても買っておきたくて。


アスランは苦笑しながら頬杖を付いて私を見る。




「でも…私達まだ…付き合って3ヶ月しか…。」


「もう3ヶ月だよ。」




時間の感覚なんて人それぞれ…。

にとってはまだ3ヶ月。

でも、アスランにとってはもう3ヶ月。





「もう一緒に暮らしてるんだから…今までと変わらないと言えば変わらないんだけどな。」



でも、きちんと籍を入れて…


自分にとってが一番身近な存在になるんだよ?






「…急すぎたかな…。」


「……」



戸惑いを隠せないを見て、アスランは小さな溜息を漏らした。



「急がなくていいよ。ゆっくり考えて返事をくれ。」


の頭に軽く触れたアスランは自室へと入って行った。





















  キオク





















渡された小箱の蓋を開けたまま、は中に収められた指輪を見詰める…。


私が…アスランと結婚…?






何の前触れも無く、突然のプロポーズ…。




決して…先の事を考えずに彼の手を取った訳ではないの。


勿論、こうして一緒に居れば…いつかはそうなるんじゃないか…って思ってた。




でも…私にとってはまだ先だと思ってた。



だって…まだ3ヶ月…。


私には『まだ』なの。







アスランは私の事を良く知っているのかもしれないけれど…

私はまだ知らない事だらけで…


自分の過去すらロクに思い出せていない私なんかと結婚したいなんて言ってくれて…


本当に嬉しいと思う。



でも…素直に『Yes』と答える事が出来なかったのはどうして…?




自分に自信が無いから?

アスランに全てを委ねてしまうのは気が咎めるから?





自分自身の事なのに…分からない…。





















ピルルルルッ…



仕事がお休みの午後の事…




庭の花の手入れをしていると、家から電話のコール音が聞こえて来る。



急いで部屋へと駆けた私は受話器を取った。



「もしもし?」


?』


電話はアスランから。


「珍しいね。どうしたの?何かあった?」


『実は…今日持って行く予定だった資料を忘れて来て…。』


「あ…届ければいいの?」


『いや…全部俺のパソコンの中に入ってるんだ。だから送って欲しいんだけど…』


パソコンの操作…分かるよな?




「それくらい大丈夫よ。調べてすぐに送るね。」


『あぁ。頼む。』








しっかり者のアスランでも忘れ物するのね…。


受話器を置いたはクスクスと1人で笑みを零しながら2階へと上がる。



2階には部屋が3つ。


一つは2人で使う寝室。


もう一つはの私物が置かれたクローゼット代わりの部屋。


そして、残ったのがアスランの仕事部屋だった。



普段、色々と資料が散乱している為、なるべく入らないようにと言われている部屋だった。



確かにほんの数回しか入った事が無い。











ガチャ…



「うわ…」


部屋のドアを開けると、目の前に書籍が山積みになった机。


その隣にパソコンの置かれたデスクがある。



は椅子に腰を下ろすと、パソコンの電源を入れた。

















「よし、これで完了ね。」


元モルゲンレーテの技術職員ではあるものの、記憶喪失になってしまった所為でパソコンに関する知識は乏しくなっていた。


それでもファイルを開いて送信する事くらいは出来る。


以前ほどのスピードは無いが、難なく作業を終わらせ、電源を落とした。



「それにしても…ちょっとコレは酷いなぁ…。」



いくら仕事で使うとはいえ…この散らかり方は気になって仕方が無い。


かと言って徹底的に掃除なんてしちゃったら怒られるだろうし。



「ちょっと整理するくらいなら…いいわよね…。」




気になっていた机の上の書籍を一冊ずつ丁寧に重ねていく。


全く分からない内容の本ばかり…


きっと開いて読んだりしたら頭痛くなっちゃうんだろうなぁ…。







「…あれ…?」





書籍の山の一番下から姿を現したピンク色の冊子…


「日記…帳…?」



アスランの…にしては可愛い過ぎる色…よね…。



どこかで見た様な覚えのある日記帳…


いつ…どこで…?






一応…アスランの私室にある物なんだし…

見ちゃいけないとは思うんだけど…




何だか気になって仕方が無い…。



何だろう…この胸騒ぎは…


小刻みに震える指先で…1ページ目をゆっくりと開いた…。





















『10月27日…

 何度同じ夢を見ただろう…。

 今まで当たり前の様に隣で眠っていたあなたが居ない。

 それでも時間はどんどん過ぎてゆく。

 今日もマリューさんが様子を見に来てくれたけれど、どうしても笑顔を返す事が出来なかった。

 私…今までどうやって笑ってたっけ?

 それさえも思い出せないの…。』





私の…字…?


癖のある字は間違いなく私の物で…


つまり…これは私が書いた日記…という事なの?




日付は戦争が終わって1ヶ月後の物。


『あなた』って誰…?











『11月10日…

 久し振りに街へ出た。

 何を見ても…何も感じない。

 カガリと喫茶店に入ったら、彼女が頼んだ紅茶を見て涙が出た。

 きっと…紅茶なんて一生飲めない。

 あなたが大好きだった味…あなたを思い出す味…。

 あなたに関わった物全てに触れるのが辛い。』







紅茶…


「…痛っ…」


頭がズキンと痛む…。


何かを思い出しかけた…。


けれど…すぐに治まった痛みと共に意識も戻ってしまう。



もう少し先を読めば…

何かを掴めるかもしれない…。











『11月21日…

 もう限界…

 生きている心地がしない。

 生きてる意味が無い…。

 いっそ全て忘れる事が出来たらどんなに楽だろう。

 あなたの腕に触れる事は二度と出来ないのに…

 あなたの優しくて低い声を聴く事は二度と無いのに…

 思い出すのはあなたの優しい笑顔ばかり。



 ムウ…会いたい…

 会いたくて会いたくて堪らない…

 あなたの所へ行きたい…

 そう言ったら…あなたは怒るよね…。

 でも…あなたの居ない人生を生きるなんて耐えられない…。』









パタン…


最後まで読んで…は日記帳を閉じた。


何事も無かったかの様にソレを山積みになっていた書籍の中へと戻す。





ポタッ…


木製の机に一滴…涙が零れ、染みを作った。


ポタッ…ポタッ…



「ふっ……っく…」



コレは…何…?


日記の最後の日付は…私が事故に遭った前日だった。






私は…死ぬつもりで車道に飛び出したの…?




フラフラと部屋を出たは壁を伝って1階へ続く階段へ向かう。



急に襲い掛かる頭痛で視界がぼやける…。


今までに無い程の激しい痛み…


今にも意識が飛んでしまいそう…。






「…っ…!!」


階段の手すりに手を掛けようとした瞬間…


目の前が真っ暗になって…


意識を手放した…。




















【あとがき】

暗いっ!!

書いてるのは自分なんですが…

ちょっとコレ…暗すぎじゃないか…!?

シリアスを通り越してる気がします。

誰とも絡んでないし…。


アスランにプロポーズさせました。

まだ早いっちゅーねん。

大体、まだ16歳じゃん…。

…って突っ込みは無しにしてくださいね♪エヘ☆



では、ここまで読んで下さってありがとうございました♪













2005.6.13 梨惟菜










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