記憶なんて曖昧なもので…



人は皆、いつかはその記憶を忘れてしまうもの。



それでも消せない記憶はある。



頭にじゃなくて…心に焼き付くの…。



それは…


誰かを愛しいと思う気持ち。



誰かを深く愛した記憶…。




















キオク




























「何か…何年振り…ってカンジな気がするな…。」



ほんの半年振りだと言うのに…周りの風景は自分の知らない物へと変化していた。



…と言っても、元々住んでいた場所では無いし、以前訪れた時にも長居した訳でもない。


それでも懐かしく感じるこの場所は、思い出の詰まった場所だからだろうか…。



















「少佐!?」



誰もが驚いて当然だった。


戦場で死んだ筈の男の帰還。


皆、幽霊でも見ているような目で驚きながらも笑顔で迎えてくれた。






「驚きましたわ。まさか…あの状況で助かっていたなんて…。」


「俺も驚いたね。目が覚めたらプラントでさ。」



もしも連合に助けられてたら…今頃ここには居られなかっただろう。





顔には大きな傷痕…。


それでも整った顔…ウェーブの掛かった金髪。



そして、相変わらず能天気な男。








「…で?俺のお姫様は?ここに来れば会えると思ったんだけどな。」



だから一番に訪れたかった訪れたモルゲンレーテへ足早にやって来たのだ。


まぁ…手続きの関係上、一番に訪れたのは行政府だったのだが。




ここへ来るまでにあちこちと周囲に気を配りながら歩いたのだが、肝心の尋ね人は居ない。



一番に会いたくて…一番に無事を知らせたかった相手。













「それが…ここには居ないんですよ。」



「マジ?俺はてっきり…ここで戦後処理の仕事でもしてんだと思ったんだが…。」



俺とした事が…予想が外れるなんてまだまだだな。



「で?どこに居るんだ?まさか行政府に居た…なんてオチは無しだぜ?」



苦笑しながらそう答えると、マリューは急に沈んだ顔になる。




「その…3ヶ月前まではここに居たんですけど…。」





辞めたんですよ。





意外な返事とマリューの表情に嫌な予感がした。





「辞めた…?何で…」


「話せば長くなるんですけどね。3ヶ月前に事故に遭って…」


「まさか!!」




事故の後遺症か何かが残って動けない…とか!?




ありとあらゆる予想が一瞬にして頭を過ぎる。



こうして折角、無事に帰還したというのに…







「いえ…元気です。本当に。でも今は他の仕事をしていて…。」


「そうか…いや…元気なら安心した。で?どこに居るんだ?案内してくれよ。」





「どうしても…お会いになりたいです?」


「…当たり前だろ?何の為に無理言ってプラントから出て来たと思ってんだ?」
























!!」



庭の花に水をあげていると、外から名を呼ぶ声が聞こえた。



パッと振り返ると、その先には箱を持った青年の姿。








「お帰りなさい、アスラン。」


「ただいま。お土産、買って来たよ。」



柔らかい笑顔に目を細め、水道の蛇口をキュッと締めた。



「もしかして…ケーキ?」


「そう。、ここのケーキ、好きだったろ?」



箱にはが良く通うお店のロゴが入っていた。



「…困ったなぁ…私も今日、行って来たの。」


「えっ…?」



丁度、買い物があって街に出たから久し振りに…と思って。



「4個になっちゃったね。どうしよっか?」


クスクスと笑いながらが箱を受け取ると、アスランもまた微笑む。



「じゃあ…2個ずつ食べる?」


「…えぇ?太っちゃうよ…。」


はもう少し太った方がいいくらいだから大丈夫だよ。」


「その油断が後で大変な事になるのよ?」






箱を持つに代わり、アスランがホースの後片付けを手早く済ませる。



「じゃあ…とりあえずお茶にしようか…。お天気も良いし、お庭で。」



「そうだな。」

























「ここに…住んでるのか…?」



ムウがマリューに案内されて着いた場所は、オノゴロの中心部から少し外れた郊外。


大小の様々な家が立ち並ぶ閑静な住宅街だった。




「えぇ。仕事を辞めてから…ね。」



ムウは眉をひそめる。


マリューに色々と質問はしたが、多くは答えてくれない。


『自分の目で確かめるのが一番だと思うから…』


確かにその通りなのだが、道を進むにつれて沢山の疑問が浮上した。








家族は居ない。


戦争で失い、軍に志願した彼女だから。



そこで出会って、2人は恋に落ちた。



共にアークエンジェルで戦い、俺は彼女を残して戦場に散った。



彼女の未来を守る為に…俺は盾となった。




彼女が悲しむのは目に見えていたけど…


それでも、彼女を失うよりは何倍もマシだと思ったから…。









そう…俺は彼女を1人ぼっちにしたのだ。






そんな彼女が…何故アパートでは無く、住宅街に…?


どんなに小さな家でも、女の子が1人で住むには大きい家ばかり。

















「ここよ…。」



マリューの言葉にハッと我に返る。



目の前には…小さな一戸建ての家が一軒。


小さいけれど立派な庭もあり、花が咲き乱れていた。





その奥にテラスがあって…


そこに立つ少女は…紛れも無く、俺が探していた人物…。




「……」




半年前より少し伸びた髪…


身長も…少し伸びたか?



また綺麗になった気がする…。





愛らしい笑顔でカップに紅茶を注ぐ姿に惹き付けられる。



…が、すぐに気が付いたのは、カップが2人分あるという事。





















「…マリューさん!?」




が門の前に立つ2人に気が付いた。



ポットを置いた彼女は笑顔で駆け寄って来る。





「お久し振りね。元気してた?」



「ええ。マリューさんもお元気そうで。」



笑顔を返すは次にムウへと視線を向けた。






ドクン…






俺らしくもない…。



半年振りに会う恋人に、一目惚れのような感情を抱いた。






「…もしかして…マリューさんの恋人ですか?」




「…え…?」







一瞬、耳を疑った…。



今…何て言った…?




…俺を…覚えてないのか?」



「え…?もしかして…どこかでお会いしました?」




少し髪が伸びて…顔に傷が付いただけだ。


外見は全く変わっていないと言っても過言ではない。



なのに彼女は…







「彼はムウ・ラ・フラガ。先の戦争で一緒に戦った人なのよ。」


丁寧に俺の事を説明する艦長…。


再び体中を駆け巡る不安…。



「そう…だったんですか。ごめんなさい。私、3ヶ月前より以前の記憶が無くて…。」









記憶…喪失…












「事故に遭って…その後遺症らしいんですよね。記憶を無くす以前の事は色々と教えてもらって…。」



目の前に居るは何ら変わりないように見えたのに…。


その姿も…笑顔も…昔のままなのに…


けれど…俺の事を知らない…。


俺の事を…恋人であった俺の事を覚えていない…







「初めまして…って言うのも変なんですけど…。一応。です。。」




差し出された手…


何度も繋いだ手…


何度も俺を抱き返してくれた手…




「ムウ・ラ・フラガだ…。」


その手に躊躇いながらも握り返す。



「…えっと…何とお呼びしたら?」


「…ムウで良いよ。」


「じゃあ…ムウさん。」






このままその手を引いて抱き締めてしまいたかった…。



いや…



そうするつもりだった…。



しかし、その行為を止めさせたのは彼女の名を呼ぶ声。







?」



「あ…アスラン。」



パッと離された手…


は声の主の元へ駆け寄る。











彼は…


俺も良く知る人物だった。




元ザフトの軍人で…キラの親友。


プラントの前最高評議会議長の1人息子のアスラン・ザラ…。



戦争終盤では共に戦った仲間…。












「ムウ…さん…?まさか…!」



当然の事ながら、彼は俺達の関係を知っていた。


いや…アークエンジェルに…クサナギに…エターナル。


共に戦った同志達、皆が知っていた。




「そうだ。一緒にお茶でもいかがですか?ケーキが丁度4人分あるんですよ。」



ただ1人、何も知らないはニッコリと微笑んで言う。









知らない事は幸せな事なのか…


俺の知らない空白の半年間…に何が起こったのか…。




また、知りたい事ばかりが増えていく。















【あとがき】

初っ端から何て言うか…ねぇ。

書き出しに相当悩みました。

一応、このお話のネタ自体は大分前から上がってたんですね。

そしてどうしても書きたかったのです。

ムウ夢が!!

携帯サイトではもう…ムウ祭りと称して短編書いてたんですけど、

連載も書きたかった!!

ムウVSアスランです。

ライバルには色んなキャラを思い浮かべました。

キラとかイザークとかディアッカとか…。

キラは一番に却下しましたね。

何故なら…キラなら簡単にムウに返しちゃいそうだから。

イザークは…何だか本編と絡める上で難しかった。

ディアッカは…何かありきたりかなぁ…と。

なので、一番中途半端に絡んでたアスランにしてみました♪

もう…1話から訳の分からない展開の作品です。

こちらものんびりと更新して行きたいと思います。





2005.6.7 梨惟菜





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