私には大切な人が居て…



その人も私を大切に想ってくれていて…



彼と過ごす何気ない1日がとても好きだった。






お互いの気持ちは確かに同じ場所にあって…



嬉しい 悲しい 苦しい 切ない…


全ての感情を分かち合っていた。



そう…思っていた…




















  〜19の秋〜




















見慣れた街並みが赤や黄に染まってゆく。



そんな季節が今年もまた訪れた。



朝晩の肌寒い独特の空気



澄み渡る雲一つ無い青空



私はこの季節が大好き。




貴方と恋人同士になって初めての秋…。





















「ア〜スラン♪」



いつもと同じベンチに腰掛けていた彼の手には文庫本。



後ろから急に声を掛けたのに、彼には動揺の気配など全く無い。




「…、終わったのか?」




パタン…と閉じ、振り返る彼は翠の瞳を細めて笑う。



この顔が私はとても好き。




「遅くなってごめんね?退屈だった?」



「いや…本を読んでたから平気。」



アスランは本を鞄にしまうと、ゆっくり腰を上げた。





















「あ!楓、染まってる!」



繋いだ手を離す事無く、は楓の木へ駆け寄る。



その勢いに負けてアスランもまた彼女の後を追った。





は楓が好きだな。」



首を上げ、楓の赤に魅入るにアスランは問い掛けた。




「うん。秋の植物の中で一番好き。」



「俺達が出逢ったのも…この通りだったな。」



「そうだね。」





あれから1年か…



恐らく、2人の心には同じ想いが浮かんだだろう。



1年前の秋…今と同様に楓を見上げるにアスランが声を掛けた。




『楓…好きなのか?』




これが2人の始まりの言葉。










物事に対する価値観が同じで…



色んな場面で意気投合して…




お互いに傍に居るのが当たり前の存在になっていた。



多くを語らなくても分かり合える…



そんな相手はこれから先、二度と出逢えないだろう…。




こうして2人は、芽生えた小さな恋心を育んで来た。





















「そうだ!もうすぐアスランの誕生日だよね?」



「え…」



の口から出た言葉に、何故かアスランは戸惑いの表情を浮かべた。




「何でそれを…」



「ディアッカから聞いちゃった。」



自分の誕生日を自ら彼女に教えた記憶は無い。



彼女も聞いて来なかったから、俺もあえて言う事はしなかった。




「ビックリさせようと思ってね、ずっと知らないフリをしてたの。」



「そっか…」


「ねぇ、お祝いしよう?私ね、プレゼントもちゃんと…」



…」



「ん?なぁに?」



「当日はダメなんだ…。」



「え…」




思い掛けない返事。



喜んでくれると思ってたのに…。



当日は…ダメ…?





「…何か、先約があった?」



「…毎年…外せない用事があるんだ。」





















毎年外せない用事…?



気まずい雰囲気のまま、アスランと別れた



真っ直ぐ自室へと入り、ベッドに倒れ込む。




外せない用事…




それが何なのか、アスランは教えてくれなかった。



私も何となく聞けなかった。



その時のアスランの瞳はとても悲しそうで…


誕生日なのに、嬉しく無さそう。





毎年って事は、来年もその次も…って事?



用事って何?



どれ位大切な用事なの?



私には打ち明けられない事なの…?




















…済まない。」




自室の窓から見える海に向け、アスランは小さく呟いた。



空に浮かぶ満月が海に映り、幻想的な輝きを放つ。




分かっている…



いずれは打ち明けなければならない事があって…


それがを悲しませてしまう内容である事は。




優しくて、人一倍他人に気を遣う子で…


だから今日も、何も聞かなかった。



俺の表情を読み取り、彼女は好奇心にブレーキをかける。


そしてそんな彼女に甘え、俺も今まで逃げて来た。




向き合わなければならない。



過去にも現実にも…そして未来にも…。



彼女はきっと、こんな俺の姿は望んでいない。



















「はぁ…」



何となく憂鬱な1日。


今日はアスランより早く授業が済んで、待ち合わせのベンチに座る。



いつもならこの時間が早く過ぎて欲しいと願うのに…



そんな気持ちになれないのは、昨日の事が原因。



アスランの事ならどんな些細な事だって知りたい。



そう思うのは私の我侭?


アスランはそう思わないのかもしれない。



嫌われるのが怖くて…困らせるのが嫌で…



アスランの前では常に理想の女の子でありたくて…


思ってる事を溜め込んでしまう自分に対する嫌悪感…。


今までこんな事、一度だって無かったのに…。






…」


いつもと違う声が私を呼んだ。



「ディアッカ…」


現れたのは、アスランの一番の友人。



「アスラン、課題が残ってて遅くなるってさ。」



説明しながら彼は隣に腰を下ろす。



「そう…わざわざありがとう。」



「ついでに心配だからアスランが来るまで付き合う。」



「…優しいね…」



に何かあったら俺が大変な目に遭うからな。」
















「…ディアッカは…知ってるの?」



「ん?」



「アスランの誕生日の大事な用事。」



「…まぁ…付き合い長いし…な」



「…そっか…」




沈んだ表情のに掛ける言葉が見つからず…


ディアッカは良く晴れた青空を見上げる。






「何も聞かないんだな…」



「アスランが言いにくい事をディアッカに求めるなんて悪いじゃない?」




聞けるものなら聞きたいけれど…


それって何だかアスランの秘密を探ってるみたいで良い気持ちはしないもの。


出来る事なら本人の口から聞かせて欲しいから。




「その内話してくれるだろ…。」



「…うん。」






















…聞いて欲しい事があるんだ。」



1時間ほどして、ようやく現れたアスランはを近くのカフェへと誘った。



外気で少し冷えた体を温めるように、は紅茶を口へ運ぶ。



「うん…」


「昨日の事なんだけど…」


「うん…」



の瞳は真っ直ぐにアスランを見つめる。



『外せない用事』の真実…


その言葉の裏に何が秘められているの…?





カチャ…



ティーカップを置いたは、小さく深呼吸をした。


そんなの前に、1枚の写真が差し出される。



今より少し若いアスランと…隣に寄り添う同い年くらいの女の子。


愛らしい笑顔に、の胸がドクン…と高鳴った。







と出逢う前に…付き合ってた子なんだ。」







アスランの…前の恋人…?








色白で華奢で…守ってあげたくなるような女の子。



アスランも彼女も幸せそうに微笑んでて…



なのに…なんで…





「どうして…別れたの?」


それだけはどうしても聞いておきたかった。


どうして今、私の傍に居てくれるのか…知りたかったから…。














「もう…会う事の出来ない場所に居る。」



少し間を置いて…アスランは答えた。




「え…?」



それって…




「俺の誕生日は…彼女の命日なんだ…。」





















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