翌日…






ラクス嬢とアスランと共に登校するの姿があった。







昨日泣かせたあの表情とは違って…穏やかな表情だった。






時折、アスランに話し掛けられて柔らかく微笑むの顔を見ていたら胸が痛んだ。








あんな風に笑うヤツだった…。







なのに…あいつの気持ちも知らぬままに婚約者の役をさせ、辛い想いをさせた。








傷付けた…。





いつも笑っていてくれたあいつを俺が傷付けた。










幼馴染という関係を必死で守っていたあいつを突き放した。






きっと、以前の様に俺に微笑み掛けてくれる事は無いんだろうな…。





















偽装恋愛





















「わたくしは授業が始まる前に図書室へ寄って参りますわ。」







校舎に入ってすぐの事…





「アスラン、を教室まで送ってさしあげて下さいな。」





「えぇ…分かりました。」





「では、また放課後に。」






「…ごめんね。何だか2人の邪魔をしちゃってるみたいで。」






「いえ。構いませんわ。こうしてと一緒に登下校が出来るのは嬉しいです。」








ヒラヒラと手を振りながら、ラクスは図書室のある棟へと歩いて行った。







「じゃあ行こうか。」





「あ…うん。」






アスランに並んで廊下を歩き始めた。











「少しは落ち着いた?」




「お陰様で。」





「目元も腫れて無いし…あれから泣いてないみたいだな。 」






の表情を見て、アスランは安心したように呟いた。






「いつまでも泣いてたって…何も変わらないしね。」





「前向きだな。」





アスランの一言に、ただ微笑んで返す。







前向きなんかじゃない…。




仕方ないって受け入れた訳でもない。







でも、自分だけが悲劇のヒロインみないな顔で居ても何も変わらないって分かったから…。





イザークを困らせる事だけはしたくないって思ったから。







恋人になれないのなら傍に居るだけでも…なんて健気さは持てない。






幼馴染として…なんてもう嫌だ。






それならいっそ…イザークの居ない世界に行ってしまいたい。






溢れる想いを抑える術など知らず…




だからといって、感情的にぶつける事ももう出来はしない。







イザークの口から聞かされた、拒絶も現実のもの。





聞き入れなくてはいけないって事も十分に分かっている。




でも…頭では理解しようとしていても、心は受け入れてはくれなくて…。





交錯する想いが胸を締め付ける。














、大丈夫?」




「えっ…?」





気が付けば教室の前まで来ていて…それにさえ気付いていなかった私の様子をアスランは伺う。






「あ…もう教室?」




「本当に大丈夫か?」





「大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから。

 送ってくれてありがとね。」




「ああ。また放課後にな。」




「うん。」




















「珍しいわね。アスラン・ザラと一緒だなんて。」





教室に入ると、場所を取っていてくれたが私に手を振って迎えてくれた。







「…ラクスとは親しいから…いつの間にか…ね。」





「…って言うか…イザーク様は?一緒じゃないの?」






「振られちゃった。」





「え?」





「昨日ね…告白したの。それで、断られた。」



…」




「すぐにでも婚約解消になると思ってたんだけどな…。」






イザークの事だから、昨日の内に申し入れがあっても…って思ったんだけど。




流石に私の事を気遣ってくれたのか…その話は出て来なかった。









「…大丈夫?」





「どうかな?」







私よりも悲しそうな顔で気遣ってくれる








「ねぇ…。」



「ん?」




「言えないまま終わっちゃった恋と、告げて終わっちゃった恋…どっちが幸せなのかな?」









と私…





同じ様に幼馴染に恋をして…その人と結ばれる事を願って…





でも結局、共にその想いは叶わなかった。




過程は違ったけれど、結局は同じ場所へと辿り着いた。






だったら…言わないまま終わった方が良かったのかな…。










「私は…伝えたかったな。」



…。」





「伝えてたら…こんなに長い間引きずる事も無かったんじゃないか…って思うし。」






それは…今だから言える事なんじゃないかな…。




あの時もしも…想いを告げて終わっていたら…




『言わなきゃ良かった』…って思ったんじゃないかな…?














でも…今更後悔したって遅いんだよね…。





過去に戻ってやり直せるなら…



そう何度も思ったけれど、結局それは叶わぬ願い。





だから今がある。


















「いつか…イザークじゃない誰かを好きになれるのかな…。」







「…きっと…なれるよ…。」







は寂しそうに…でも微笑みながらそう返してくれた。








にね…報告が…あるの。」




「なぁに?」




「えっとね…恋人が…出来ました。」




「え!?嘘っ!誰なの!?」










「ディアッカ…様…。」
















「もしかして…あの時の事件以来?」







そう聞くと、は真っ赤になって頷く。








「あれから…色々と心配してくれてね、送り迎えとかもしてくれて…。

 もっと軽い人だと思ってたけど…凄く誠実で真面目な人で…。」










そうやってディアッカとの事を話してくれるはとても幸せそうだった。











「良かったね…。」




「ありがとう。」












こうして人は、小さな幸せを紡いでいく。





些細なきっかけが大きく運命を左右して…




だから人は生きてるんだね。






















、帰りましょう。」








放課後になって、ラクスとアスランが迎えに来てくれた。








ラクスは私がイザークを避けている本当の理由を知らない。





それを知っているアスランも、恋人であるラクスには決して言わない。






恋人に隠し事をしているなんて、本当に後ろめたいと思う。






でも、彼女にそれを告げてしまったら苦しむのは彼女。






ラクスは悪く無いけれど、きっと罪悪感を感じてしまう。






ラクスにもアスランにも…本当に申し訳ない事をしてる…。

















「折角来てくれたのにごめんね…私、イザークともう1回話して来る。」





「え…?」





「やっぱり…このままじゃ納得出来ないから…。」






…」






「仲直り…出来ると良いですわね。」





2人が喧嘩をしているのだと思っているラクスは純粋にそう答えた。





「うん。ありがとう…。」





「1人で大丈夫か?」




「大丈夫。これは私の問題だから…。」










2人に笑顔を向け…廊下を走った。





























1人が好きだった…





毎日、帰りになると付きまとってくるディアッカは迷惑だったし…




そんなディアッカと嬢が付き合い始めたと聞かされたのは今朝の話。








最近は彼女に付っきりで共に行動する事も少なくなった。






とは昨日…終わった。






久し振りに訪れた…1人の時間。






だが、今はあまり1人にはなりたくなかった。





1人になると、色々な考えが頭を過ぎって…考えたくない事まで考えてしまう。












「イザーク…」





1人…校門へと向かって歩いていると、目の前にが現れた。





…」




「話したい事があるんだけど…一緒に帰らない?」





















「意外だったね…。」



「何がだ?」




とディアッカ…。」




「あぁ…その事か。嬢から聞いたのか。」





「うん。嬉しそうに話してくれた。」




「そうか…。」












ぎこちない会話…



微妙な距離…




何年も一緒に居た筈の幼馴染…





なのに…知らない人と歩いているみたい。









「話したい事があるんだろう?」




「あぁ…うん。」




「どんな話だ?」











「イザークは…ラクスに告白しないの?」





ピクリと…イザークの眉が僅かに動く。





「何故だ?」




「だって…ラクスが好きだからとの婚約を断りたかったんでしょ?だったら告白すればいいのに…。」






それは当然の事なのだけれど…


いや、図星だからこその一言にイザークは苛立ちを感じた。







「振られると分かっているのに…か?」




「じゃあ…一生このままでいるつもりなの?結婚しないで人の奥さんを思い続ける?」





「何が言いたい…?」





「どうしたら…イザークは前に進めるの?」







昨日は泣きそうだったあの瞳が、今日は鋭くイザークを睨み付けるように見つめる。






「時が経てば…忘れられるとでも思ってるの?」




「何を…」





「無理だよ。自分が変わろうと思わない限り、いつまで経ってもその想いに縛られたままだよ…。」







「お前に何が分かる!!」








響くイザークの怒鳴り声。




学校からの帰り道である通りではまだ人も多く…周囲の人々は思わず視線を向けた。







「分かるよ。私がそうだったから。」




…」





「でも…告白しても変わらないの。」







告白したら…何か変わるかもしれないって思った。



でも、現実は何も変わらない。




私が失恋したって、日常は何も変わらない。










「私の事…何とも思っていないって分かってるのに…それでも好きなの。」





好きで仕方ないの。




私だけを見て欲しいの。






気持ちだけが膨らんで…自分でもどうにも出来なくて…。








「ねぇ…どうしたら私を見てくれるの!?どうして私じゃ駄目なの!?」






…」




気が付けばの瞳には涙が溜まっていて…今にも溢れ出そうだった。






「私とラクス…何が違うの!?」




イザークの袖を掴むの手は震えている。





こんな風に泣くは初めてだった。




気が強くて…相手が男だろうと平気で言いたい事は言える。




そして滅多に泣かない…




は強い女だ。




いや…強い女だと…思っていた。

















…俺は…」





震える手を押さえ…言葉を掛けようとした。







「…ごめん。ワケ分かんないよね。何言ってんだろ…。」






再び顔を上げたの瞳に涙は無かった。








…」




「あ〜気にしないで。もしかしたらイザークの気が変わるかも…って思って言ってみただけだからさ。」






いつものに戻っている。




強がりで…すぐに憎まれ口を叩く生意気なに。











「いつか…見つかるといいね。自分を想ってくれる恋人がさ…。」





…」





「じゃ、私先に帰るね。一緒だとお互いに気まずいでしょ?」












いつもの様に…は笑顔で手を振って走り去った。





その後姿を見つめながら…イザークはただその場に佇む。









震えた手が自分の袖を掴むその感触が…今もこの腕に残っていた。























「お母様!お願いがあるの!」




「何?帰って来た途端に…。」





家へと帰ったは一目散に母親の元へと向かう。








「…婚約者…私と相性の良い婚約者を探して下さい…。」
























【あとがき】

ようやく更新出来た〜

…と思いつつ…早速煮詰まってしまいました。

ずっと傍で見て来た幼馴染の意外な一面…

強い子だと思っていたのに実はこんなにも脆かった。

なんだか最近の『あ○のり』のような展開…。

最近の女性メンバーは相当粘りますからね〜。

押せ押せヒロイン!

…かと思いきや、急にあんな発言を…

また微妙な所で切ってしまってごめんなさいね。

こんな切り方が凄く好きです。

「何だよ!どうなってんだよ!」みたいな…ね。

そうやっていつも苛々しつつ、次回までお預け…みたいな。

そろそろこのお話も完結させたい勢いです。










2005.9.9 梨惟菜











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