「…どうしたんだ?」
真っ赤に腫れた瞼…
頬を伝う涙…
気まずそうに俯く彼女と、それを覗き込むアスランとラクス…。
こんな絶妙なタイミングで2人に会っちゃうなんて…。
「な…何でも無いの。」
慌ててそう答えるけれど、その一言で納得してくれる2人ではない。
それも良く知っているの…。
でも、2人には話せない…。
2人は…何も知らないから。
何も知らない方がいいから…。
偽装恋愛
「何でも無い筈がないだろう…?そんなに泣いて…。」
どうしたんだ…?
やはり…余計に心配をするアスランはの顔を上げさせて瞳を見つめた。
「イザークと…ちょっと喧嘩しちゃっただけだから…。」
「イザークと?」
「いつもの事なの…お互いに言い出したら聞かない性格だから…。」
だから大丈夫…
頬の涙を拭ったは…まだ赤い頬を押さえながら微笑んだ。
「本当に…?」
「うん。本当にそれだけだから…。」
「イザーク様に…何か言われましたの?」
「ううん。本当に大した事じゃないから。きっと明日には元通り。」
そう…
元通り…何も無かった様に笑わなくちゃいけないの。
私はイザークの幼馴染なんだから…
今まで通りに接して行ける様に努力しなくちゃ。
「じゃ、帰るね。また学校で。」
ニッコリと笑ったは、再び駆け出した。
「う…っ…ふぅ…っ…」
一気に部屋へと駆け込んだは、壁に凭れて泣き崩れる。
苦しい…
息が…思うように出来ない…
この想いを失う事が、こんなにも苦しい事だなんて知らなかった…。
イザーク…
イザーク…イザーク…っ…!
嫌だ…
イザークが誰かと恋に落ちて…誰かと結婚するなんて…
そんなの考えたくないよ…
ピンポーン…
邸に鳴り響くチャイム。
お母様にお客様かしら…
伝う涙を拭う事もせず、天井を仰ぐ様に見つめた。
その時…
「、お客様よ?」
「…私…に…?誰…?」
「アスラン君よ。」
「やっぱり…まだ泣いてる。」
泣き腫らした瞼は、先程別れた時よりも赤くなっていて…
泣き止むどころか、あれから更に泣いた事は一目瞭然だった。
「さっき…ラクスが居たから話せなくて…」
「え…?」
「彼女が…原因なんだろ?」
いつも以上に真剣なアスランの眼差しは知っていた。
私が何の為に涙を流していたのか…
「何となく…気付いてたよ。イザークの気持ちには。」
だけど…
いや、だから、悟らせたくなかった。
ラクスには…彼の気持ちは…。
「だから…はきっと傷付くんじゃないか…って。」
「アスラン…」
自分の友人が…自分の婚約者を想っている。
でも、自分の想いは譲れなくて。
知らない振りをする事しか…出来なかった。
「…分かっては居たんだけど…苦しいね。」
自分の想う人には他に好きな人が居て…
その人の想いも報われなくて…
もしかしたら…振り向いてくれるかも知れないって…
心のどこかで期待してる自分が居て…
カッコ悪い…
惨めで…情けなくて…
こんなドロドロの嫉妬しか無い私を…イザークが愛してくれる筈無いんだ…。
「俺…何もしてあげられないけど、話聞く事だけなら出来るから。
何でも相談してくれ。な?」
「…ありがとう。アスランは優しいね。」
「そんな事ないよ。ラクスを取られたくなくて必死な…情け無い男なんだ。」
「でも、ラクスはきっと嬉しいよ。そんな風に想われて。」
「だといいな…。」
「本当にありがとうね。」
「あぁ。あんまり泣くなよ?明日の朝、とんでもない事になるぞ?」
「うん。アスランのお陰でだいぶ元気になったから…もう泣かないよ。」
誰かが自分の想いを判ってくれているだけで、だいぶ気持ちは軽くなるの。
「じゃあ…また明日。」
「うん。また明日。」
玄関先までアスランを見送ったは、門を出るまでアスランの背中を見送った。
本当に…ラクスは幸せね。
私も…あんな風に愛されたかったの。
『これで終わり…だね。』
寂しそうに微笑んだの顔が頭に焼き付く。
俺の気持ちを知っていながら…それでも伝えてくれた本心…
気持ちに応えてやれないからと…告げた一言。
俺は…間違っていない…
そう…それがお互いの為だと…思ったから…
キィ…
目の前に見える邸の門が開いた。
一瞬、かと思い、足が固まったように停止する。
「アス…ラン…?」
何故…の家からアスランが?
ラクス嬢を同伴している訳でも無く…1人で…
何故…
婚約の話を白紙に戻して欲しいと頭を下げる為に訪れた筈のイザークは、そのまま踵を返した。
【あとがき】
ようやく更新出来ました。
ヒロイン→イザーク→ラクスの三角関係にアスランが加わりました。
本来ならアスランは相当な鈍感だと思うのですが…。
今回は意外なキーキャラになります。
様、ここまで読んでくださってありがとうございました。
2005.8.14 梨惟菜