最近…イザークの様子がおかしい…。


婚約者の振りを始めてから、ほぼ毎日共にしてきた登下校…


それがここ数日、彼の都合によって行われていなかった。



「暫くは一緒には帰れない。」


その一言だけで…それ以上の事は何も言わなかった。



別に…構わないんだけど…


どうせ、偽物の婚約者なんだから…。



















  偽装恋愛




















さん!!」


校門を出ようとした所で誰かに呼び止められた。



「…あ…さん…」


「今帰り?今日は1人なの?」


「…えぇ…ちょっと…」



先日、一緒にお茶して以来、彼女は会う度に笑顔で声を掛けてくれる。


同い年なのに…私なんかよりずっと大人。


私が逆の立場だったら…きっと嫉妬して悔しくて、そんな事出来ない。






「途中まで一緒に帰らない?」


「あ…はい。」



そう答えると、はクスクス笑った。



「?何か…?」



「ねぇ…その敬語、止めない?私達、同い年でしょう?」


「あ…。」


そう言われて口を噤む。


「それと…名前もでいいから。って呼んでもいい?」


「…うん。」



















「イザーク様とは…どう?」


「どうも何も…相変わらず。」


「…そうよね。」



流石、は良家のご令嬢だけあって、一緒に歩いていると注目を浴びる。


イザークと歩いている時とはまた違った視線にドキドキした。



だって…彼女を見る視線は勿論、男性からのもので…。


こんな綺麗で魅力的な女性からの婚約を断ってしまうイザークって…贅沢者だなぁ…って思った。


それ程にラクスが好きなのだろうか…。










「…は…私の事…恨んだりしてないの?」


「私が…?まさか。」


風に揺れる栗色の髪がとても綺麗で…

私がもし男の人だったら…きっと彼女みたいな人を望んだだろうに…




は…私以上に苦しんでるもの。恨む理由なんてどこにも無いわ。」



綺麗で…儚げで…


そして…私なんかよりもずっと…器の大きい人。


そして…強い人…





「言いたいけど言えない気持ち…私にも分かるから。」


…?」



「私にもね…居たの。幼馴染が…。」


「過去形…なの?」


「あ、勘違いしないでね。ちゃんと生きてるから。

 でも…もう結婚…してる人だから…。」




「その人の事…」


「好きだった。6つ年上のお兄さんみたいな存在の人でね…ずっとお嫁さんになるんだって願ってて…。

 でも…彼にとって私は妹でしかなかった…。」



未消化なまま終わってしまった恋は行き場を無くして…

思いを告げる事が出来ぬまま…年だけを重ねて…


そして…彼に…イザーク様に出会った…。




「婚約者を決めなければいけない年頃だって言われて…

 適合を調べた結果、一番相応しいのがイザーク様だったの。」





写真を見た瞬間に惹かれた彼…

この人なら…この人と添い遂げる事が出来れば…



「どっちか一方だけの想いじゃ成り立たないね…恋愛って…。

 彼を失って…イザーク様に出会って…思い知らされたわ…。」



綺麗で強くて…


何でも持っている幸せな人だと思ってた。


同性から憧れられる存在で…

異性から特別な目で見られる存在で…


でも…抱いている気持ちは同じ…。



誰か1人でいい…


自分を求めて…自分を愛して…


















嬢!」


会話を交わしながら暫く歩いていると、公園の側に差し掛かった。


突如、を呼ぶ声に共に振り返る。


数人の男性がこっちを見て手を振っていた。



「…知り合い…?」


の表情を覗き込むと、彼女の表情は堅い。


「知らないわ。行こう。」


「え…?」



の手を引くと、背を向けて足早に歩き出す。




「ちょっと待って下さいよ!つれないなぁ…。」






「ね…大丈夫なの…?」



大学生くらい…かな…?


明らかに知ってる素振りで私達を追って来た。



「気にしないで。付き纏われてるだけだから…。」





嬢!」



1人が素早く前に回り込み、進路を阻まれてしまった。



「今日は友人と一緒ですので…お帰り願えませんか!?」


を庇うようにしながら強気な態度で歯向かう。




「珍しいですね…貴方がお友達と一緒だなんて…。」



…先に帰って…」


「え…でも…」



「お友達もご一緒で構いませんよ?一緒にお食事でもどうですか?」


「…結構です!」




明らかに困っているに対し、それでも引こうとしない男性陣…




「ちょっと!いい加減にしなさいよ!困ってるじゃない!!」


を押し退けて前に出ると、相手は鋭い視線で私を見る。



「…あんた達みたいな男がに近付けると思ったら大間違いなのよ!」


「何この女…」


「ちょっと見た目可愛いからって調子に乗ってんじゃねぇよ。」


「…ってかさぁ…俺達は嬢に用があんの。」



「だから、それがウザイって言ってんの!」



「ウザイのはそっちだろ!!」



パシッ!




「きゃ!!」



1人がの頬を叩く…


!!」


少し赤く腫れた頬を押さえ、睨み返す。



「手のひら返したわね!女に手を上げるなんて最低!」


「自分が女だって自覚あんなら、もっとおしとやかにしとけよ!」




…私だって…


私だって好きでこんな女になったんじゃない…。



別にその辺に居る男達にチヤホヤされたい訳じゃない…




















「なぁ…何かアレ…やばくねぇ?」



通りを歩くディアッカがポツリと呟くように言った。


「何がだ…?」



「あそこで絡まれてんの・・・嬢じゃねぇの?」


「何…!?」



ディアッカが示す方向を見ると…3人の男に囲まれるの姿…



「あのバカ…っ…!!」




















「…っ!離してよっ!!」


「そっちこそどけよ!俺達は嬢に用事があるんだよっ!」



!もういからっ!!」





冗談じゃない…


こんな奴ら前に…彼女置いて逃げる訳には行かないのよ!




掴まれた腕が締め付けられるように痛む…

でも…負ける訳には行かない…


こんな奴らの思い通りになんてさせない!






「貴様ら!何をしている!!」





「…!?」




「イザ…ク…?」



やはり囲まれていたのは

…それと…嬢…?




男に腕を掴まれていたのはで…

の頬が赤く腫れ上がっている。



「貴様ら…っ!!」



イザークの中で…男が女に手を上げるなんて許されない事であった。


それが…目の前にいる幼馴染の腫れた頬を見て悟る。


世の中には平気で女に手を上げる輩が居るのだと。







怒りが頂点へと達したイザークは、を掴む男を勢い良く殴り飛ばした。


「うわっ!!」


の手を離した瞬間に、イザークはを腕の中に抱き留める。

その素早さと…圧倒的な強さに、残された男達は一歩下がる…





「怪我をしたくなかったらすぐに消えろ!!」






















「大丈夫…?」


近くの水場でハンカチを冷やして来たの頬にそれを添える。


「あ…ありがとう…。」


「そんな…私の方こそごめんなさい。巻き込んでしまって…。」


「ううん。気にしないで。私も気に食わなかったのよ。」



平気だと笑顔で返すを見て、はホッと胸を撫で下ろす。



「だからって…女が男3人を相手に敵う筈が無いだろう。」


正義感が強くて…

曲がった事が大嫌いで…


俺に良く似た…幼馴染。



「ディアッカ、嬢を頼んだぞ。」


「りょ〜かい。」


「え…でも私は…」


「心配すんなって。ちゃんと家まで送り届けてやるから。」


ディアッカがの荷物を持って歩き出した。



「俺達も帰るぞ…。」


2人きりになって…イザークが立ち上がり背を向ける…。


「…どうした?」


からは返事も返って来ないし…動き出す気配も無い。


「ごめ…立てない…」


が帰った途端、急に小刻みに震えだすの体…



「本当は…怖かったんだろう?」


「…っ…」


イザークに言われた事は真実で…


本当は怖くて…逃げ出したくて…

でも彼女の事、放っておけなくて…


「う…っ…ふぅ…」


イザークの顔を見て急に安心した途端に溢れるのは涙…


「こわかっ…」


「…良く…頑張ったな…」


座り込んだまま動けなくなっていたをイザークは優しく抱き締める。


優しく背中を擦ってくれる仕草に懐かしさを感じたは、声を押し殺しながら泣いた。


イザークのシャツがの涙で湿ってゆく…。























【あとがき】

むぅ…

この作品、微妙なスランプに入りまして…

この4話を書くのにはだいぶ時間が掛かってしまいました。

強いけれど本当は弱いヒロイン…

こういう子、きっとイザークのツボ。(勝手な思い込み)

一応、ヒロインはイザークに良く似た不器用な子…という気持ちで書いています。

出来ればあと2、3話くらいで完結にしたいとは思うのですが…。

どうなる事やら…


では、ここまで読んで下さってありがとうございました♪




2005.6.26 梨惟菜










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