「ん…」



そのまま泣き疲れて眠ってしまった私はカーテンの隙間から零れる光に目を細めた。


お気に入りのスカートが皺になってる…。


先週買ったばかりのシャツも…。



気だるそうに起き上がったカーテンを開き、鏡を覗き込んだ。




「うわ…酷い顔…。」



目が腫れて赤くなってる…。


今日が休日で本当に良かった…。





















偽装恋愛























?起きたの?」




部屋をノックする音が聞こえ、扉の向こうからお母様が様子を伺う。



「あ…はい。」


「入ってもいいかしら?」


「…えぇ。」







ガチャ…





「…やだ…支度が全然出来て無いじゃないの…。」


「え…?」




何か予定があった…?


全く覚えが無くて…色々と過去の記憶を探ってみるけれど…


どう考えても今日は何の予定も無い、ごく普通の休日の筈。




「あの…今日は何かお約束してました?」



「何を言ってるの?今日はイザーク君とパーティーじゃなかったの?」


「え?」


「昨日はその誘いに来たって言ってたわよ。」




ちょっとしたパーティーがあって…評議会の関係者が集まるらしく…

パートナー同伴パーティーで…先日婚約をしたばかりのイザークにも招待状が届いたらしい。





私があんな態度を取ってしまったから…言わずに帰ってしまったのだろうか…。
























「今日はお招きありがとうございます。」


煌びやかに輝くホールには評議会の関係者の姿が多数見られた。



どこを見渡しても男女2人組のカップルばかり…。


パートナー同伴が条件なのだから当然と言えば当然だ。



「こちらこそ。お忙しい中来て下さり有難うございます。」


母に代わって出席したイザークは主催者へ挨拶に行く。



「あら…?婚約者の方はご一緒じゃありませんの?」


傍らに立つ妻がイザークに尋ねた。



「…えぇ。折角お招き頂いたのですがここ数日体調が優れないようで…」


「そうでしたの。お会い出来なくて残念ですわ。」






昨日の今日で誘える筈も無く…


今日は適当な理由を付けて1人で参加する事にした。




があんな風に思っていたとは知らずに…






『ラクスが好きな癖に…私と婚約なんかしないで!!』




俺の気持ちを知っている人間が居るとは思っていなかった。


しかもそれが自分の一番身近な人間…。




だったらどうして…婚約の話など引き受けてくれたのだろう。






「では…これで…」



軽い挨拶を済ませ、フロアの隅で時間を潰そうと思った時だった。



「遅れて申し訳ありません…。」


「……?」



背後から声がして振り返ると…視線の先にはが居た。



淡い水色のドレスに身を包んだはニッコリと笑顔を見せる。




「まぁ…イザーク様、紹介して頂けます?」



「あ…はい。」


に目を奪われてしまっていたイザークは我に返った。



「婚約者の…嬢です。」


「初めまして。と申します。本日はお招きありがとうございます。」



は慣れた動きで深々と頭を下げる。



「まぁ…素敵な方ね。今日は楽しんで行って頂ければ幸いですわ。」





















…どうして来たんだ?」


「どうして…って。当たり前じゃない。婚約者なんだから。」



バルコニーへと出たをの後に付いてイザークも外へと出る。


「昨日は…ごめんね。無神経な事言っちゃって。」


「いや…気にしてない。」


「…嘘ばっかり。」



そう言われ、押し黙ってしまう。


何もかも見透かされている気分だった。



「安心して。引き受けたからにはちゃんと演じ切ってみせるから。」


例えその先に幸せは無いとしても…。






「何で…分かった?」


「ん?」


「その…彼女の…事。」



「…あぁ…だって…似てるんだもん。私と…。」


「…似てる…?」




「私も…同じだから…。イザークみたいにね、叶わない恋…してるの。」








叶わない恋…


に…そんな相手が…




「婚約者持ちか?」


「うん…まぁね。」




目の前に居るんだけどね…。


ホント…鈍感なんだから…



そんな所も…好きなんだけど…。


言えたら苦労しないのにね…。









「折角だから…踊らない?」


「…あぁ…そうだな…」



フロアではワルツが流れ…ダンスが始まっていた…。






「踊って…頂けますか?嬢?」


「喜んで。」





差し出されたイザークの手を取り、2人はフロアへと姿を消していった。





















「ちょっと…お手洗いに行って来るね。」



ダンスが終わり、再びフロアの隅に戻ったは一言断って会場を後にした。



「ふぅ…」


イザークは壁に凭れ、溜息を吐いた。






「あら…イザーク様もいらしてたのですね。」



声を掛けられ顔を上げると…そこにはラクスが居た。



「ラクス…嬢…」



純白のドレスに身を包んだ彼女は柔らかく微笑む。



その傍らにはアスラン…




「久し振りだな…イザーク。」


「…あぁ…」



同じ学校に通っているのにあまり会う事は無い。


学年も違うし…








「そうですわ、この度はご婚約おめでとうございます。」



「…ありがとう…ございます。」




仮にも想いを寄せている相手から祝福されるのは複雑な気分だ。



分かっている…


彼女には婚約者が居る…。




互いに想い合っているし…揺るぐ事の無い関係だと言う事も…




『叶わない恋』…



の言う通りだ…。


なのに、未だこの想いが捨て切れず、婚約の話も断る自分…


女々しいにも程がある…。








も幸せですわね。やっと想いが実ったのですもの。」


「え…?」



「わたくしも色々と相談に乗らせて頂きましたのよ?」




何を…



「でも…本当に嬉しいですわ。の気持ちがイザーク様に通じて…。」





















「イザーク?どうしたの?」



いつの間にか戻って来ていたがイザークの顔を覗き込む。



「え…?あ…いや…」



の顔が視界に入り…思わず声が裏返りそうになった。



ラクス嬢が言った言葉が頭を巡る…。


結局何も聞けず…2人はフロアへと消えてしまった。





…」


「…なぁに?」


「いや…何でも無い…」











『叶わない恋、してるの…。』



それは…俺の事か…?



何度も聞こうと思った…


でも…聞けなかった…




聞いてどうする?


何がしてやれる…?



の気持ちも知らずに…を利用しているのは俺だ…


応えてやれないのなら…知らない振りをしているのが一番じゃないのか…?





俺は…の気持ちには応えてやれないんだから…




















【あとがき】

酷っ!

イザーク…鬼だ…

片想い設定って難しいです。

告白の仕方が…ねぇ。

私の書く片想いネタって…間接的に気持ちがバレる展開多い…??

相変わらずワンパターン人間で申し訳無いです。






2005.6.10 梨惟菜







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