「アスラン・・・。」
翌日もアスランはいつもの場所に居た・・・。
浮かない表情で、ただ外を見つめている・・・。
「あぁ・・・・・・。」
「昨日は・・・ありがとう。から聞いた。」
私はアスランの隣に腰掛けた。
「もう、気分はいいのか?」
「・・・うん。」
笑顔が見たくて
後編
気が付いたら私は自室のベッドに居た。
夜勤明けのが丁度浴室から出て来て、
昨夜からぷっつりと切れていた記憶を繋ぐ事が出来た。
1つ緩んだ軍服のボタン・・・。
彼は・・・この中身を見てしまっただろうか・・・。
私が誰にも打ち明けられずにいた・・・この想いを・・・。
「何も・・・聞かないのね・・・。」
彼女がポツリと呟いた。
「ロケットの中身・・・見たんでしょう?」
「・・・見てないよ・・・。」
本当は見たいと思った・・・。
もしかしたらこの中身が彼女の笑顔を縛っている理由なのかも知れない・・・。
俺の心の中でそう感じた・・・。
でも、もう分かっていたんだ・・・。
その中身が何なのか・・・。
俺は・・・胸が締め付けられる様に苦しくなって部屋を出た・・・。
「君が俺に向かって知ってる奴の名前を呼んだのには驚いたけど・・・。」
「・・・っ!!」
彼女の肩がビクッと跳ねたのが分かった・・・。
でも俺は続けた・・・。
「君とラスティは・・・どんな関係だった・・・?アイツには・・・婚約者が居た筈だ・・・。」
「私とラスティが知り合ったのは・・・ちょうど1年くらい前よ。」
そう・・・
別のアカデミーへ通っていた私達は、ある訓練でラスティ達の通うアカデミーへ行った。
そこで・・・ラスティと出逢った・・・。
今までに感じた事のない想い・・・。
ラスティも私に同じ想いを抱いてくれて、私達は・・・恋に落ちた・・・。
「彼に婚約者が居た事は知っていたわ・・・。御両親の立場上、断れない相手だって事も知ってた・・・。」
それでも・・・私の彼に対する想いは譲れなくて・・・
それは彼も同じで・・・。
私達は人目を盗んで会い、気持ちを通わせ合っていた・・・。
「彼が先に卒業して前線に出て・・・私もすぐに追い付くから・・・って言ったの・・・。」
・・・でも・・・
クルーゼ隊へと配属になった彼・・・。
任務で向かった中立国、オーブの資源衛星ヘリオポリス・・・。
そこで彼は・・・
帰らぬ人となった・・・。
2度と戻らなかった・・・
私の初めて愛した人・・・。
所詮は秘密の関係・・・。
公には別の女性の婚約者・・・。
同情を向けられたのはその女性で・・・
それはまるで・・・悲劇のヒロインのようで・・・。
私は人知れず泣く事しか出来なかった・・・。
誰にも言えない・・・縋る事も出来ない・・・。
悲劇のヒロインになりたかった訳じゃない・・・
皆に認めてもらいたかった訳じゃない・・・
ただ・・・
無事に戻って・・・抱き締めて欲しかっただけなの・・・。
「の・・・事だったんだな・・・。」
「・・・え?」
納得したようにアスランが口を開いた・・・。
「何の・・・事?」
「その作戦の前日、ラスティが俺に言ったんだ・・・。この任務を終えてプラントに戻ったらプロポーズするんだ・・・って。
婚約者なのにか?って聞いたら、黙って微笑んだだけだった・・・。
その相手は・・・だったんだな・・・。ようやく解ったよ・・・。」
・・・ラスティが・・・
私にプロポーズするつもり・・・だった・・・?
婚約者ではなくて・・・
私を選んでくれるつもりだった・・・の?
突如、頬を伝う暖かい感覚・・・。
これは・・・涙・・・?
「・・・っ・・・ラスティ・・・」
止まらない・・・
止められない・・・
私は彼を失って初めて、人前で泣いた・・・。
どうして逝ってしまったの?
待っていたの・・・
笑顔で戻って来る事を・・・
私を・・・
力一杯抱き締めてくれる事を・・・
「・・・・・・」
「アス・・・ラン・・・」
彼は何も言わずに、私をそっと抱き締めた。
温かい・・・
何も・・・考えられない・・・
ラスティにこうしてもらう夢を・・・何度も見た・・・。
もう2度と叶わない夢なのに・・・。
だから・・・
少しだけ・・・このままでいさせて・・・?
私は彼に見を委ねて涙を流し続けた・・・。
あれからどれくらい時間が経っただろう。
小刻みに震えていた彼女の体は落ち着きを取り戻しつつあった・・・。
かつての同僚が愛した女性・・・。
失った苦しみを・・・
ずっと独りで抱えていたなんて・・・。
こんな小さな体で・・・。
もう・・・を苦しめたくない・・・。
その時、俺の中で何かが弾けた・・・。
の笑顔が見たい・・・
を苦しめたくない・・・
俺がを・・・
守りたい・・・。
この気持ちは・・・
こんな気持ち・・・婚約者のラクスにさえ、抱いた事がなかった・・・。
「ごめん・・・もう、大丈夫」
泣き腫らした瞳では俺の胸を押した。
その痛々しい表情に胸が締め付けられる。
俺はもう一度、の体を自分の胸に寄せた。
「アス・・・ラン?」
「・・・好きだ。」
「・・・え?」
アスランからの突然の告白・・・。
この人は・・・何を言っているの・・・?
他の男性を想って泣く私を抱き締め、
私を「好き」・・・と言う。
私を・・・好き?
アスランは・・・何も聞かなかった・・・。
ただ黙って側に居て・・・
何も言わずにただ微笑むだけ・・・。
でも・・・そんな彼の行動が私の気持ちを軽くした・・・。
不思議な人・・・。
私の冷え切った心・・・
アスランなら・・・温めてくれるかも知れない・・・。
そう思った時、
私は、この人を初めて・・・
心から愛しいと思った・・・。
『好きだ。』
確かに俺はそう言った・・・。
彼女は俺の腕の中で動かない・・・。
俺の言葉の意味を考えているのだろうか・・・?
軽蔑されただろうか・・・
こんな時に言う俺を、卑怯だと思った・・・?
そんな事を考えていたら・・・
の宙に舞っていた腕が、俺の背中に回された・・・。
力一杯、俺を抱き返してくれるに愛しさが込み上げる。
これが・・・答えだと思っていいの・・・か?
「プラントに戻ったら父上に婚約破棄を申し入れるから・・・。」
その言葉にが顔を見上げる・・・。
潤んだ瞳で俺を見つめる・・・。
彼女はきっと、ラスティと俺の立場を重ねてしまう・・・。
きっと、ラクスの存在がを不安にする・・・・。
そんなのは・・・嫌だ。
「だから、そうしたら・・・の気持ちを聞かせて欲しいんだ・・・。」
の瞳を見つめて、俺はハッキリと言った。
俺の言葉に、の瞳から涙が溢れる・・・。
「好き・・・私も・・・アスランが・・・好き。」
彼女の言葉に俺は耳を疑った・・・。
「・・・本当・・・に?」
信じられない・・・
そんな表情で私に問うアスラン・・・。
「アスランこそ・・・こんな私で・・・いいの?」
「がいいんだ・・・。」
その言葉にまた涙が溢れて・・・
自然と微笑む私が居た・・・。
「の笑顔・・・初めて見た・・・。」
アスランが目元を細めて笑う・・・。
「ありがとう・・・。」
そう言ってアスランは自分の唇を私の額に乗せた・・・。
その行為に、静かに目を閉じる・・・。
数秒後に重なった唇・・・。
あたたかい・・・
願わくば・・・
私の想いが・・・
アスランの想いが・・・
永遠のものとなりますように・・・。
そう願いながら…。
【あとがき】
何かもう、勢いで書いてしまった・・・という感じです。
ラストをまとめるのがどうも苦手で・・・。
ラスティを誰かの昔の恋人にしようと思ってたんですよ。
そしたら必然的にアスランになってしまいました。
同室だし、何か一番仲良さそうな気がしたしなぁ・・・と。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
とりあえず、アスラン編はこれで終わりです。
次はイザーク編に突入予定です。
よろしかったらイザーク編も読んで下さいね♪
感想なんかもいただけると嬉しい限りです♪
2004.12.24 梨惟菜