「またここに居たのか…。」




彼女は読書を止め、チラッと視線を上げたが、すぐにまた本へと目を伏せた。






「何か用?」




彼女は表情一つ変えずに俺に問う。






「いや…俺もこの場所が好きで良く来るんだ。」



「…そう…。」










笑顔が見たくて

  前編





















彼女はいつも同じ場所に腰掛けている。



休憩になると必ず…だ。








宇宙が見渡せるデッキは何箇所かあったが、ここが一番程好い広さで…


ここが俺の一番のお気に入りの場所だった。







「じゃあ、俺は部屋に戻るよ。」



数分して、ようやく口を開くと、返って来た返事はたった一つ。




「そう…。」



ただ…それだけ…



















彼女は…は俺が今一番気になっている存在だ。




整った顔立ち…静かな瞳…




すれ違う誰もが振り返ってしまいそうな美しい容姿…





けれど、知り合って1ヶ月。



未だに見た事が無い、彼女の笑顔。



いつも1人で過ごす



どうしたら…君は笑ってくれるのだろう…




それだけが知りたくて…ほとんど返事が返って来ないと分かっていながらあの場所に通う俺が居た。



















アスラン・ザラ…




プラント最高評議会議長の1人息子。



4人の赤の中でトップの実力を持つ男…。




柔らかそうな濃紺の髪…


何でも見透かしてしまいそうな深い緑の瞳…




毎日必ず、この場所に来ては何も言わずに去って行く。



不思議な人…



それ以外に、彼を言い表す言葉が浮かんで来ない。
















、貴様は毎日どこで何をしている?」




何も言わないアスランに対し、しつこく問い詰めるイザーク。



サラサラとした銀髪に青色の冷たい瞳…。


綺麗な顔立ちにも関わらず、額から右の頬にかけて横切る、不釣合いな大きい傷。




もっとクールな人なんだと…そんな印象を持っていた。



けれど実際は怒りっぽく、女相手でも平気で怒鳴りつける失礼な男。




正直…苦手なタイプだった。










「休憩時間くらい、放っておいてくれない?何をしようと私の勝手でしょう?」




「…っ…少しは皆に合わせようという気は無いのか!?」





「あら意外…あなたの口からそんなセリフが聞けるとは思わなかったわ。」




「何だと!?」





















「イザークってさ…の事、好きなのかな?」




「…だとしたら、もの凄くひねくれた愛情表現ね。」




下らない…。



明日死ぬかもしれない…そんな状況に置かれても尚、恋をしたいと言う



そんな気持ちになれない自分は…寂しい人間?



そう思う時もあるけれど…宇宙に居るといつもに増してマイナス思考になる。






人の命なんて…戦場では儚いもの。



一瞬で消えてしまう…ちっぽけな存在。




それが戦争…



私達がしている事は、命の奪い合い…
















〜!!」




休憩時間…


いつもの様にデッキで読書でもしようと歩いていたら、に声を掛けられた。





「何?」




「クルーゼ隊長からチョコ貰ったの。ラウンジでお茶しない?」




の手には大きな箱…



「悪いけど私は…」



そう…断りの言葉を述べようとした時だった…




「たまにはこういう時間の過ごし方も悪くないんじゃないか?」




振り返るとそこにはアスランの姿…





「じゃあ…少しだけ…」




何故…そんな気持ちになったのたのかは分からない。



アスランを見ていると…不思議な気分になる…。




















「はい、どうぞ。」



「…ありがとう…。」




がコーヒーの入ったカップを手渡す。



気の利くは皆の好みを把握しているらしく、それぞれに異なる飲み物を用意していた。



皆は普段…こんな過ごし方をしてるんだ…。








「さ、食べよ。」



嬉しそうに箱を開く…。



開かれた箱の中から、甘い匂いが広がった。









一つ手に取り、口の中に放り込む。





…苦…っ…




味は匂いほど甘くは無く、苦味が口の中に溶け込んでいく。






「ふぅ…」




不意に出た溜め息に合わせ、外の景色へと視線を移す。



その先に広がるのは、無限に広がる真っ黒な空間…。



時折、星が流れて行く様子が見えた…。




















「「待てイザーク!食べるな!!」




ディアッカと俺はほぼ同時に叫んだ。



…が、一歩遅かった。



イザークが手に取ったチョコは一口でイザークの口の中へと入った。



まさか甘い物が苦手なイザークが食べるとは思っていなかった。




「あ〜あ…」



ディアッカが頭を抱え込む。




「何?どうかしたの?」



状況の飲み込めていない女性陣…。




「コレ…ブランデー入ってただろ?」




「イザーク、酒、ダメなんだよ…。」




「え?だって…少ししか入ってないじゃない…。」



確かに微量…



「飲酒」と呼べる域ではないけれど…



「この量でもダメなんだよ。すぐに…」






ガタッ…







「…な?」




イザークはテーブルに伏せ、寝息を立て始めていた。


信じられないけれど…面白いくらいに良く眠るのだ。







「あ〜あ。結局こうなる訳ね…。」



面倒臭そうに立ち上がったディアッカはイザークを担ぐ。




「やだ…もうこんな時間…」




「そっか…今日の夜勤は僕とでしたね。」




3人が立ち上がり、襟元を締める。







「じゃ、部屋に戻ろうか…。」





に声を掛けたが、彼女からの返事は無い。






「……?」





「マジ…?」





ここにももう1人…





は肘を付いて外を向いたまま、静かに寝息を立てていた。


頬はほんのりと桜色に染まっている。









「…仕方ないな…。」




「アスラン?」




…部屋まで送って行くよ。」





ディアッカはイザークを連れて部屋に戻ったし、ニコルはこれから夜勤。



さすがに女の子のに任せるのも気が引ける。




俺はそっと、を抱き上げた。





フワリ…と、の体は簡単に持ち上がる。




















「入るぞ?」



眠っているに、一応了解を得るように声を掛けた。



案の定、返事はないけれど…。



仕方なく、部屋の扉を開く。







部屋に明かりを灯すと、2つのベッドが視界に入った。




のベッドはすぐに分かった。



ベッド脇の棚には本が沢山並んでいて…いかにも彼女らしい雰囲気。






同室のの机には写真立てが沢山並んでいる。




アカデミー時代の写真…。




そう言えば…達は同じアカデミー出身だったな。



昔から仲が良かったのか…。







その写真の中に居るが…俺を驚かせた。




写真の中のは…笑っていた…。




普段、伏し目がちの彼女は無く、目を細めて柔らかく微笑んでいる。




こんな彼女は…初めてだ…











をベッドに寝かせる。



軍服のままだと苦しいとは思うけれど…脱がせる訳にもいかない…。





「…ごめん…」






一言詫びて…上着の一番上のボタンだけ外した。





「ん…っ…」




締められていた首が開放され、の表情が少し和らぐ。





その時だった…




俺の目の前に…銀色の何かが舞う。




「ロケット…?」




の首に掛けられた…銀色のペンダント…




明かりに反射してキラリ…と光るそれに目を奪われた瞬間…



の細い腕が俺を捉えた。





「!?」






一瞬…何が起こったのか分からなかった…。







「…っ…ラス…ティ…っ…」






自分も良く知る人物の名…



それと共に、の瞳から零れた涙が宙を舞う。






身動きが取れないまま…


縋る様に呟くをただ…見つめる事しか出来なかった。














【あとがき】


まずはアスラン編です。
1話でまとめようと思ったのですが、
思ったより長くなってしまったので続きます。
次で終わる予定です。

イザークがお酒弱いという設定・・・。
私の中でちょっと書いてみたかったので眠らせてみました♪
本当は強いんだろうなぁ・・・と思うんですけどね。

ではでは、よろしければ続きも読んでくださいね♪


2004.12.24 梨惟菜











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