君が望む暁
PHASE−07 憧れの眼差し
長く伸びたピンク色の髪…
フワフワと漂う甘い香り…
彼と同じ…コーディネイターの少女。
私とはかけ離れた、妖精のようなそのお姫様が眩しく映って…
逆に自分がちっぽけな存在に思えて…
何だか無性に泣きたくなった。
「嫌よ!何で私がコーディネイターの子なんかの所に行かなくちゃいけないの!?」
食堂で揉めているのは、ヘリオポリスの学生達だった。
輪の中心に居るのはフレイとミリアリア。
それを宥める様に仲裁に入るサイとトール。
そして、心配そうに様子を伺うのがカズイ。
その中にキラは居なかった。
「…どうしたの?」
「あ…!聞いてよ!」
助けを求めるかのように、フレイが私の元に駆け寄ってきた。
「ミリアリアってば、あのコーディネイターの子の所に食事を持って行けって言うのよ!?」
揉め事の原因となっているのは、キラが救助した1隻の救命ポッド。
その中から現れた、コーディネイターの少女、ラクス・クライン嬢の事だった。
コーディネイターを忌み嫌うフレイにとって、彼女と接触するなどという行為は決して受け入れられないのだろう。
それでもキラに対しては普通に接する事が出来る。
それは、今まで彼の事をナチュラルだと思い込んでいたからだそうだ。
2人がそこまで親しい関係でなかった事に安堵していた自分が恥ずかしく思えた。
「ミリアリアが行けばいいじゃない。私は関係無いわよ!」
「フレイ!」
なかなか収まる事のない口論…
「相手はコーディネイターなのよ!?何されるか分からないじゃない!」
「だからって…いきなり襲い掛かってきたり…なんて事は無いと思うけど?」
何故、そこまでコーディネイターを嫌うのか…
そう問い掛けたかったけれど、軍人の私がそんな事を聞ける筈も無い。
きっと逆に問い返されてしまうから。
『じゃあどうして…私はコーディネイターと戦ってるの…?』
「元気…無いね。」
「え…?」
足音の無い宇宙空間では人が背後から近付く気配が感じ取れなくて…
気が付けば、背後にはキラが佇んでいた。
「隣…いいかな?」
「う…ん。」
キラの持つ、柔らかな空気が2人だけの空間を包む。
彼の空気は穏やかなのに…どことなく息苦しく感じられて…。
その理由が今の自分には分からない。
「…大丈夫…?」
先に口を開いたのは私…
沈黙が続くのは耐えられなくて…
キラの事が心配で…
「食堂での事…」
「あぁ…僕は大丈夫だよ…気にしないで。」
キラは笑顔を向けてくれたけど…その笑顔が痛々しく感じられた。
「…何で…笑えるの?」
「え?」
「何か…キラの笑顔ってね…無理してるように見えるの。」
その笑顔が…他人のように思えなくて…
自分にも覚えのある作り笑顔みたいで…
重なるの。
頑張って…頑張って…
負けないように…って、一生懸命笑ってる自分に。
自分と重なって見えて…私まで苦しくなって…
「僕は…」
「…似てるね。私とキラって。」
いつも誰かの顔色を伺って…悟られないように笑って強がって…
だから…誰も気付かないんだよ…。
「似てる…かな?」
「似てる。不器用な所とか。」
「…そっか…」
甘えたいのに甘えられなくて…
泣きたいのに泣けなくて…
叫びたいのに叫べない…
「ラクスさんに会って…自分と違うな…って実感させられちゃった。」
自分には無いものを彼女は持っていて…
そんな女の子は沢山見て来たけれど、彼女は特別に輝いて見えた。
不器用…か…
の言った事は正しいよ。
僕は不器用なんだ。
自分の事、なかなか人に伝えられなくて…伝わらなくて…
心配を掛けない様に、一生懸命に平然を装って…。
だからかな?
君を見た時…今までに出逢った人とは違う何かを感じたのは…。
でも…君は話してくれた。
自分の抱えてる想い…生い立ち…
そして、僕の事を一生懸命に気遣ってくれた。
初めてだった。
あんな風に柔らかく微笑んでくれた子は…。
「は…気にならない?」
「え?」
「僕がコーディネイターだって事、気にならない?」
どうしても気になってしまうのは、これが地球軍の戦艦だから。
コーディネイターと戦う艦だから…。
その艦に乗っている彼女がどう思っているのか、知りたかったから。
でも…彼女は柔らかく微笑んだ。
初めて笑ってくれたあの時のように…。
「ならないよ。キラはキラだもん。」
「…」
「でも…私もコーディネイターだったら…キラの気持ちが分かるのにな…って思った。」
その笑顔はすぐに哀しみを帯びた瞳に変わり…
彼女は静かにデッキを出て行ってしまった。
僕は…君がナチュラルで良かったよ…
君がコーディネイターだったら…ここで出逢う事も無かったから。
君と出逢う事も無いまま、僕はここで1人で戦わなくちゃいけなかったから。
君が居るから…居てくれるから…戦えるんだ。
この気持ちを…どう表現したらいいか分からないけれど、君には感謝してる。
そう…言葉で伝えられたらいいのに。
「キラ…」
部屋に戻ったは、胸を押さえながら扉の前に座り込む。
胸の高鳴りと…息苦しさが同時に押し寄せる。
キラの声を聞く度に…笑顔を見る度に…
この胸は大きく跳ねて、鼓動を速める。
気付いたの…
これが、『愛する』って事なんだって。
誰かを特別に想う事なんだって…。
今までに感じた事の無い想い。
キラだから…
キラじゃないと…
でも…私の気持ちはきっと届かない。
フレイやラクスさんを目の前にしたら、私の存在なんてきっと霞んでしまう。
フレイみたいに可愛い訳でもない。
ラクスさんみたいに穏やかな雰囲気も持ってない。
ただ…戦争をする為に与えられた知識と力しか持って無い。
それさえ劣っていて…
キラに釣り合う筈なんて無い。
届かない想いなら気付きたくなんてなかったのに、どうして気付いてしまったんだろう。
【あとがき】
ヒロインやキラの心理描写を重視したいが為に、本編の内容を大幅に削ってます。
こんなんでいいんだろうか…と思いつつ。
出来れば一気に話を飛ばしたい勢いなんですけど、所々に入れたい描写とかあったり…
改めて本編沿いって難しいです。
歌姫は割りとスムーズに書けたんですけどね。
キラに関しては女性絡みが多々あるから…ヒロインが苦労するんですよ。
そんな感じで…更新がのんびりペースです。
2005.9.7 梨惟菜