君が望む暁

 PHASE−06 閃光の先に見えるもの
























「何なの!?これは…!!」



無事に入港の許可が下りたアルテミスで起こった、最初の事件。



艦内へと入って来た軍人達は、私達に銃口を向けた。





「士官の方々は我々と共に来て頂きましょう。残りのクルーは食堂に集めろ。」




1人の士官が指示を出し、その他の軍人はそれに従う。





アークエンジェルの中で士官に当たるのは、艦長、姉様とフラガ大尉。



「さぁ、残りのクルー全員を食堂に集めろ。」


士官と視線を合わせてしまった私はその命令を受けるしかなく…



『艦内クルー全員は至急食堂へ…。』



艦内にアナウンスは響き渡った。





















…」



遅れて食堂に入ると、不安そうな表情でミリアリアが視線を送った。」



クルーだけなら少ないこの艦内には今、ヘリオポリスの避難民も居る。



その為、食堂の人口密度は思った以上に高かった。



入り口には武装した軍人…。




「どうしてこんな事になってるの?アルテミスは友軍じゃなかったの?」



「確かにそうだけどさ…この艦、識別コード持ってないからなぁ…」



「それってそんなに大事なんですか?」



「当たり前だろ…。」




コソコソと…小さな声でノイマンさんとサイが話していた。



そう…極秘裏に開発されたこのアークエンジェルはまだ公式発表されてはいない。



しかし、発表されれば今後の戦局の鍵を握る重要な戦艦。



ユーラシアもこの艦のデータが喉から手が出る程に欲しがっているに違いない。



それと…ストライクも…。



食堂の隅で不安そうに座るキラを見つけ、そこへと近付いた。







「キラ…大丈夫?」



「あ…うん。」



の顔を見て安堵したのか…キラはフワリと微笑んだ。




「何か…大変な事になっちゃったね。」



ここへ来れば安全は保障されると思っていたのにな…。



同じ地球軍なのに…何でこんな扱いを受けなくちゃいけないんだろう。




















「この艦に積んであるモビルスーツのパイロットと技術者はどこだ?」





あれから数時間が経過した。



アルテミスへと入った艦長達は未だに戻って来ず…代わりにこの基地の司令官を名乗る男が現れた。





「あ…」




自分の事だと…キラが立ち上がろうとしたそれを隣に居たマードック軍曹が抑えた。




「何故…我々に聞くんです?艦長達が言わなかったからですか?

 ストライクを…どうするおつもりなんですか?」




この扱いに納得のいかないノイマンは、反抗するかのように返した。





「別にどうもしないさ。ただ折角の機会だからな…公式発表の前にそれを見せてもらいたくてね…。」




パイロットはどこだ…?



怯む事無く、質問を続ける。




このままじゃキラが…




『大尉に言われたんだ…ロック掛けとけって…』


小さな声でキラが囁いた。



つまり…キラが名乗り出なければストライクは安全と言う事…




「フラガ大尉ですよ。お聞きになりたい事があるなら大尉にお願いします。」



「…先程の戦闘は我々も見ているよ。あの”ゼロ”を扱えるのは彼しかいないだろう?」






そう…


メビウスの中でも特殊な装備を施した”ゼロ”は大尉の専用機。


彼が”エンデュミオンの鷹”の称号を得るきっかけとなった機体でもある…。


だから、あの機体は連合の中でも有名な物。




司令官は食堂を見回した。


視線の先に、ピンク色の軍服を身に纏った少女が止まる。





「え…?きゃ…!」





それはミリアリアで…腕を掴まれた彼女は小さな悲鳴を上げた。




「…ミリアリア!!」



「まさか女性がパイロットとは思えんが…この艦の艦長も女性だからな…。」



それは…明らかに私達を挑発した態度…




「止めてくだ…」


「止めてください!あれに乗っているのは僕です!」



制裁に入ろうとした私の腕を押さえ立ち上がったのはキラだった。




「キラ…っ…」




「何を…お前のような坊主に扱える代物ではないだろう?」




やはり…


誰でもそう思うに決まっている。



キラが…コーディネイターと知らないから…。


まさか連合のモビルスーツにコーディネイターが乗っているなんて思わないから…。





突如、キラに殴りかかって来た司令官を彼はサラリとかわす。


キラにとって、この程度の攻撃は何でもない事。




「止めてください!」




一瞬にして緊迫する食堂内に、フレイの声が響いた。




「止めてよ!その子の言ってる事は本当よ!キラはコーディネイターだもの!」


「…フレイ…っ!!何て事を…!!」




大声を上げるフレイに、サイが駆け寄る。





「コーディ…ネイター…?」







「…キラ…っ…」



1人…食堂から出されるキラを追う様に、は名を呼ぶ。




「大丈夫…心配しないで…」


優しく微笑んだキラはに背を向け…食堂を後にした。









「何であんな事言ったんだよ。」


サイがフレイを責めるように問い掛けた。



「だって…キラは私達の為に戦ってくれてるんだもの…問題無いじゃない。」



決して…悪意があった訳では無い。



それは十分に分かっているけれど…


「でも…私達が戦っている相手はコーディネイターなのよ…。」




例え…キラが敵では無くても…


彼がコーディネイターであるという事で、どんな扱いを受けるか分からない。


誰もが敵では無い事も分かっている。



でも、世の中の人全てがそう思っている訳では無いから…。




















ゴゴゴゴ…



何かの衝撃で…アークエンジェルが僅かに揺れるのを感じた。




「何…?」



安全な”傘”に守られているこの要塞は難攻不落なものとして有名。



だからこそ、こうしてのんびりと構える事が出来る。



その要塞に響く…微かな轟音…





「おい…ザフトに攻撃されてるんじゃないのか?」



居ても経っても居られなくなったノイマンは、目の前の兵士に声を掛けた。



「そんな筈が無いだろう?ここを何処だと思ってるんだ?」




あの”アルテミス”だぞ?



余裕の表情で、兵士は笑う。




「コレは…間違い無く攻撃よ…」



しかも…段々と音は近くなっている…。



要塞の周辺にナスカ級が停泊して様子を見ているのは分かっている。


ザフトだって馬鹿じゃない…。



何かの策を用意して…それが成功して攻撃を始めていると考えてもおかしくは無い。





「アルテミスが絶対安全だって保証はどこにも無いんだよ!!」




最早、迷っている余地は無いと判断したのはブリッジクルー達。



ノイマンを先頭に、クルーは兵士をなぎ倒し食堂を飛び出した。





!艦長達が戻って来るまでに発進の準備を終わらせるぞ!」



「…はい!」




本当は、格納庫へ走りたかった…。



キラが心配で…一目だけでも顔が見れたら…と。




でも、私は軍人だから…


この艦を…この艦に乗る人を守る義務があるから…




キラならきっと大丈夫…




ノイマンさんの背を追い、ブリッジへと駆け出した。




















「発進準備完了!いつでも出れます!」



「ありがとう!アークエンジェル、発進します!!」



準備が整ってすぐ、艦長達が艦内へと戻って来た。





「どうなってるんですか!?」



「ザフトの侵入を許しちまってる。早く脱出しないと巻き込まれるぞ。」



モニターに映し出された映像には、デュエル、バスター、ブリッツの映像。






『艦長!出ます!』



切り替わったモニターに、キラの姿が映った。



「えぇ、お願いね!」




キラが無事だった事に自然と笑みが零れた。







起動したアークエンジェルは、攻撃を受けながらもアルテミスの港をゆっくりと離脱する。



ストライクの援護と、爆発の混乱で何とか3機から逃れる事に成功した。





陥落してゆく…難攻不落と言われた要塞…。




暗い宇宙に広がる閃光が、私達の心に悲しみの光を灯した。




















【あとがき】

アルテミス…脱出しました。

この辺戦闘ばっか。

何かゴタゴタしてて…キラと話す余裕も無いって言うか…(汗)

そろそろフレイも壊れちゃうし…。

これからヒロインには度重なる不幸が襲うのでしょうか…。

(相変わらずアバウトな管理人…)








2005.8.9 梨惟菜












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