君が望む暁

 PHASEー05 心





















「大尉…」




無事に危機を乗り切ったアークエンジェルのブリッジは後処理で慌しく動いていた。




その処理をいち早く済ませた私は格納庫へと走る。




何故…この胸の鼓動が高鳴るのかを知りたくて…。



キラに会えば、何か分かるんじゃないかと思って…。






戦闘は終わったけれど、キラが受けた傷はきっと大きい…。


外傷じゃなくて…きっと…心に傷を負ってる…。




そんな気がして…彼の事が心配で…。











「行ってやれ。結構堪えたみたいだからな…。」




すれ違いながら、ポン…と軽く叩かれた肩。




「大尉、お疲れ様でした!」



振り返りそう叫ぶと、彼は背を向けたまま、片手を大きく上げた。




















「キラ!!」





あまり聞き覚えの無い声が自分の名を呼ぶ。



不意に声の主へと体を反転させると、その先には先日知り合ったばかりの少女の姿。



心配そうな表情でこちらへと寄って来る。






「えっと…お疲れ…様。」



「あ…うん…。」




急いで来てみたものの、ぎこちない空気が互いの間に流れる。



まだ知り合って間もない2人は、話をどう展開させたらいいか分からなくて…。






「「あの…」」



2人が同時に同じ言葉を綴った瞬間、互いは視線を合わせて笑みを零した。




















「はい。」



「ありがとう。」




食堂から貰って来たドリンクを手渡すと、キラは笑顔でそれを受け取る。





「ビックリ…したよね?」



「え?」



「だってホラ…私、キラとはほとんど話した事も無いし。」



「あ…うん。でも…嬉しかったよ。」



「嬉しかった…?」



「うん。戻って来て…『お疲れ様』って言ってくれて…。」





そのキラの笑顔に…またトクン…と胸が鳴った。





「本当は…戦いたくなんてないから…」




「そう…だよね…。」




それでも、友達を…この艦を守る為に戦ってくれた事が嬉しくて…。


自分もキラの為に何かしたくて…。



でも…こうして声を掛ける事が精一杯で…。


やっぱり情けない…。








「本当は…一番最初に『ありがとう』って言いたかったの。」



誰よりも早く、言いたかったの…。



その言葉の意味を考えようとしていたキラに続けて告げる。






「キラが…戦ってくれなかったら、皆死んじゃってた。

 キラは戦いたくない…って…そう言ってたのに戦ってくれた。それが…私も嬉しかったの。」




「そんな…僕は…」




「私は弱くて小さな人間で…誰かの為に戦う事も出来なくて…」



自分が何の為にここに居るのかさえも分からなくて…。



「本当は軍人なんて柄でもないのに…何でこんな所に居るんだろう…。」



「…どうして…軍に志願なんてしたの?」





出会った時から不思議だった。



おっとりとしていて…正直、軍人らしさを感じなくて…。



なのにどうして、こんな所に居るのか…と。








「自分から志願したんじゃないの。それが…家の掟みたいなものだから…。」



笑顔で…


彼女は笑顔でそう返した。



けれど瞳は寂しそうで…悲しそうで…。



隣に居る自分まで悲しくなってしまいそうな…そんな雰囲気を感じた。









「軍人家系でね…こうして軍人になるのが当たり前…って家なの。」






自分と同い年の子がごく普通にして来た事をさせて貰えなくて…


学校に通う事さえさせて貰えなくて…




与えられるのは、軍人になる為に必要な知識…能力…


小さい頃からそればかりを叩き込まれて育った。





「ヘリオポリスでキラ達を見た時ね、凄く輝いて見えたの。」



自分が持っていない物をごく普通に持っていて…


当たり前のように、友達と笑い合っていて…




「友達なんて1人も居ないから…ちょっと悲しくなっちゃった…。」





早くから軍の養成学校に入れられて、厳しい訓練を受けて…



決して成績は悪くなかった。


知識も能力も、平均以上だと思うし、自分なりに一生懸命頑張った。








「私がどんなに頑張ってもね、誰も褒めてくれないの。」




「誰も…?」




「姉様が…優秀な方だから、出来て当たり前なんだって。」




初めてクラスでトップの成績を取った時に両親の口から出た言葉は…



『ナタルがお前と同い年の頃にはこれくらいは簡単に取っていたぞ』






あぁ…


私は姉様よりも凄い成績を出さないと…認めては貰えないのだ…と悟った。







「でも、いくら頑張っても姉様には敵わないの。」



家でも養成学校でも…軍へ入ってからも…。



『ナタル・バジルールの妹』としてしか見て貰えなくて…。





「この艦に配属されたのも、バジルール家の人間だから…なんだよ。」








寂しそうに語る彼女から目が離せなかった。








「あ…ごめんね。何か関係無い話に発展しちゃったね。」





俯いていた彼女は、パッと顔を上げる。




「でも、聞いて貰ったらちょっとスッキリしちゃった。」



でも…やっぱり瞳は悲しそうだよ…。




そう言いたかったけれど、言えなかった。




「もうすぐアルテミスに着くと思うから…それまでしっかり休んでね。」




背を向ける彼女に何か声を掛けてあげたくて…


でも…言葉が浮かんで来ない…






…っ!」







名前だけをその背に叫ぶと、彼女はフワリと振り返った。





宙に舞う…彼女の漆黒の髪…




振り返った彼女の顔は、さっきまでとは別人だった。





「初めて名前、呼んでくれたね。」




目を細めて笑う彼女が輝いて見えて…



それ以上、言葉が続かない…。




「ありがとう。キラ。」



「僕の方こそ…ありがとう。」




手を振り、笑顔で去る彼女の姿が見えなくなるまで…見送った。
















お礼を言いたいのは…僕の方だ。




あの小さな体で背負う、自分の家の名…。



姉に対するコンプレックス…。




逃げ出したいだろうに…


それでも軍の制服を纏う彼女は一生懸命で…。




戦いたくないと…そう言ったけれど、守れて良かった。



必死に生きる彼女を守る事が出来て良かった…。







1人になったデッキで…キラは広がる暗闇へと視線を落とした。












【あとがき】

ようやく更新出来ましたね…。

実は5話を書いている途中でPCが固まりまして…。

書いてたの全滅…(-ω-`)

軽くショックを受けていた為、更新が遅くなりました。

早くヒロインとキラを絡ませたかったので戦闘省いてみたり…

まったりペース過ぎてすみません。







2005.7.29 梨惟菜











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