君が望む暁

 PHASE−04 恋心




















「え…?キラが…?」


「そ、外でヘリオポリスの救命ポッドを拾って来たんだと。」



偶然、廊下で出会ったフラガ大尉が困った表情で私に告げる。




「でも…そのポッドは遭難していたのでしょう?」


ならば…彼の取った行動は何も間違った事では無い…と。


彼は軍人では無い。


まして、自分が生活していたコロニーの救命ポッド。


もしかしたら…連絡の途絶えていた彼らの知り合いが乗っているのかもしれないし…。





「ちょっと…格納庫に行って来ます。」
















ストライクの収容されている格納庫に入ると、機体から外へと飛び出したキラの姿。


パイロットスーツは着ていない。


私服姿のまま、彼は心配そうな表情でそのポッドへと向かう。




私の姿には気付いていないみたい…。





ポッドから飛び出して来た難民達…。


ようやく狭い空間から開放されたものの、ここが何処なのか分からず、不安の表情を浮かべる人ばかり。






「あ…」


出て来たピンク色のワンピース姿の少女に、キラが声を上げる。



「あ…あなた…サイの…っ」



私にも見覚えがあった。


キラと出逢ったあの時…同じポートに居た少女…。


話題の中心にいた赤い髪の少女は、いかにもお嬢様…といった雰囲気で…



その少女もキラの姿を確認すると、無重力の空間を漂いながら彼へ手を伸ばす。


その手を取り合った瞬間…彼女がキラへともたれ掛かった。







ズキン…




…え…?


急に胸が苦しくなる…


何故…


その理由が分からなくて…



そして次の瞬間、胸が再び痛んだ。




彼女を見て、頬を染めるキラ…




















「サイ…っ!!」



皆の集まる食堂へと少女を連れて行くと、彼女はサイに抱き付いた。


サイも彼女の姿に驚きながらも、その手を彼女の背中へと回す。



恋人同士…なのだろうか…


誰一人、その光景に驚く者は無く…


恐らくは誰もが知っている仲なのだろう。



チラリ…と横目でキラを見ると、彼だけが悲しそうな…寂しそうな表情で微笑む。






キラは…


彼女の事が…好き…?







ズキン…


また…


この痛みは何…?




苦しいような…悲しいような…切ないような…










「フレイです。フレイ・アルスター。初めまして。」



ニッコリと微笑み、手を差し出す彼女。



「アルスター?もしかして…アルスター事務次官の…?」


「あ…はい。そうです。」



「初めまして。・バジルール曹長であります。」


彼女の握手に応じた私は、相応の態度で挨拶を返す。


アルスター事務次官と言えば…大西洋連邦でも有名な方。


直接お会いした事はないけれど…一人娘をとても大事にしているという話は有名で…。



彼女がその…一人娘だったとは…。












「よ!こんな所に居たのか…」



「フラガ大尉…」


「そろそろ交代の時間だろ?姉さんに叱られるぜ?」


「あ…いっけない…」



「坊主も…マードック軍曹から伝言だ。

 『自分の機体くらい、自分で整備しろ…』だと。」


「自分の機体…って…アレは…」


大尉の言葉に、先にブリッジへと向かおうとしていた足を止める。



「そうだろ?アレに乗れるのはお前だけなんだから。」


拳を握り…唇を噛むキラの表情は痛々しくて…



「確かに…他に乗る人間が居なくて…一度目も二度目も僕が乗りました。でも…!」


「軍人じゃないから…乗りたくない…って?」



「大尉!!」


「嬢ちゃんは黙っててくれ。」


「…っ…」




「けどな、現状を考えろ。この艦はザフトに追われていて…この艦を守る為に戦闘に出る事が出来るのは…

 俺とお前だけなんだぜ?分かってるだろ?」


突き付けられた現実に返す言葉が無いキラを、黙って見詰める事しか出来なくて…




「今、自分に出来る事をしろよ。」



最後に、少し優しい声になった大尉は肩を軽く叩くとキラに背を向けた。




「ホラ、俺達も戻らないと…。」


「あ…はい…。」




















ビーッ!!




「大型の熱量感知!戦艦のエンジンと思われます!」


私がシートに着いて暫くしてからの事だった…。



「何!?位置は!?」


「距離200、イエロー3317マーク02チャーリー、進路ゼロシフトゼロ!」


「…同方向へ向かってる!?」




しかし距離は若干ある…

ほぼ平行して同じ方向に向かっているという現状に、一瞬にしてブリッジに緊迫した空気が流れた。




「目標はかなりの高速で移動。横軸で本艦を追い抜きます!

 …艦特定!…ナスカ級です!!」




「ローラシア級は!?」


「え…?あ! 本艦の後方300に進行する熱源…!」


いつの間に…


「やられたな…このままではいずれ、ローラシア級に追い付かれて見つかる。

 かと言って、エンジンを使えばナスカ級があっという間に転針してくる…って訳だ。」


挟まれた…どうすれば…




アルテミスは間もなくだというのに…


この作戦を読まれていて…先に回りこまれていたなんて…




「二艦のデータと宙域図、こっちに出してくれ!」



「大尉…何か策が…?」



「それを今から考えるんだよ!!」


















『敵艦影発見!総員、第一戦闘配備!軍籍にある者は直ちに持ち場へ!』



艦内に鳴り響く警報とアナウンスが、避難民達の不安を煽る。


1ヵ所に集まっていたキラ達もまた、同じ様に不安の表情を見せた。


「また…戦闘?」


不安げに俯くミリアリアの肩を、隣に立つトールが優しく抱く。




『キラ・ヤマトは艦橋へ。繰り返す、キラ・ヤマトは艦橋へ』



そのアナウンスに、キラはグッと拳を握った。







戦いたくない…

けれど…自分が戦わなければ、この艦は…どうなる?



自分が連れて来た難民…


共に拘束された仲間達…




自分が戦えば…

自分が前線に出れば…この人達を守る事が出来る…?




















「よろしくお願いします!!」



緊迫したブリッジに入って来たのは、キラを除く学生達…


「皆…どうして…」


その姿は今までに見た私服姿では無く、一般兵用の軍服…



「自分達も艦の仕事を手伝いたいと…人手も決して足りている訳ではないからな…。」



じゃあ…キラも…



「俺も行くぜ、ここは任せる。」


「はい…大尉も十分お気を付けて…」






この、大尉が切り出した作戦は危険を伴うもので…


キラがストライクで艦を守りつつ戦う間に、大尉のゼロで前方のナスカ級に奇襲攻撃を仕掛ける…。



正直、キラの腕を信頼しなければ為せない作戦。


けれど、こうしなければ先へは進めない…。





「後方より接近する熱源が3!距離67、MSです!」


「対モビルスーツ戦闘用意!ミサイル発射管、13番から24番コリントス装填!

 バリアント両舷起動!目標データ入力急げ!」



的確な姉様の指示で、ブリッジは慌しく動く。


戸惑いながらも、ミリアリア達も作業に専念した。




「機種特定…これは…Xナンバー!デュエル、バスター、ブリッツです!!」



「な…っ…!」



ヘリオポリスで奪取したMS…!?



「奪ったGを全て投入して来たと言うの!?」

















【あとがき】


長くなってしまいました。

戦闘ばかりで話が進まない…

…と言うか、ヒロインとキラが絡まない…(汗)

コレ…夢なのに…うぅ…

フレイちゃん、登場しました〜。

まぁ、いわゆる、ヒロインのライバル役として今後暴れてもらう訳です。

どうなる事やら…はぁ…

では、読んで下さってありがとうございました。







2005.7.6 梨惟菜









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