君が望む暁


PHASE−03 壁
















「あ…あれは!?」



外への脱出に成功したアークエンジェルの目の前では戦闘が繰り広げられていた。


ザフトのシグー1機と交戦しているのはメビウス。


オレンジ色の機体で…連合で量産されている型とは違うみたい…



そして…もう1機のMS…




データで見た…新型5機の内の1機だ…



「X−105…ストライク…?」



1機だけ…?




目の前の戦闘を傍観している内に、被弾したシグーが素早く撤退する。



「とりあえず艦を降りるぞ。何名かは艦内に残れ。」


姉様の冷静な判断は周囲の人間を素早く動かす。


私は姉様に言われ、共に艦の外へ出る事になる。



念の為…与えられた銃の安全装置を解除して内ポケットにしまい込んだ。












「ラミアス大尉!!」


艦を降りるとそこにはオレンジの作業服を身に纏ったラミアス大尉が居た。


彼女は私達の上官に当たる人で…今回はMSの護送に携わっていた。


つまり…この状況を少なからずとも私達よりは把握出来ている筈…



私達の姿に気付いた大尉は笑顔になる。



「バジルール少尉!曹長も…」



「ご無事で何よりでした!」


「あなた達も…アークエンジェルを…。お陰で助かりました。」




互いの無事を確認し合う2人の先に…複数の少年達の姿が目に入った。



あの子…


気になるその集団に近寄ろうとしたその時…






「あ〜…話を邪魔して悪いんだが…」



罰が悪そうに姉様と大尉の間に割り込んだ1人の男性。


ウェーブの掛かった金髪に、紫色のパイロットスーツ…。


傍らにはオレンジ色のメビウス…




「地球軍第7機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ。

 俺の乗ってきた船はザフトに落とされちまってね…乗艦許可を貰いたいんだが、この艦の責任者は?」



「あ…」


そう言われ、ラミアス大尉は姉様に目を向ける。



「…艦長を始め、主だった士官は皆戦死されました。

 よって今はラミアス大尉がその任にあるかと思いますが…。」



「…艦長が!?」


「残念ながら…」



「そう…分かりました。乗艦を許可します。」


「ありがとう。…それと…そっちの彼らは?」




「え…あぁ…彼らはヘリオポリスの学生です。逃げ遅れた所を助けたのですが…

 そのまま解放する訳にも行かない状況だったので、拘束しました。」



少し怯えた目でこちらを見る学生達の人数は5人。


中に女の子が1人…そしてその彼女を守るように寄り添う男の子。






「やっぱり…」


「…え…?」


私は迷わず1人の男の子の元へと向かった。



「あなた…今日、会ったわよね?」


「あ…レンタルエレカポート…で…?」


「そう。やっぱりあの時の…」



間違い無かった…

唯一、印象に残っていた男の子…


彼の方にも覚えがあったらしく、それが勘違いではなかった事に安心する。




「連合の…人だったんですか…」


「あ…うん…。」



同じ紫の瞳に何故か惹き付けられる。

その瞳は少し悲しみを帯びていて…






「へぇ…」


私と彼の間に割って入ったフラガ大尉が興味深そうに彼を見る。


「な…何ですか?」


その行動に彼は驚き、一歩引く。


「君、コーディネイターだろ?」


「…え…?」


その言葉に、周囲に居た人間全員がこちらに注目する。


コーディネイター?

彼が…?



「…はい。」


「やっぱな。アレをナチュラルがそう簡単に動かせる筈が無いからな…」



彼がそれを認めた瞬間、彼に銃口が向けられる。



「ちょ…っ!何を…!?」


慌てて彼の前に立とうとしたその時、私よりも素早く動いた少年が1人居た。



「何なんだよそれ!キラは敵じゃねぇよ!俺達を守ってくれたんだ!何も見てなかったのか!?」



先程まで女の子側に寄り添っていた少年だった。



「銃を下ろしなさい。彼は敵ではないわ。ただの民間人よ。」



少年の抵抗に、ラミアス大尉が銃を下げるよう命じる。



「そう驚く事はないでしょう?ここは中立国のコロニーですもの。」







銃を下ろされ、安堵した少年はキラと呼んだ彼に微笑む。


改めて彼に話し掛けようと思ったその時だった…







『ラミアス大尉!バジルール少尉!至急ブリッジへ!!』



艦内通信が鳴り響く。


『またモビルスーツです!!』



「何ですって!?」


未だ把握し切れていない状況に加えて、再び迫る敵の攻撃。



「指揮を執れ!君が艦長だ!!」



この中に相応しい人物は確かに彼女しか居なく…

ラミアス大尉は困惑しながらも拳を握る。



「分かりました…。総員、至急配置に!バジルール曹長、彼らも中へ!」


「あ…はいっ!!」



「キラ…君。お願い。もう一度ストライクに乗ってくれないかしら…」


「…そんな…!」



「民間人のあなたにお願いするなんて間違ってると思う。けれど、他に乗れる人間は居ないのよ。お願い。」



彼は戸惑いながら俯き…そして友人達に目線を送る。


不安そうに彼を見詰め返す友人…



「…分かりました…」



覚悟を決め、コックピットに乗り込む彼を見送った後、体を反転させた。



「艦内へ!ここは危険だから!」



残った4人の学生の先頭に立ち、足早に艦内へと進んだ。




















「…で?これからどうするんだ?」


何とかコロニーの外へと出たものの、状況は良くなった訳でも無く…



5機のうち4機はザフトに奪われてしまい…

ハッキリ言って、事態は最悪なのだ。




しかも、どうやらザフト艦は残りの1機とこの艦を破壊すべく…

つまり…追われているのだ。










「私はアルテミスへ向かう事を提案いたします。」



月基地へ向かう上で、何の補給も無しに直通はあまりに危険すぎる。


今ここで敵に攻められたら、到底守り切れない。




「確かに…友軍ではあるけれど…」


思い悩むのも当然。

いくら同盟下にあるユーラシア連邦の要塞ではあるが、

この艦とMSは公式には発表もされておらず、認識コードも無い。




「この状況です。分かって頂けると思います。」


「そう…ね。そうしましょう。」




















「バジルール曹長…」


「…あ…はい…。」


「お疲れ様です。自分が変わりますので、少し休んでください。」


脱出後、ずっとシートに座って作業を続けていた私を気遣ってくれたトノムラ伍長が肩を叩く。


「あ…ありがとうございます。」



年齢は彼の方がずっと上だけれど…階級は私の方が上で…

互いに敬語を使い合う、ちょっと不自然な雰囲気…。




シートをトノムラ伍長に譲った私はひとまず仮眠を取ろうと体を移動させる。







「おいおい。冗談じゃないぜ。」


「しかし…アレをまた、あの少年に乗せるのですか?」


ブリッジの端では何かを揉めている姉様、ラミアス大尉にフラガ大尉。



「あのOS見たか?普通の人間に乗れる設定じゃないぜ?」


「ではすぐに書き換えて…」


「ナチュラルに出来る芸当じゃないぜ。しかもこの艦の設備じゃあ到底無理だ。」




ストライクの…話だろうか…。



深刻そうな3人の表情を見ていたら、彼がコーディネイターなのだという事を改めて感じさせられた。




















「あ…」



部屋へと向かおうと居住区を通り掛った時だった。


学生達が一ヶ所に集まって何かを話している。



私に気付いた女の子がこちらを見た。






「…ごめんね…こんな事に巻き込んじゃって…。」



「あ…いえ…」



本来なら、ヘリオポリスでシェルターに避難していた筈の子達なのに…

よりにもよって連合の船に保護されるなんて気の毒としか言えない。






「私、・バジルールです。多分、あなた達と同じくらいの年だと思うんだけど…。」



「あ…ミリアリアです。ミリアリア・ハウ。16歳です。」


「トール・ケーニヒです。同じく16歳。」


「サイ・アーガイルです。一つ上で17歳です…。」


「カズイ・バスカークです。16歳です。」



「じゃあ…私と同じね。私も16なの。」




ニッコリと微笑んでそう返すと、皆安心した表情で微笑を返してくれる。


「…で…あなたは?」



一番気になっていた、コーディネイターの彼に声を掛けた。




「あ…キラです…キラ・ヤマト。僕も16…です。」



「そう。よろしくね、キラ。」




疲れてるんだろうな…。


急に攻撃を受けて…MSに乗る事になって…


仮にも…何も知らない普通の民間人の学生なのに…




「こんな状況だから…大変だとは思うんだけど…

 なるべく早くあなた達を安全な場所で降ろしてあげられるようにお願いしてみるから…。」











ドキ…ン…





私の一言にキラ君がフワリと微笑んだ。



その柔らかい微笑みに瞳を奪われる。


なんて…優しそうに微笑む人なんだろう…





「ありがとう…ございます。さんも…無理しないで下さいね。」


「…呼び捨てでいいよ。同い年なんだし…。」


「でも…」




仮にも軍人である私に対して躊躇う彼…

それでも、壁を作られるのは嫌で…



「あなたは軍人じゃないんだし…ね?

 だから私も…皆の事、呼び捨てしてもいい?」



「勿論。」



ミリアリアが笑顔で答える。



「良かった。私、同い年の子と話すのって本当に久し振りで嬉しいの。」





私の周りを囲む人達は大人ばかりで…

それが当たり前になていて…


そんな中で同い年の子に出会えた事は本当に嬉しい。



他の人にとっては当たり前の事なのかもしれないけれど…


改めて自分が育った環境が目の前の子達とは違うのだと…


そう感じてちょっと悲しくなった…。




















【あとがき】

何か…疲れました。

話、省略してぇ…

とりあえず、次回フレイ登場(予定)です。

フレイが絡んで来ないと…話にならないんですわ。

こんなペースじゃいつ終わるか分かんないなぁ…コレ…

ホント、長い目で見守って下さい。





2005.6.25 梨惟菜







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