君が望む暁

    PHASE−24 回帰 


























「おっしゃ!まだ粘ってたな!」






基地を出れば周囲は戦火に荒れていて…





敵の攻撃を難なくかわしながらも目的地であるアークエンジェルの所在を探す。






ようやく見つけた艦は敵機に囲まれ、逃げ場を失っている状態。






あの艦にはMSのパイロットが居ない。





だから自らの身は自らで守らなければならない状態で…





守りに精一杯といった状況だった。


















「飛ばすぞ!しっかり掴まってろよ!!」






「…はいっ!!」






合図と同時に彼の腰掛けるシートをギュッと握り締めた。











「しまっ…!!」





「きゃ!!」








混乱の中で避け切れなかった銃弾が翼を掠めた。






体勢を整えながら少佐は通信回線を開く。




























「こちらフラガ!アークエンジェル、応答せよ!アークエンジェル!!」







通信を試みるものの、雑音ばかりで届いている気配は感じられない。







「くそっ…やっぱりダメか…。

 仕方ない、突っ込むぞ!!」










幸い、艦のハッチは被弾して開放された状態になっていた。





その隙間を狙って戦闘機は真っ直ぐに突っ込む。




















「…ったぁ…」





「大丈夫か?」





「な…何とか…」





着艦の衝撃で少し頭を打ったみたいだけど。






「俺はブリッジに行く!お前はとりあえず仕事しろ!」





「えっ!?あ…はいっ!!」







ヘルメットを投げ出した少佐は真っ直ぐにブリッジへと駆け出す。






その場に居た整備班達は状況を掴めず私へと視線を向けた。













「どうなってんだ?少佐だけじゃなくて少尉まで…」






「…まぁ…色々と事件があって…落ち着いたらきちんと説明します。

 とにかく今は怪我人の手当てを最優先に!」







ここでの私の仕事は戦う事では無くて救う事。

































「艦長、私にも何か出来る事は無いですか!?」






一通りの仕事を終えた私は遅れてブリッジに駆け込んだ。







さん…あなた…」






「話は後で…とにかく今はこの領域を脱出する事を考えましょう!」






「…そうね…じゃあ、そのシートへ。」






「…え…」






艦長が指した先にあるシートはかつて姉様が腰掛けていた場所。





副艦長が座るべきポジション。







「…でも…」





「悪いけど今はそこしか空いてないわ。

 お願い出来るわね?・バジルール少尉?」








「…はいっ…!」































「後方よりデュエル!」







「…こんな時にっ!」






最後のXナンバーとなったデュエルが艦を狙って迫る。






外で援護をしている少佐が応戦してはくれるだろうが、相手は最新鋭のMS。






スカイグラスパーでどこまで持ち応える事が出来るか厳しい状況。












「とにかく振り切って!ここさえ突破出来ればっ!!」







激しい轟音の中、次々と敵機がこちらへと迫って来る。






かわす事さえ最早困難。










「艦の姿勢、維持出来ません!!」





必死に操縦桿を握っていたノイマンさんの声。








このままじゃ…サイクロプスの発動前に沈んでしまう…






そして遂に維持出来なくなった艦が傾き始めたその時…



















「…っ…!?」






正面に1機のジンが姿を現した。






一瞬にして凍り付く中、ジンはこちらへと銃口を向ける。








けれど…私の頭の中はやけにスローモーションで…クリアだった。








死の恐怖よりも…逃げ切れなかった事への後悔よりも…






真っ先に彼の顔が脳裏を掠めていた。












「…キラ…」






誰にも聞こえない程度の小さな声で呟かれた彼の名前。







ここで死ねば…私は彼の元へと行ける…?








この危機的状況の中でそれだけが頭を支配していた。






ほんの数秒間の出来事だったのに…























そして熱を帯びた銃口が今にも火を放とうとしたその時…





目の前を閃光が走り、それは一瞬にしてジンの銃口を撃ち抜いた。










本当に一瞬の出来事だった…。
























「…な…に…?」







護る様にアークエンジェルの前へ現れた正体不明の機体。




広げた翼がまるで本物の様に輝いて眩しく感じさせる。






そして次に耳へと届いた声は私の止まった思考を再び動かした。














『こちら、キラ・ヤマト』







「え…」





通信越しに聞こえたあの柔らかい声。






私が最も求めていたそれが確かに現実に存在していた。








「キラ…くん…?」






『援護します!今の内に退艦を!!』






キラの一言に艦長はハッと現実へ返る。








「本部の地下に…サイクロプスがあって…

 私達は囮に…作戦なの…知らなかったの!!

 だからここでは退艦出来ない…もっと基地から遠ざからなければ…!」







一瞬の沈黙が走った後、キラの乗ったMSは再び動き出した。










『ザフト、連合、両軍に伝えます。』






全回線を開いてキラはその場で戦闘を行っている全ての者へと呼び掛けた。







『アラスカ基地は間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します。

 両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい!』









「…っ…」







嗚咽を漏らしそうになる口元を抑え、必死に涙を堪える。






夢なんかじゃない…間違いなくキラだ…










キラが生きてる…





生きて、私達の元へ戻って来てくれた…








それだけで私の心は掻き乱されて…でも嬉しくて…







一瞬、死の現実と直面した筈なのに…死んでも構わないと思った自分が居たのに…







そんな考えは既に何処にも残っては居なかった。









生きて…生き残ってここを脱出して…







そしてもう一度、キラの笑顔が見たい…







それだけで頭が一杯になっていた。






























【あとがき】

久々の更新、大変お待たせしました。

果たして待って下さっている方がいらっしゃるのでしょうか…

ようやく再登場のキラ…ヒーローなのに久々です。

ここまでのお話を考えるのが大変で大変で…

どうやってアークエンジェルに帰らせるかが最大のお悩みポイントでした。

ここからやっと恋愛モードに突入出来れば…と思います。




2007.2.2 梨惟菜










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