君が望む暁

     PHASE−23 疾走




























中心部へと進むにつれて人の気配が少なくなってゆく。







いくら緊急事態とはいえ、何だか様子がおかしすぎるのでは…?







外から聞こえる爆音に不安を覚えながら、手探りの状態で通路を走っていた。








本当にどうなっているの?






この基地がザフトの攻撃を受けているって事?







姉様と別れる決意をした矢先にこんな事態に陥るなんて…。







戻るつもりであったその場所を見失った今、とにかくアークエンジェルに戻る方法を自力で探すしかない。







でも…本当にアークエンジェルに戻れるのかな…この状況で…








背筋が凍り付く。






下手するとここで私は…










「…っ…!!」










怖い…






1人がこんなに怖いものだったなんて…






















長い通路を走り抜け、分かれ道へと差し掛かった。








右…それとも左…?









迷う私の耳に1つの足音が聞こえた。









左の道から…段々と近付いてる…















「…え…!?」








「…!?何でこんな所に…」







角で遭遇したのは先程別れたばかりのフラガ少佐だった。






「少佐こそ…何でこんな所に!?」






本来ならば少佐は今頃、カリフォルニアに向かっている筈なのに…








「俺のセリフ、そのまま返すなよ…。」







「…すいません…つい。…でも…」







「しっ」






少佐が指先を唇に添える。






言われて息を潜ませると…微かに人の気配を感じる。









カシャッ







少佐が銃を構えた。






立ち止まった先は管制室…





そっと上着に潜ませていた銃に手を掛けた。
























…誰…?








薄暗い管制室で怪しく光るモニターの前に立つ人物…






連合の物ではない白い軍服…






…ザフト…?






何でこんな内部に敵が入り込んでいるの?







しかも1人でだなんて…






















パァンッ!!













「…くっ…!!」







気配を悟られ、相手がこちらに向けて発砲する。







狙いは少佐…?










「久し振りだな…ムウ・ラ・フラガ」









「え…?」







振り返ったその男は奇妙な仮面を被っていた。







少佐を知っている口調で語るその声は深く重みのあるもので…






妙な威圧感を覚えた。













、下がってろ…」









様子を伺おうとする私の腕を押さえて背中へとかくまう。








発砲された時点で再会を喜ぶべき相手では無いという事は分かる。














「折角会えたのに残念だが、今は貴様に付き合っている暇はなくてな…」








パァンッ!







再び放たれた銃弾が壁を掠めた。








「ここに居る…という事は、貴様も地球軍では既に用済みか?

 落ちたものだな…『エンデュミオンの鷹』も…」









…用済み…?




この人は一体…何を知っていると言うのだろうか。






あまりに無防備過ぎる基地の中心部は未だ静かなまま…








仮面の男は何度か発砲すると隙を突いてもう一方の扉から外へと駆け出した。














「…ちっ…!」







少佐は後を追わず、彼が凝視していたモニターの前へと向かった。










「…これは…!」







「少佐?一体何が………これ…!」











「冗談…だろ…!?」








サイクロプス…システム…?






この基地を囮にしてザフト軍を誘い込む…






そしてシステムを発動させて戦力を削るという作戦…!?


















「戻るぞ!」






「…戻るって…どうやって!?」








「そんな事は走りながら考える!

 とにかく急げ!このままここに居ても死ぬだけだぞ!!」







強引に腕を掴まれ、来た道を走り出す。









まさか…急な転属の裏にはこんな真実が隠されていたなんて…













この基地に残っている人間は捨て駒にされるって事なの?






艦長や他のクルーの皆が…








































「こっちだ!」








外へと出た所で乗り捨てられたバイクに少佐が跨る。






誘導されて後ろに乗り、バイクは勢い良く走り出した。










「どこかでモビルスーツにでも乗らなきゃ無理だな…」








静まり返った基地内を走り抜け、バイクは戦闘の中心部へと向かう。









「しっかり掴まってろよ!飛ばすぞ。」








「はい…!」












































「おい、ここの指揮官は!?」







辿り着いたゲートでバイクを乗り捨て、奥へと進む。






戦闘機が並ぶ周囲には負傷した兵士で混乱していた。
















「きゃあっ!!」








落ちてきた敵機の衝撃でゲート周辺に爆音と凄まじい煙が立ち込めた。







、こっちだ!」







腕を引かれ、物陰に隠れる。






ここも時間の問題だ…








「おい、ここは撤退だ!基地は放棄される!」






「え…?」





呆然とする兵士の肩を掴み、少佐は力強く叫んだ。






「生き残ってる奴を集めて早く脱出するんだ!

 最低でも基地から半径10キロ以上は離れるんだぞ、いいな!?」







「…あ…っ!」






そう言い残すと少佐は私の腕を再び掴んで立ち上がらせた。









「ちっ…ヒーローは柄じゃないってのに!」








「きゃっ!!」







突如、私の体をフワリと抱き上げた少佐は目の前の戦闘機へと駆け上がる。







「ちょっと大人しくしてろよ…っ!」








男の人に…と言うか、物心ついてからこんな風に抱き上げられた経験なんて無くて…






状況は分かってるけど、頬が異常に熱を帯びてる。








狭いコックピットの奥に誘導され、指示通りに潜り込んだ。







「ちょっと狭いけど我慢しろよ。」






「はい」







この状況じゃ文句なんて言っていられるものか…。






シートに腰を下ろした少佐は手早くシステムを起動させた。








「よし…生きてるな…」










機体は問題なく発進し、空へと舞い上がる。










「無事でいてくれよ…アークエンジェル!!」












少佐の叫びに同調するように、ゆっくりと瞳を閉ざす。


























【あとがき】

こちらも毎度の事ながら軽く激しく放置…

久々の更新でごめんなさい。

そして今回はキラ出演無し…

少佐が頑張ってます。

むしろカッコよく書きたくて必死でした。

だって好きなんですもの…(照)

勝手にサービス♪

少佐にお姫様抱っこされるなんて…美味しいなぁ…ヒロイン。

とまぁ、今回も軽く暴走気味で…。

キラとの感動の再会は次回に持ち越しになっちゃいました。


読んで下さってありがとうございました。

次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。




2006.12.8 梨惟菜








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