君が望む暁

     PHASE−22 会いたい






















「…う…ん…」






差し込む日差しに視界は開かれない。





眩しくて…頬に当たる熱が心地よく感じる。









「…ここ…は…」






見覚えの無い景色。




確か…僕はアスランと戦って…





そしてアスランの機体が爆発して…






天…国…?




そう感じてもおかしくない程に温かい。




柔らかな陽射し…





でも…僕が天国に来れる筈…無い。






そして全身を襲う倦怠感。





まだ…生きている?


















「まぁ…おはようございます。」





声が聞こえた。




その先に視線を向けると、確かに見覚えのある少女の姿。









「ラクス…さん?」






「あら…ラクスとお呼び下さいな。

 でも、覚えていて下さって嬉しいですわ。」







アークエンジェルで出会った彼女が何故ここに…?







「おや…彼が目覚めたのですね?」





もう1つの声に体を首をゆっくりと傾ける。





今度は見た事の無い男性だった。







「…僕は…」





「あなたは傷付き…私の祈りの庭に辿り着いたのです。

 そして私がここへお連れしました。」





生きてる…




僕は死んだ筈なのに…









「キラ…?」




「どうしようも…無かった…」





シーツを握り締める手が震えた。




じわじわと視界が歪む。







「僕は…彼の仲間を殺して…

 アスランは…僕の友達を…殺した…」





そう…



目の前でトールの乗ったスカイグラスパーは爆発したんだ。




僕を助けようとしてくれたトールは…







「だ…から…っ…」





ふわりと震える手に彼女の白いそれが添えられる。










「あなたはアスランを殺そうとしたのですね?

 そして…アスランもあなたを…」







ラクスの問いに再び思考は現実へと引き戻される。





彼女はアスランの…






「でも、それは仕方の無い事ではありませんか?

 戦争であれば…」






「…え…」





「お2人とも、敵と戦われたのでしょう?

 ………違いますか?」








敵…?





アスランは…僕の敵…?







アスランは親友だ。




小さい頃から一緒で…仲が良くて何でも話し合って…






なのに今は…銃を向け合っている。













僕が戦うと決めたのは…守りたいものがあったから。





アスランも同じだった筈だ…







プラントを守る為に戦ってる。






思いは同じなのに、守りたい物が違うだけで殺し合って…







































「…転属…命令ですか?」







「あぁ。明朝8:00に人事局出頭するようにとの事だ。」







戻った艦長達から告げられたのは突然の転属命令だった。






確かにアークエンジェルは明確な命令も受けぬまま、ここまで逃げる形でやって来た訳だけど…







転属を命じられたのは勿論私だけでは無く…






姉様にフラガ少佐…そして何故かフレイだった。










また…姉様と同じ配属先になるのかな…






この状況だもの…身内と一緒にと言われれば安心感はあるけれど…






相変わらず何処へ行っても私は『ナタル・バジルールの妹』なのだ。






折角、軍医として頑張りたいと思っていた矢先だったのに…




























「転属だってな。」






「…ノイマンさん…」






身支度を整えるの姿にノイマンは何とも言えぬ複雑な表情を浮かべていた。









「…あまりに急で驚きました。 何も用意してないし…。」






私物なんてほとんど無いけれど、次にこの艦に乗る軍医の為に出来る限りは片付けておかなければ…








「…ノイマンさんにも…色々とお世話になりました。」





「え…あぁ…」





「次にお会い出来る時は…全て終わってるといいですね。」






「…そうだな…」







ノイマンの目に映る少女は…儚げで今にも消えてしまいそうだった。





小さな背中…





普通の…16歳の女の子…






そんな生活が送れたらどれだけ彼女にとって幸せな事だったろうか…






今は祈る事しか出来ない。






彼女が失ったものはあまりに大きい。






ようやく見付けた特別な感情だった筈だ。










「気を付けて…頑張れよ。」





「はい…ノイマンさんも…お元気で。」


























































「少佐はどちらですか?」







指示書を確認しながら、姉様が少佐に問い掛けた。







「…俺はお嬢ちゃんと同じだな…」






荷物を握り締め、不安そうな表情をするフレイを見て答える。






案の定、私の行き先は姉様と同じだった。





地下ドックは慌しく行き交う人々。






同じ様に搭乗艦へと急ぐ人が列を作る。

















「では…少佐」






「じゃ、中尉も元気で。もな。」






「はい…色々とありがとうございました。」






「…いい女になれよ?」






「…頑張ります。」






彼が告げたその一言が冷えた心を和ませた。





俗に言う『いい女』というものが何かは分からないけれど…







「…フレイ…も…気を付けてね。」






「…はい…」























「それにしても慌しいな…一体どうなっているんだ?」






姉様の後ろを、はぐれない程度の速度で歩く。





今現在の状況なんて分からない。






姉様や艦長は詳しく教えてくれなかったし。






アークエンジェルはこれからどうなるの?





宇宙艦だから、また宇宙に戻るのだろうか…





捕虜になった彼は…どんな待遇を受けるのだろうか…





結局、あれから顔を合わせる事なく艦を離れる事になって…





敵だけど…優しい目をした人だった。




名前すらちゃんと聞いてないのに…





















、遅いぞ。」






色々と頭の中を何かが渦巻いていて、気付けば歩く速度も落ちていた。






これから私はまた姉様と…






いつまで経っても姉様と同じ配属。





嫌なのかと問われればそうでは無いけれど。






色々…考えてた。






私は何の為にここに居るんだろう…って。




















「…?」






急に足が止まる。




それに気付いた姉様も眉間にしわを寄せながら振り返った。







「何をしている…早くしないと時間に…」






「姉様…話があります。」





「話なら移動しながら聞く。」






「…私…ここに残ります。」







「…何を…!」






拳を握り締めた。















「何を言っているのか分かっているのか!?」







「分かっています。」





「我々は上からの命令で動いているんだ。

 残ると言う事は命令違反になるんだぞ!?」






「分かっています。」






「何も分かっていない!!」






「私の我侭だって分かってます!!」






















「私は…姉様の妹である自分が嫌いでした。」






いくら頑張っても認めてもらえず…





何かと言えば『ナタル・バジルールの妹』。






けれど、姉様は素敵な人で、いつかそんな姉様みたいになりたいと思っていた。










「けど…アークエンジェルに乗って…キラに出会って気付いたんです。

 私は姉様じゃない。姉様にはなれない。

 だったら…私は私らしく生きるしかない…って。」








だから決めた。





ここに残る事を。




アークエンジェルで私に出来る事をしたいと。











「私は…バジルール家の次女としてじゃなく、『・バジルール』という一軍人として生きたいんです。」











いつも不安げな瞳をしていたに迷いは無かった。






そんな妹の姿を初めて目の当たりにした姉は返答に詰まる。








「ごめんなさい…私が行かなければ姉様の顔を潰す事になるかもしれない。

 でも…私にも譲れない想いがあるの。」











彼が…キラが守ろうとして守ってくれたあの艦で私も戦いたい。








今度は私が…あの艦を守りたい。









私が…キラの想いを受け継ぎたいと…そう思ったから。



























「…何…!?」






来た道を走る途中でアラートが鳴り響く。






襲撃…の筈は無い…わよね?






だってザフトはパナマに向けて大掛かりな作戦を展開してるって…





今アラスカを攻めている余裕なんて無い筈だ。








でも確かにこれは緊急を知らせる合図で、その証拠に周りの人間も慌しさを増していた。








これじゃ…アークエンジェルも出撃命令が出ている可能性が高い…









「…どうしたら…」






そうだ…司令部か何処かに行けば状況が把握出来るかも…























































不思議な感覚だった。





数日前まで地球で戦争をしていた自分は今、プラントで穏やかな日差しに包まれている。





動けるようになった今も、ラクスの家で手厚い看護を受けていて…







差し出された紅茶を口にする目の前には彼女の父。





元…最高評議会議長。






現実味の無い今にまだ夢を見ているような気分。








今…地球はどうなっているんだろう。







アークエンジェルは無事にアラスカに辿り着けただろうか…






皆…無事かな…





ミリアリアは…泣いていないだろうか…






そして…






…元気にしている?












「…元気がありませんわね。」







「…皆…無事かな…って思って。」






「そう…ですわね。」








地球へと戻る術も無く、また戻った所でストライクを失った自分に出来る事は何も無い。






今の自分は…無力だ。





けれど…戦う事が怖いのも事実。






傷付け合う為に戦うなんて…そんなのは嫌だ。






最後に何が得られる?





















『シーゲル様にアイリーン・カナーバ様より通信です。』






目の前のモニターが外線に繋がる。






『シーゲル!我々はザラに欺かれた!!』






緊迫した様子で女性は声を荒げる。





『発動された<スピット・ブレイク>の目標はパナマでは無い!

 …アラスカだ!!』










アラスカ…?










ガシャン…と音を立ててカップが割れた。






それを手にしていたのはキラで、けれど自身は取り落とした事さえ気付いていない程に動揺していた。








目標は…アラスカ…?






アークエンジェルが…が今いるあの場所…?








いつまでも頭から離れない彼女の柔らかい笑み。







初めてまともに会話した時の戸惑いの表情…





育った環境を話してくれたあの時の辛そうな表情…




アスランの事を話した時の…泣き出しそうな悲しげな表情…







色んな彼女が頭を掠めるけど、一番強く残るのはあの笑顔だった。








君は…あまり笑顔を見せてくれなかったね…







そんな状況じゃなかったのは分かっているけど…僕はただ、君の笑顔があれば…それだけで頑張れたんだ。







ただ…笑ってくれるだけで良かったんだ。









帰ったら…話を聞くと約束したのに…僕はそのまま…




































「キラ…?」






何かを決意した表情でキラは外を眺めていた。






「僕は…行くよ…。」






その一言でラクスは彼の想いを悟る。






「どちらへ行かれますの?」




でもあえてそれを口にした。




彼の意思の強さを測る為に。








「地球へ…戻らなきゃ。」





「何故? あなたお1人が戻った所で戦いは終わりませんわ。」




「『何も出来ない』って言って、何もしなければ、もっと何も出来ない。

 何も変わらない…何も終わらないから…」






ここでただ…見ているだけなんて嫌だから…






「また…ザフトと戦われますの?」





その問いに、静かに首を左右に振る。





「では…地球軍と?」





そして再び左右に振った。






「僕は…何と戦わなきゃならないのか…ずっと知りたかった。

 そして…少しは分かった気がするから。」







だから行くんだ…





アークエンジェルの人達を…死なせたくない。




そして…を失いたくない。






ただ今は…君に会いたいんだ…




































【あとがき】

また長くなってしまいました。

2人の転機となる大事な場面…の筈なのですが…

ヒロインはアラスカで、そしてキラはプラントで自分の進むべき道を見出す訳です。

もっと恋愛モードに発展できればいいんですけどね…

もどかしい…あうぅ…

ここからキラは人が変わったように大人になっちゃいますよね〜。

誰だ君は…みたいな。

それが恋愛に対しても上手く反映できるようにこれからの展開を頑張りたいと思います。

ラブラブになれるなかぁ…この2人(おい)

ここまで読んで下さってありがとうございました。




2006.10.25 梨惟菜











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