君が望む暁



  PHASE−02 震える指先

















「う…っ…」



あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか…


意識を取り戻した私はゆっくりと瞳を開いた。


しかし、周囲は真っ暗で…その暗闇に慣れぬ瞳は行き場を失う。




立ち込める煙…僅かな火薬の匂い…



そして…血の臭いも…







混乱する頭を整理するように必死に務める。


この状況は…


このコロニーが攻撃を受けた…と考えてもいいものなのだろうか?


いや…それ以外には考えられない。




何故…中立国のコロニーでこんな事が…




一瞬そう思ったけれど、敵の目的が何なのかはすぐに見当が付いた。





この戦艦しかない…


恐らくは…この新型艦の情報を聞き付けて破壊命令でも受けたのだろう。




















次第に暗闇に慣れた瞳が周囲の状況を確認すべく探る。





「…きゃ…!!」



目の前に飛び込んで来たのは、同じ軍服を着た男性…


しかし…



「…息…してない…」


冷たくなった体…


こんな状況に陥ったのは初めてで…


体が無意識の内に震え出す。


ナタル姉様は…!?






直前まですぐ側に居たのだ…この辺りに居る筈だ。




「姉様!ナタル姉様っ!!」



お願い…無事でいて…



願いながらも溢れ出しそうになる涙を必死に堪える。




「…っ…!」


「!!姉様っ!!」



少し離れた場所から聞こえる姉様の声…



「良かった!無事だったのね。」


も…無事で良かった…」


これだけの被害が出た中で揃って無事だったのは奇跡に近い。



「泣くな…まだ状況が掴めていない状態なんだぞ…。」


「…っ…はい…。」


慌てて涙を拭った私は姉様と共に出口を探す。




「姉様!ここから出られます!」


出入り口も何とか原型を留めていて…


何とか戦艦へ入る事は可能な様子だった。




















「…艦長!!」



司令ブースに飛び込んだ私達の目の前には…


無重力の中に浮かぶ数名のクルーの死体…


その中に…このアークエンジェルの艦長も…



艦長が…

一体どうしたら…



いつもは気丈に振る舞う姉様もこの事態には流石に応じ切れていない様子で…


いつも姉様の言う通りにして来た私も…その場に項垂れた。











「バジルール少尉!も!!」



聞き覚えのある声が私達を呼び、すぐさま声の主に顔を向けた。




「…ノイマンさん!!」




















「無事だったのは…爆発の時に艦に居た数名のみです。ほとんどが工員でしたが…。」


ノイマンさんの状況報告を聞きながら、艦内へと足を進める。



周りの状況は悲惨なもので…


明らかにこの艦を狙おうと目論んで行われた行為なのだと実感させられた。





ノイマンさんの案内で艦内の一室へと足を踏み入れる。


「ここはまだ被害の少ない場所で…」


彼に続いて中に入ると、そこには数名のクルーが沈痛な面持ちで集まっていた。





「バジルール少尉!」


姉様の姿に皆は安心したみたいで…


沈んでいた表情が一気に明るくなった。




「士官は…他には居ない様だな…」



つまり…この中で一番上官に当たるのは姉様となる。


「とにかく…ブリッジへ行きましょう。」


「そうだな…。」

















「でも…おかしくはないか?」


「え…?」



思っていたよりも艦の損傷は少なく…姉様もその事に不信感を抱く。



それでも電波障害は酷く、艦もドックから身動き出来ない状況ではあるのだけれど…。




「最初はこの艦が狙いだと思ったんだが…」


「私も…そう思いましたが…?」


「あれ以来攻撃が止んでいるのはおかしいとは思わないか?」


「あ…」



確かに…

敵の目的がこの新型艦の破壊だと言うのなら…もっと徹底的に攻撃を仕掛けてくる筈。


まさか一撃で仕留められると思うほど甘くはないだろう。




「では…」


「目的はモルゲンレーテか!?」


「…!!」




モルゲンレーテにはアークエンジェルと同時進行で開発の進められていた新型のMSがある。


アークエンジェルの本来の用途は、その新型MSの収容…そして移送なのだ。


予定では今日の午後にその新型がここへ搬送される事になっていた。





「アークエンジェルを発進させる!動ける者全員をブリッジに集めろ!!」


「この人員では無理です!艦の被害状況もまだ…」


「そんな事を言っている間に動け!モルゲンレーテはまだ戦闘中かもしれないんだぞ!?」



「…分かりました!」



はここに残れ!艦の被害状況をチェックしろ!」


「…はい!!」





姉様に言われた通り、シートに座った私はシステムを起動させる。


本来ならこれは自分に与えられる予定ではなかった仕事なのだけれど…

そんな事を言っている場合ではない。







「ご命令通り、動ける者全員連れて来ました!」


作業を進めている内に、ノイマンさんがクルーを連れてブリッジに戻って来る。



「シートに着け!コンピューターの指示通りにやればいい!」



ノイマンさんが連れて来た人員は、私や彼と同じ、この艦が初めての見習いの様な者ばかり。


マニュアルでは習っているものの、実務経験の無い人ばかりだった。




「艦起動と同時に特装砲発射準備!出来るな!?ノイマン曹長!」


「…っ…はい!」



操縦席に座ったノイマンさんは真剣な面持ちで舵を握る。





!被害状況の報告は!?」


「出力上昇、異常なし!定格まで約450秒です!」


「長すぎる!ヘリオポリスとのコンジットの状況は!?」


「…生きてます。」


「そこからパワーをもらえ!」


「は…はい!コンジット、オンライン!アキュムレーターに接続!

 主動力コンタクト。エンジン異常なし。アークエンジェル全システムオンライン!」



次から次へと襲い掛かる不安を気にする余裕も無く、艦は着々と発進の準備が進められた。


「発進準備完了!」


ノイマンさんの一言で姉様が叫ぶ。



「気密隔壁閉鎖!総員、衝撃に備えよ!特装砲発射と同時に最大戦速!アークエンジェル、発進!!」











ードォン!!









「くっ…!」


「きゃあ…っ!!」



発射と同時に艦が大きく揺れ、シートに座っていた私もその衝撃で背中を軽く打ち付けられた。



破壊された壁面は未だ煙で視界は遮断されたままだったが、

そこから僅かな光が洩れ始める。




外の状況がどうなっているのか分からない今、皆の胸にあるのは不安のみ…。



次第に強くなる光に目を細め、力強く拳を握り…


次に起こる何かに覚悟を決めた…。




















【あとがき】

すみません…

未だにキラが…出て来ない…(汗)

正直、ヒロインだって仕事出来るんだぞ!ってイメージを持って欲しくて…

小説引っ張り出して来て専門用語並べてみました。

…と言うか、もう抜粋の域です。

更に申し訳ない事に、トノムラさんの仕事、奪ってます。(笑)

いやぁ…笑い事では無いのですが…

そんな感じで間も無くキラと2度目の再会…の筈ですので…









2005.6.23 梨惟菜








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