君が望む暁

    PHASE−18 平和の国 






















「…カガリがオーブのお姫様だったなんて…」








そのお陰で危機を脱する事が出来たアークエンジェルは現在、オーブの領内に居た。





無理やりに着せられたドレスを身に纏い、手を引かれて歩く彼女は今までとは別人だった。






砂漠で感じた違和感の無さは…本当のお嬢様だったからなんだ。




















「さて…と。仕事に戻るか。」






艦を降りるカガリを見送った後、ノイマンは再びブリッジへと向かう。







艦長、姉様、フラガ少佐は代表首長との会見に軍指令本部に出向いていた。






中立を誓うオーブが連合の戦艦を受け入れてくれた理由は分からない。







3人が戻って来るまでは…。























「えっと…あと足りないものは…」








コンコン…







「まだ仕事中?」






空けたままだった扉の先に、キラの姿があった。






「…備品、色々と足りなくなってるから確認を…ね。

 キラは?」







まだ許可は取れていないけど、外出の許可が下りたら買出しに行かなくちゃ。










「僕はこれからモルゲンレーテなんだ。

 色々と仕事、頼まれちゃって…。」







その言葉にの表情が少し変わった。










「…その…ごめんなさい…」








「何でが謝るの?」








「…私達が助かったの…キラのお陰だし。」











連合の戦艦を受け入れる代わりにキラの持っている技術をオーブに提供して欲しい…。







それが条件なのだと、戻って来た艦長に教えて貰った。









アークエンジェルを守って戦ってくれたのはキラなのに…ここでもキラに頼ってしまった事が後ろめたくて…




















「そんな風に考えた事…今まで無かったよ。」






「え…?」






「僕は…自分から残るって決めたんだ。

 だからが気に病む事なんて何も無いんだよ?」






「…キラ…」



























「これである程度の医療物資は揃ったかしら…。」






書き留めておいたメモに目を通しながら、確認を取る。





流石はオーブで一番大きな街だ。





ほとんどの物は大きなショッピングモールで買い揃える事が出来た。







残っているのはクルーの皆に頼まれた私物とか…




エレカを借りて来て良かった…。




全部の物を買い揃えたらとても1人では持ち運べなかったし…。






荷物を一度エレカに運んでおこうと、エレカ置き場まで向けて踵を返す。









本当に大きな街…




こんなに活気に溢れた場所を歩くのは久し振り。







ここは本当に平和な街だった。




つい先日は領海付近で戦闘があったというのに…



この街には全く無関係だったかのような穏やかな時間が流れている。




















「きゃっ…!」






余所見をしながら歩いていた所為で、前方から歩いて来る人影に気付くのが遅れた。





大きな荷物を抱えていたはそのまま人にぶつかり、買い物袋を落としてしまう。







「ごめんなさいっ!」





「いや、俺の方こそ…!」






ぶつかった相手はどうやら少年で…まだ幼さを残した声が聞こえた。





慌てて物を拾うを手伝ってその場にしゃがみ込む。











「何をしているアスラン!」





「あ〜あ…派手にやったなこりゃ…。」





「大丈夫ですか?」







連れらしき3人の少年もそれを手伝ってくれた。






「すみません…ご迷惑をお掛けしました…。」





改めて顔を見上げると…整った顔立ちの4人…






うわ…カッコいい…





着ている服は作業服…なんだけど…



何だか妙に絵になってるって言うか…




とにかく、服装なんて関係無く目立ってる感じ…









「君…医者か何か?」




「え…?」





「荷物、やたらと医療品が多かったから…。」





「あ…はい…一応。」







「そっか…結構大荷物だけど大丈夫か?」






「大丈夫です。近くにエレカを置いてるんで。」







「そっか。じゃあ、俺達は急ぐから…」






「ありがとうございました。」






頭を深く下げると、ぶつかった少年は爽やかな笑顔で手を振り、去って行った。








どこの作業員…かなぁ…?






こんな中途半端な時間帯に街中を歩いてるなんて不思議…。






そう思いながら、荷物を持ち直したはエレカへと急いだ。




























「さっきの女の子、結構可愛くなかったか?」





「ディアッカ…何を…」





「何かフワフワ〜っとした感じでさぁ…俺、結構好みのタイプ。」







「下らん事を言ってないでさっさと行くぞ。」










「さっきの子…」




「え…?」





「いや…何でも無い…」






アスランと呼ばれた少年は彼女の持っていた荷物に疑問を抱いていた。





やけに医療品が多かった…




しかも、その量は普通じゃなかった気がする…





まるで今から遠出でもするかのような…









嫌な予感がする…




予感だけで済めばいいけど…




























「…キラ…ご両親に会わなかったみたいですね…。」






翌日、無事に整備と補給の済んだアークエンジェルはオーブを後にした。






オーブ滞在中、ミリアリア達は家族に会う時間を与えてもらって再会を果たしていた。




けれど…キラは会わなかったみたいで…





そして、先の戦いで父親を失っていたフレイもまた…艦内に残っていた。











「…今は会いたくないんだと。」






問い掛けを受けたフラガはポツリと言葉を返した。








「会いたく…ない…?」







ご両親に会いたくないだなんて…




この機会を逃したら次はいつ会えるか分からないのに…





仲が悪い…とかじゃないみたいだし…











「今会ったら両親を責めそうで怖いんだと。」






「責めるって…どうして?」






「何で自分をコーディネイターにしたのか…って言っちまいそうだから。」







「あ…」







そういえば…



キラは一世代目のコーディネイターって言ってたっけ…。








つまりご両親はナチュラル。








コーディネイターであったからストライクに乗る事が出来た。





けど、コーディネイターであったが為に多くの傷を負った事も事実。












『僕がどんな思いで戦ってきたか…誰も気にも留めなかった癖に』







あの時の言葉が脳裏を掠める。







コーディネイターとナチュラル。




気にしていない人間だって沢山居るけれど、この戦争の根本はこの違いなのだ。






両者が妬み合い、争いは始まった。












「何て顔してんだ。」




「え…っ」








俯くの様子を伺うように、フラガが顔を覗き込む。








「お前が落ち込んでどうするんだ?」






「だって…。」






「一番辛いのはアイツなんだぞ?」





「分かってます…けど…」






「だったらそんな顔してないで、アイツの支えになってやればいいだろ?」






「…少佐…」








支えって…どうやって?





キラにはフレイが居る。





私なんて足元にも及ばないちっぽけな存在で…




キラの為に何がしてあげられるかなんて分からない。












「ただ…笑顔で居てやればいいんだよ。」





「え?」





「それだけでキラは十分立っていられるんだから。」










少佐の言葉の意味が分からなくて、ただ首を傾げる。
























【あとがき】

久し振りの更新です。

オノゴロ編でした。

今回はザラ隊初登場。

意外な所でヒロインと出会う事に。

キラの出番が本当に少なくてすみません。

様、お付き合い頂きましてありがとうございました。






2006.5.26 梨惟菜










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