君が望む暁

 PHASE−15 戦う理由


























「お前、何言ってるんだ!ケバブにはチリソースが常識だろ!?」






「君こそ何を言っているんだ!チリソースだなんて邪道だね。

 このヨーグルトソースこそがケバブには最適!!」






目の前で繰り広げられる口論を黙って見守る事しか出来なかった私とキラ。





正直、どっちでも構わないなんて口に出したらそれこそ巻き込まれかねなくて…





かと言って、2人を無視して食事を始めるワケにもいかないし…。






困り顔でキラの方へと視線を向けると彼もまた同じ様な表情で苦笑した。





そんな微笑に鼓動が跳ねるのを確かに感じた。























一通りの買い物を済ませた私達は、昼食を摂る為に近くのレストランへと足を踏み入れた。





カガリのお勧めでこの地方では定番の料理『ケバブ』を食べる事になって…
















「コレはな、このチリソースをかけて食べるのが美味いんだ…」




彼女は慣れた手付きで料理と共に置かれたソースに手を掛ける。





「ねぇ…こっちのソースは?使わないの?」





置かれたソースは2本で、はもう片方のソースが気になってカガリに声を掛ける。





「あぁ…そっちはヨーグルトソースだ。一応、ケバブに掛けるソースなんだがな…。」





ヨーグルトソースなんて邪道だ…。




カガリがブツブツ言いながら、あくまでもケバブにはチリソースだと主張し始める。




個人的にはヨーグルトソースの方が好みだったりするんだけど…。




そう思いながら、キラと共にどちらを掛けようか悩んでいたその時…





見ず知らずの男性が会話に割り込んで来て今に至るのだった。








サングラスにアロハシャツ姿の謎めいた男性はヨーグルトソースを主張して…




それでカガリと対立してしまった…という訳だ。






止めようにもあまりに内容が下らなくて…




もうどっちでもいいから、早くこの騒ぎを鎮めて欲しいと溜息混じりに願うのだった。

























「キラ!お前はチリソースだよな!?」





「え!?ちょっ…!」





急に話をキラへと振ったカガリは強引にキラのケバブにチリソースを掛け始める。






「何を!彼まで邪道に落とすつもりか!」




「えぇ!?」





負けじと男性もヨーグルトソースを掛け始める。







「ちょ…ちょっとコレは…」






目の前にはチリソースとヨーグルトソースの混ざったケバブ。




…と言うか、ソースだらけでもはや原型を留めていない状態とも言える。







「…えっと…わ…私はこのままでいいから!!」




被害に遭う前に、私は慌てて2人の迷惑に近い親切心を遮った。



















「…キラ…大丈夫?私のと交換しようか?」



「え…ううん!大丈夫だよ。…ミックスもなかなか…」





キラは顔をしかめながらもそれを頬張った。




そんな一生懸命な彼の姿もなんだか可愛く思え、も自分の料理を口へと運ぶ。





…ソース無しでも十分に美味しい味ではあるけれど、ソースを掛けたかったな…。



なんて言い出したらまた揉め事になり兼ねないから言わないけれど…。
























「…しかし、凄い量だね。パーティーでもするの?」





いつのまにか同じテーブルに落ち着いていたその男性が私達の荷物に目をやって問う。








「余計なお世話だ!大体お前、さっきから何なんだ!?誰もお前なんか招待してないぞ!」



「まぁまぁ…」







苛立ちの声を上げるカガリを宥めるように男性は顔を緩めていたが、急に視線を外へと外す。





その表情に気付いた私とキラも同じく…顔を強張らせた。






「…それなのに勝手に座り込んで…」




「カガリ…」




「…何だ?」





カガリが顔を上げた瞬間、キラが彼女の腕を掴む。









…ドォン!!







「な…!」




突如、響き渡った爆音にすかさず男性がテーブルを蹴り上げる。




そのテーブルを盾にキラはとカガリを抱き寄せて滑り込んだ。










「くっ…」




こんな所で…ブルーコスモス!?








「無事か!?」





謎の男性は足首に忍ばせていた銃を取り出し身構えた。






この人…一体…






そう考える暇も無く、街中は銃撃戦へと発展していた。







「死ね!コーディネイター!宇宙の化け物め!!」





「青き清浄なる世界の為に!!」








やはりブルーコスモス!?





数名の男性が銃を片手に飛び込んで来る。





標的は私達…じゃない…




それを悟った私は隣のテーブルに隠れる男性に目を向けた。







この人…コーディネイター…





状況を把握しようと頭の中を整理しながら周囲を見渡す。





その時、近くのテーブルに居た男が敵と思われる1人を素早く撃ち殺した。







「構わん!全て排除しろ!」




的確に指示を与えるのは謎の男性…




この人…何者…?







「キラ…!私…」





気が付けばキラの腕の中に抱き締められていたは言葉を発した。





「大丈夫だから動かないで!」





キラは抱き締める腕の力を強める。








…こんな時にどうかしてる…



冷静に状況を判断して行動を取らなくちゃいけないのに…




頭が正常に働いてくれない…





私…キラの腕の中に居るんだ…







響く銃声の中で目を閉じると、浮かぶのは彼女の姿…







フレイ…ゴメン…






頭の中で彼女に謝罪しながら…そっと彼のシャツの裾を握り締めた。





今だけでいいから…




















「…!?」




腕の中にを抱き締めたまま、キラは周囲に目を向ける。




建物の陰に光る何かを見つけた瞬間、キラは慌てて足元に落ちていた銃をそれに向けて投げ付けた。





「うわっ…!」





銃は見事に標的に当たり、その衝撃で暴発する。





を開放したキラは飛び上がってその男を軽く蹴り上げた。
























、大丈夫?」





「え…?あ…うん。ありがとう…。」






差し出された手を取ると、ゆっくりとその腕を持ち上げて立たせてくれた。








辺りを見渡すと、一体は数分前までとは全く別の場所と化していた。









「おい!」





突如背後から聞こえた声に慌てて繋がれたままの手を離す。







「お前、銃の使い方も知らないのか!?馬鹿!!」





カガリが血相を変えて飛び込んで来た…が





「プッ…」




「アハハ…!」





私とキラは同時に笑い声を上げる。






「何がおかしいんだ!?」





「…だっ…カガリ…その頭…」





「え…?わ!何だよコレ!!」





先程の混乱で、カガリは頭からソースを沢山浴びていたのだった。







「何では被害に遭ってないんだよ!!」





「…え…?それは…」





キラの顔を見た後、すぐに逸らした。





キラが体を張って守ってくれたから…





その事実に頬が熱くなるのを感じる。






























「隊長!ご無事で!?」






…隊長…?




謎の男性の仲間と思われる人が彼をそう呼んだ。





この辺りで隊長と呼ばれる男は1人しか心当たりが無い…







「あぁ、私は平気だよ。彼のお陰で…な。」





サングラスを取り、素顔が晒された瞬間…






「アンドリュー・バルトフェルド…」






カガリが小さく…確かにそう呟いた。




































「君は本当にいいのかい?」





「私は裾が少し汚れただけです。ご心配には及びませんわ。」






「でも折角の白が台無しじゃないかい?」





「…いえ…本当にお気になさらないで下さい。」








応接室に通された私とキラは出されたコーヒーに手を伸ばす。







「もう1人の彼女の事なら心配しなくても大丈夫だよ。

 ちゃんと服は綺麗に洗濯させて貰っている。」







「…はぁ…」






キラはチラリと隣に腰掛けるに目を向けた。





確かにカガリのように全身にソースを被ったワケでは無いけれど…





真っ白なワンピースを纏っていた彼女の今の状態は最初の状態に比べると随分と汚れてしまっている。





けれど彼女は洗濯してくれるという申し出を頑なに断ったのだ。




そして結局、カガリの着替えが済むまで2人で待たされる事になって…。











それにしても落ち着かない…。




連れて来られた場所が場所だけに一瞬たりとも気は抜けない。




それは彼女も同じなのだろうか…。






自分と違って正規の訓練を受けているの表情は終始堅い。




常に警戒心を持ちつつ、それを表に出さないように必死なのだろう。




















キィ…







暫くすると部屋の扉がゆっくりと開く音が聞こえた。





その音に振り返ると、扉の前にはカガリを連れて行った女性の姿。




そして彼女の後ろに隠れるようにカガリが立っている。






「なぁに?恥ずかしがる事ないじゃない。」






「わ…」





強引に前に差し出されたカガリに、言葉を失う。






髪を結い上げ、薄っすらと化粧を施し…上質なドレスを身に纏っていた。











「女の…子…」





「お前っ!!」





「…なんだよね…って言おうとしたんだよ!!」






「それじゃ同じだろうが!!」








キラは頬を少し染めてそう告げる。







「何でこんな格好をしなくちゃならないんだ!!」




「仕方ないでしょう?貴方の服、クリーニング中なんだもの。」





「それにしたってもっと普通の服は無いのか!?」




「あら…たまにはオシャレもしなくちゃ。」








カガリは不機嫌そうにソファに腰を下ろす。




その仕草…何だか違和感が無いって言うか…








「さっきまでの服もいいけど…ドレスも良く似合うね。

 と言うか、そういう姿も実に板に付いている感じだ。」









「…勝手に言ってろ。」








扉が閉まる音が聞こえ、振り返ると彼女の姿が消えていた。























「お前、本当に『砂漠の虎』か?これも毎度の『お遊び』の1つか?」





「ドレスを選んだのはアイシャだよ。…それに、毎度のお遊びとは?」





「変装して街に出掛けたり、住民を逃がして街だけを焼いたりって事だよ!」





「カガリ…!」





完全に機嫌を損ねてしまったカガリは自分でも何を口走っているのか分からないのかもしれない。






「…いい目だねぇ…真っ直ぐで…実にいい目だ…。」





「ふざけるなっ!!」




怒りに身を任せ、カガリは目の前のテーブルを思い切り叩きつける。




カシャン…と音を立て、コーヒーカップがその場で倒れた。





「カガリ、落ち着いて!」






キラと2人で慌てて肩を抑えて宥める。




気持ちは良く分かる…。




カガリは仲間を失ったばかりなんだもの…。




しかも目の前の相手に…。







「君も…『死んだ方がマシ』な口かね?」




「え…」





バルトフェルドはゆっくりと立ち上がると、窓際へとゆっくり歩み寄る。







「そっちの2人は?どう思う?」





「…え…?」




彼の視線はキラと私に目を向けられている。




「どうしたら戦争は終わると思う?MSのパイロットしては…」




「お前…どうしてそれを…」





「カガリ!」






「おいおい…真っ直ぐ過ぎるのもどうかと思うぞ?」






彼の口車に乗せられたと気付いた時にはもう遅い…。






「戦争には制限時間も得点も無い。スポーツやゲームみたいに…。そうだろう?」






、下がって…』





キラは2人を庇うように、背中に2人を隠す。




窓の前には彼…

出口は入って来た扉しか無い…




どうする…?






「なら、どうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?」





どうやって…? どこで…?





彼の言っている事は…実に正論だった。




どこで終わりにしたらいい?




どうやったら終わらせる事が出来る…?









「敵である者を全て滅ぼして…かね?」






窓際に置かれたテーブルの引き出しに手を差し入れた彼は、素早く銃をこちらへと向けた。








…迂闊だった…




今のままじゃ絶対に不利…




相手は銃を手にしていて…自分の背後には女の子が2人。





隙をついて銃を奪うにしても…どうやって…?




目の前にあるソファを盾にすれば…





思考を巡らせている内に、バルトフェルドが再び口を開いた。








「銃を奪ったとしても君は撃てないんじゃないのか?」





「…今度は…撃ちます。」







彼女に…に危害を加えるつもりなら…僕は迷わずに撃てる。





彼女を傷付ける事だけは決してさせはしない。







「やめた方が賢明だな。いくら君がバーサーカーでもここから無事に脱出できるとは思えないね。

 ここに居るのは皆、君と同じコーディネイターなのだから…。」





「…お前…」





カガリは驚いた表情でキラを見る。






「それと…そっちの彼女…。」





「……」






「君も優秀な軍人だな。でも無駄な事だよ。やめた方がいい。」





…?」






スカートの裾を軽く上げ、太股に忍ばせていた銃に手を掛けようとしていたのを既に気付かれていた。







「…いつから…」




「気付いていたさ。街中に居る時から…ね。」





街中でも使うかどうか躊躇った。



着替えを勧められた時にも頑なに断った。





忍ばせている銃を見つかってしまっては一目瞭然だったから…。










「ま、今日の君は命の恩人だし…ここは戦場ではない。」





急に銃を下ろしたバルトフェルドは背を向け、銃を元の場所へと戻した。






「帰りたまえ。今日は話せて楽しかった。」





































!何をしていた!」





戻って早々、待っていたのは姉様からのお説教だった。





「…申し訳ありません。」





「まったく…お前が居ながら時間に遅れるなど…」





「バジルール中尉、彼女は…」




キラが間に割って入ろうとしたその時、の手がそれを阻んだ。






「…キラ、大丈夫。」





「…でも…」






「バジルール中尉、中できちんと報告させて頂きますので、先に彼らを中へ…。」





「分かっている…。2人は自室へ戻って各自待機だ。」





「…はい…」




姉様が先立って艦内へと入るのを確認した後、は振り返る。




「ゴメン…」




「…何言ってるの。問題を起こさないように務めるのが私の仕事だったんだもの…。」





既に彼女の表情は『軍人』へと戻っていた。




その表情にドキリとする。







「キラ、守ってくれてありがとうね。嬉しかった…。」







柔らかく微笑んだは背を向け、艦内へと足を進める。







真っ白なワンピースはとても綺麗で彼女に似合っていて…




汚れた裾を見て、胸が苦しくなるのを確かに感じた。











どうして…彼女の姿は眩しく映るのだろう…








出せない答えを胸に秘め、キラもまた再び艦内へと足を踏み入れる。

































【あとがき】

バルトフェルドさんとの出会い〜。

ちょっと軍人らしいヒロインが描けたかなぁ…と自己満足。

軽くカガリを無視してヒロインを守ってるキラが素敵♪

お互い、本当に不器用で見ているカガリが苛々してしまいそうですね…。

全体的に軽く省略しているのは大目に見てやって下さい…。







2006.1.21 梨惟菜









TOP | NEXT