君が望む暁

  PHASE−14 女神
























「落ち着いたか?」





「…はい…ごめんなさい…。」





赤く腫れ上がった瞼に残る涙の跡を見てカガリは顔を歪める。




こんなに泣き崩れていなかったら、とても綺麗な顔立ちなのに。




彼女をここまで悲しませる原因は何なのだろう?





岩場に腰を下ろしていたカガリは、隣に座る少女を見つめる。








「あ…あの…」




「ん?どうした?」




「いえ…その…私の顔に何か…?」








真っ直ぐに自分に向けられた彼女の眼差しに戸惑うは恐る恐る問い掛ける。









「あ…悪い。別に悪気があったわけじゃないんだ。」






綺麗なアメジストの瞳…



長く伸びたその髪は艶のある漆黒…。






「名前、聞いて無かったよな?私はカガリ・ユラだ。」




「あ…・バジルール…です。」




「バジルール?もしかしてアークエンジェルの副長の…?」




「…妹…です。」





そう言えば似ている…。




髪型の所為か、見た目から受ける印象はだいぶ違うけれど…。








「その…敬語、止めないか?年齢は同じくらいだと思うんだけど…。」




「あ…」




「堅苦しいのは嫌いなんだ。名前も呼び捨てでいいから。」




「…うん…」



























「で?何で泣いてたんだ?」




「え…?」




いつもなら激しく吹き荒れる砂漠の風も今日は何故か穏やかで…



風にかき消される声も今日はよく通る。








「何だか…様子が普通じゃなかったから…。」





「………」






カガリの言葉には俯く。



その横顔も端正で…10代の少女とは思えない色気を垣間見せる。










「…気持ちの制御が…出来なくて…。」




「気持ちの…制御…?」





はゆっくりと言葉を選びながら呟くように話し始める。






「多分、自分で自分が嫌で仕方ないんだと思うの。

 祝福してあげなくてはいけない筈なのにそう思えなくて…

 どうしてこんなに心の狭い人間なんだろう…って…。」




主語の含まれないの言葉にカガリは頭を捻らせる。




の話術は決して未熟なものでは無い筈だけれど、今までに経験した事の無い感情がそれを鈍らせていた。





「つまり…恋の悩み…って事か?」





そう問い掛ければ、は黙って首を縦に1度だけ振った。















先程のやりとりがあった場所のすぐ側で泣いていた彼女から推測されるのはただ1つ。






が想う相手は恐らくはキラ…。





いや…間違いなく…だろう。





恋愛に関しては奥手なカガリでもそれくらいは理解出来る。

















「相手の幸せを願えるだけの心の広さ、持たなくちゃね…。」





は寂しげに微笑みながら立ち上がった。






「そろそろ戻らなくちゃ…。姉様、厳しい方なの。」





カガリに背を向けてアークエンジェルへ戻ろうとしたその時…






!」





カガリの声に振り返る。








「好きなら…本当に好きなら好きでいたらいいと思う!」





「…カガリ…?」





「自分に嘘を吐くのが一番いけない事なんだからな!!」



























自分にだけは正直に…か…。




カガリの言葉が胸に残る。



なかなか寝付けないは、ベッドの中で何度も寝返りを打っては瞳を開く。









ビーッ、ビーッ!







枕元の通信が音を立てて着信を知らせる。




慌てて起き上がったは乱れた髪を整え、回線を開いた。









「…はい!」






『タッシルの街が…ザフトの攻撃を受けているのよ!』





「え!?」





『フラガ少佐に様子を見に行って貰っているの。

 恐らくは救護の手も必要だわ…お願い出来る?』





「はい!すぐに行きます!」

























「これは…」




炎の海に包まれたタッシルの街を見下ろし、は言葉を失った。




小高い丘に避難をしていた住民はほぼ無傷…。






「うわぁぁ〜ん!」





膝を擦り剥いた男の子が声を上げて泣いていた。






「大丈夫よ…すぐに良くなるからね…。」





救急箱から消毒液と絆創膏を取り出し、手早く処置そ施す。




本当に…その程度の治療で済む人ばかり…。







「最初に警告があった…。『今から街を焼く、逃げろ』とな…。」





「警告…?」






つまり…彼らの目的は街だけを焼く事だった…?




無駄な殺生はしないと…そういう事なの…?









「くそ…ふざけた真似を…!」




「街を襲った今なら…奴らの弾薬も切れている筈だ…!」




「仕掛けるなら今だ!!」










怒りに震える男性陣は今すぐに追撃するべきだと息巻く。







「何を言っている!そんな暇があったら女房や子供の側に居てやれ!」





サイーブが説得を試みるが、それでも怒りは治まる様子は無い。






意を決した男達はバギーに乗り、『虎』が戻った方向へと走り出した。





「くっ…!」





サイーブも追う様にバギーに飛び乗った。





















「艦長、どうする?」




フラガ少佐は冷静に艦長への報告と指示を仰いだ。





『…放ってはおけないわね…ヤマト少尉を行かせます。

 残りの車両でそちらに水や物資を送るから、後は頼むわね。』




「了解…。」







…キラ…






「…という訳だ。今の話は聞こえたな?」




「…はい…。」






「向こうは坊主に任せて、俺達は今出来る事をここでする。

 は怪我人の手当てを。」




「…はい。」


























何でこんな事になってるの…




キラとカガリの間に挟まれては眉間にしわを寄せる。








「じゃあ…4時間後にまたここで…。

 十分に気を付けるんだぞ。、それにヤマト少…年…。」





「…はい…。」




気まずそうに頬を染めたナタルはバギーから降りた3人に目配せして去って行く。







「しっかりしろよ…お前、一応護衛なんだろ…?」





そう言いながらもカガリは先頭に立って歩き始める。





も!さっさと用事を済ませるぞ!!」





「あ…うん…。」




















今までずっと戦闘の連続だったキラへの息抜きも兼ねて、街へ買出しに出る事になった。





案内役にカガリを連れて…。




…の筈が、何故かカガリのご指名で私まで同行させられている。





カガリの気配りなのか…それともキラと2人になるのが気まずいからなのか…






昨日の戦闘の後…カガリの頬が赤く腫れ上がっているのに気が付いた。




その上、キラとの間に置かれた微妙な距離…。




何があったのかは知らないけれど…何となく予想は出来る。












、大丈夫?」




「え…?」




「疲れてるんじゃない?」




「あ…ううん。大丈夫。」





少しだけ腫れの残る瞼を見て、寝不足か何かだと思ったのだろう。




慌てて首を横に振ると、キラは安心したように笑みを零す。






「なるべく日陰を歩こう。陽射しが強いから…。」





そう言って壁際へ誘導してくれた。





「あ…ありがとう…。」




その優しさが嬉しく感じ、恥ずかしく感じ…


そして、悲しく感じた。
























【あとがき】

砂漠編がとてつもなく面倒に感じる今日この頃…

年内に1本くらいは書きたいなぁ…なんて思って書いてみました。

お買い物編はヒロインを同行させるか否か迷いましたが…

この先の展開を書く上でちょっと広げておきたいと思ったので…

だって…キラとの絡みが本当に少ないんですもの…(汗

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。

次は年明けの更新になると思います。







2005.12.29 梨惟菜





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