君が望む暁

   PHASE−13 砂漠に舞う風





















「珍しいですね…少佐が怪我だなんて…。」






「そりゃあ…俺だって怪我の一つや二つ、するだろ…。」







手首に巻かれた包帯に目をやったフラガ少佐は軽く手首を振ってみせる。






「こんなの…怪我の内に入らないだろ…。」




確かに症状は軽い捻挫程度のもの。



少佐は大した事は無いと言った様子を見せた。















「あ!フラガ少佐!!」





手当てを終えて去ろうとする少佐を呼び止めた。





「うん?どうした?」




「あの…少佐も外に出られるんですよね?」





「そりゃあ…な。」




「無茶しないで下さいね?」





「分かってるよ。」

























「君…あの時の…!?」






レジスタンスのメンバーの中に居た少女の姿を見てキラは目を見開いた。





ヘリオポリスで出会ったあの少女に間違いない…。




確かに最初は少年だと思い込んでいた人物…。





しかし、帽子の奥に見えた少女の瞳に驚いたのを覚えている。













「お前っ…!何で地球軍なんかに!!」






驚いたのと同時に、彼女は拳を握り締める。





「わっ!」





その拳をかわし、彼女の手首を捉える。





「この…離せっ!!」





必死にもがく彼女の手の甲がキラの頬に当たった。













こんなに気の強い女の子は初めてだ…。





余りに新鮮な印象で、一瞬、何が起こったのか分からなかったくらいだ。






それにしても…



ヘリオポリスで出会った少女が何故こんな砂漠に…













「助けて頂いてありがとう…と言うべきなのでしょうね…。

 地球軍第8艦隊、マリュー・ラミアスです。」






「俺達は『明けの砂漠』だ。俺の名前はサイーブ・アシュマン。

 礼なんざいらんさ。分かってるんだろ?別にアンタ達を助けた訳じゃない。」





レジスタンス…



恐らくはこの地を守る為に住民達で結成した反抗勢力なのだろう。


























「え?移動?」





「あぁ…アークエンジェルは目立つからな…レジスタンスのアジトに移動するんだと。」






「そう…ですか…。」






艦長達が外に出ている間も治療に追われていた私は遅れて話を聞かされる。





レジスタンス…





ここにもザフトの脅威が…





「レジスタンスと協力して『砂漠の虎』と戦う事になるみたいだ。」





「…確かに…相手に詳しい彼らが協力してくれたら力強いですね…。」






一刻も早くこの砂漠を抜けてアラスカに向かわなければ…




事態は日々、目まぐるしく変化している。

























「あ!!仕事は終わったの?」






「あ…うん。何とかね。」





「お疲れ様。はい。」




「ありがとう。」








アジトの側に身を隠したアークエンジェルから降りると、一足先に外に出ていたミリアリアに声を掛けられた。





手渡されたコーヒーは恐らくレジスタンスの人が用意してくれた物だろう。




カップから立つ湯気に心まで温まった気分になる。








「キラはまだ忙しいみたいね…。」





「そう…ね…。彼にしか出来ない仕事だから…。」







キラはストライクに乗って目隠し用のネットをアークエンジェルに掛ける作業を行っている。





降下してからはほとんどまともに顔を合わせていない。





特に昨夜の事があって以来は…顔を合わせづらい。





キラは気付いていないだろうけど、私は見てしまったから…。




キラの部屋で…キラのベッドで眠るフレイの姿を…










?どうかした?」





「…え…?」





「浮かない顔…疲れてる?」





「ちょっと…ね…部屋で休んで来るわ…。」






ミリアリアは心配そうに気遣ってくれたけど…



話す訳にはいかないから…




ミリアリアにとってはキラもフレイも大事な友達…。





私の個人的な感情に彼女を巻き込むわけにはいかない…。






















「オーブの子じゃなかったの?それとも元々はこっちの人なの…?」





「え…!? それはその…っ!」






艦へ戻ろうとした時、岩陰の向こうから声が聞えて来た。




1人はキラのもので…もう1人は聞き覚えの無い女の子の声…




そう言えば…レジスタンスに女の子が1人居たってノイマンさんが話してくれたっけ…。





会話の内容からして…2人は初対面じゃ…無い?





それにしても…



艦に戻るにはこの道を通らないといけないのに…どうしよう…。




会話の中に入って行く勇気も無ければ、キラと顔を合わせる勇気も無い。





今の私はいつも以上に臆病になっていた。





特にキラへの感情を認めてしまったあの日からは私の心は不安定で…




ちょっとした事で揺れて戸惑って…





叶わぬ恋なのだと分かっているのにも関わらず、自分の心は勝手に求めて期待して傷付いてゆく。




自分でも抑える事の出来ない感情…。




忘れたくても忘れられないもどかしさ…切なさ…






いっそ…出逢わなければ良かったのに…




恋も愛も知らないまま生きてゆけたら良かったのに…




















「煩いわね!話ならもうしたでしょう!?」





今度はフレイの声が岩陰から聞えて来る…




その声に我に返った私はコッソリと岩から顔を出した。





岩の向こうにはキラと例の少女と…



そして何か口論をしているフレイとサイの姿があった。









「キラ!!」




急にキラの腕にしがみ付いたフレイを見て、サイの顔が曇る。





「フレイに話があるんだ!キラには関係ない!」




「関係なくないわ!」







今までの様子を見ていればこの状況は何となく理解出来る…。




サイはフレイを想っていて…それはフレイも同じで…



でもフレイは…キラを選んだ。




その経緯は私にも分からないけれど、サイが理由を問うのは当然の事で…




「私、昨夜はキラの部屋にいたんだから!!」









フレイの一言でサイは目を見開く…





「フレイ…?君…どうして…」



「だからもう、サイには関係ないでしょう!?」






フレイはキラの腕を引き、艦へ入ろうと促す。






「フレイ!待って…」




それでも彼女を追うサイに、キラが振り返って腕を掴む。






「キ…ラ…?」






その瞳は冷たく…私の知っているキラの瞳では無いように見えた。







「フレイは…優しかったんだ…

 ずっと側に居てくれて…大丈夫だって抱き締めてくれて…」






そう…優しかったんだ…



僕を守るって…そう囁いてくれた…




自分に言い聞かせるようにサイに告げる。







「僕がどんな想いで戦って来たのか…誰も知らないくせに…っ!!」

























「キラ…大丈夫よ。私はあなたの側に居るわ…」





「フレイ…」





腕に絡められた手を強め、フレイは柔らかく微笑む。








「どうしてあんな事を言ったの…?」




「え?」





「サイに…何であんな…

 確かに君は僕の部屋に居たけれど…何も無かったじゃない…。」






そう…



何も無かったのに…




あれではサイを逆撫でしてしまうだけ…








「僕は君を拒んだのに、どうして君は…」





「それでも…キラを守りたいと思ったらダメ…?」







僕が求めているのは…別の人…




けれど…一番遠い人…





それでも求めてしまう…



けれどこの想いは口には出来ない…





彼女を困らせてしまうのだと分かっているから…。







彼女には…には笑っていて欲しい。




これ以上、辛い想いをして欲しくない…




頑張っている彼女を陰で見守るだけでいい…




彼女の負担にならないのであれば…それでいい…










『あんな風に想われて幸せじゃない…。』






それが彼女の気持ちなのだから…




























「…っ…」





堪えていた涙が溢れ出し、足元の砂地に落ちてゆく。




ポタポタと…頬を伝い落ちてゆく。







『僕がどんな想いで戦って来たのか…誰も知らないくせに…っ!!』





キラの叫び声が頭に焼き付いて離れない。



何度も何度もリフレインして私の胸を締め付ける。







分かってる…つもりだった…







キラがどんな想いで戦って来たのか…



辛い想いも沢山して…傷付いて…





だからもう…傷付いて欲しくないと…そう願っていた。






けど…キラはもっと苦しんでたんだね…




きっと、私が思っている以上に傷付いてる。







理解したつもりでいた自分が恥ずかしくて情けなくて…




そして…受け入れて貰えたフレイが羨ましくて妬ましくて…










それでもキラが好きで大好きで…










「ふぅ…っ…」





今にも倒れそうな自分を支えながら、岩に手を添えてしゃがみ込んだ。





もう嫌だ…






キラとフレイが並んで立つ姿を見るのも…




フレイに対して醜い感情を抱いている自分も…





全てを投げ出して何処かに行ってしまいたい衝動に駆られる。




















「…大丈…夫…か?」







「…え…」




急に頭上から声がして…反射的に顔を上げる。







「泣いてるのか!?」






自分の顔が涙でグシャグシャだったのに今更気付き、慌てて顔を伏せる。





さっき、キラと話していた少女だ…。





キラが艦に戻ってしまったから自分も戻る所だったのだろう。





そこで私と遭遇してしまって…








「だ…大丈夫です。気にしないで…」




「そんな事言ったって…こんな場面見て放っておける訳がないだろ!?」





「え!?」






急に腕を引かれ、強引に歩かされる。




目の前にはサラサラと揺れる彼女の金髪…。































【あとがき】

もう…何と申したら…(汗)

こちらも久し振りも更新。

進まない進まない…で大変困ってます。

一応、小説を引っ張り出しては来たのですが、

セリフは変えるわ流れは変えるわ…でメチャクチャですね…ハイ。

ようやくカガリ登場。

今度はカガリに頑張って貰おうかな…と思いつつ、

やっぱり先の展開に試行錯誤…です。







2005.12.5 梨惟菜













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